第10話 血の選択

赤い液体の入ったワインボトル。


「血」の入ったワインボトルをデスクの上に置き、おれはベットに寝転んだ。


(そういうことか・・・ターナー)


・・・


おれはとりあえず、先ほどターナーから渡された小冊子。ターナーとその仲間が作ったという。《LOST・DARKS(仮)取扱説明書》を手にした。


ターナーはおれより遥かにこの世界の情報、知識を持っている。

一方おれは・・・改めて考えるとこれからどうしたらいいのか全く分からない。


(おれはこれからどうしたらしいんだろうか。一体何をすべきなのだろうか)


ペラペラとその冊子をめくっていく。この世界で知らなかったかなりの情報が記載されており、おれは必死にその内容を頭にいれていった。


世界観、職業、スキル、クリーチャー。それぞれの等級クラス。ホームや街などの施設とシステム。レートについてなど。


やはりこの世界はゲームのようなものだ。


命の懸かったゲーム。


凶悪な敵の手にかかって目の前で命を落としたイザキさんやホウジさん、トシマさん・・・ユウアさん。彼らのことを再度思い出す。そしてホームで襲い掛かってきたホギイさんたち・・・マルコス。


思い返しても信じられない、まさに死線だった。

目覚める直前まで、おれはどこにでもいる高校生だったはずなのに。


(おれが・・・おれがやるべきこと・・・)


考えを巡らせてどれくらいの時間が経っていたのだろう。


おれはテーブルのワインボトルに目を向けた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


悪夢を見ている。


聞こえ覚えのない。恨みつらみの声が頭の中に低く響く。

深淵に引きずり込まれるような、闇の声だ。


声も出ない、どれほど続いたのかもわからない。


(・・・さん。・・・ビトさん)


かすかに、希望をくすぐる声がした気がしたとき。


「はっ・・・!」


今が朝なのか夜なのかわからないが、おれは目覚めた。部屋にはシャワールームが備えられおり、汗を流したあと再び黒装束に身を包み部屋を後にした。(これしかないんだよな・・・)


ターナーは昨日と全く同じ場所、テーブルの前の椅子に座っておれを出迎える。

「グッドモーニング。タビト。あの娘・・・エグザが無礼を働かなかったかな?」


「いや、おはよう。ターナー」

あの扉の前に立っていた女性の名前はエグザというらしい。

「よく眠れたかな?」

あっけらかんとした態度はなにも変わっていない。


「ターナー、君に一つ聞きたいことがある」

ターナーの質問に答えず、おれは確認したいことを聞いた。


「なにかな?」


「君の目的だ」

ターナーがこの本棚だらけの空間でなにをしているのか、このゲームに対してどういう立場なのか、彼は自身の目的のためにおれを助けたのは確実だった。


「ボクの目的か、当然気になるだろうね。ボクがなぜ君を助けたのか・・・答えてもいいけど、それには一つ条件があるな」

もったいぶった態度をとって、おれのことを好奇心の目でみることをやめない。


「・・・あのワインボトル」


「イエス!もし君にあの血を飲む選択ができるなら、ボクの目的を教えてあげてもいい」


「・・・」


「勿論強要はしない。飲まなくても結構さ、飲まなかったところでボクは君に何も危害を加えたりしない。そのまま君のホームに送り返すだけ」


「ホームは完全とはいえないが安全だ・・・誰とも交流せずにそこからつかず離れず生活するのはそこまで難しくない」


「実際にそういうプレイヤーが腐るほどいるんだ」

そこでターナーがパチンと指を鳴らすと、すらっとしたエグザがおれの部屋にあったワインボトルをもってターナーの後ろにやってきた。


「どうする?タビト」


「ターナー・・・」

おれはため息をついた。


そして右手で鞘にはいったままの〈夢幻の骨剣〉をもつ。


「「!!」」

ターナーはニヤリとした表情で驚きながらそれを見守り、エグザはボトルを手に持ちながらも臨戦態勢に入る。雰囲気が別格に変わった。


「《フラッシュ・ライト》!」

おれがそう叫ぶと、〈夢幻の骨剣〉が鞘にはいったまま、パァッと輝きをともし、すぐに収まった。


「・・・どうだ、驚いたか?ターナー。昨日のお返しだよ」


「く、くくく・・・あははははっ!!」

ターナーは嬉しそうに大声で笑い声をあげる。見た目どおりの無邪気な笑い声だ。


「こんなに笑ったのは本当に久しぶりだ!!エグザ、君は知っていたのか?」


「ええ、マスター。このワインボトルは空っぽです」

エグザは手に持ったワインボトルを揺らしてみせる


「なんでそれを先に言わない!色々とタビトに言っていたボクがバカみたいじゃないか!それにさっきの臨戦態勢は本気だっただろう!」

楽しそうにターナーは言うが・・・タビトはさっきのエグザの雰囲気には本気でビビってしまっていた。


「聞かれなかったので。どちらにせよマスターに危害が加えられそうな可能性が少しでもあるのなら、しょうがないのです」

エグザの忠誠心は呆れるほど高く、疑問の余地のない言葉遣いをする。


「ははは、確かにそれは君らしいね」


「さて、タビト。ボクが聞くまでもなく君は・・・この世界で、戦って生きていくという選択をしていた。ということだね」


「ああ。このふざけたゲームをクリアして・・・この世界をぶっ壊す」拳を握りしめる。この思いは、死んでいった皆の思いを乗せている。このゲームをこの世界を消し去ること。それが唯一無二。彼らへの最大の報いになり・・・これ以上の死者を出すことのない最善の方法だと考えて。


「ターナー、君たちも目指しているんだろう。このゲームのクリアを」

そう。取扱説明書の作成といい、世界観の作成といい、ターナーたちがこのゲームを「攻略」しようとしていることは考えれば明白だった。彼らは「攻略」のための・・・おそらく仲間を探している。


彼らの仲間になり、有利な情報を得ていくことは、今選ぶことができる最善の選択。


・・・力を得るため。血を飲み、肉を喰らうことさえも、死んでいった者たちへの「弔い」にする。


それが【亡骸喰いデッドイーター】のおれにできる事だ。


「・・・グッド。タビト、君は本当に素晴らしい。ボクの目的はこのゲームのクリアだ!それがこの世界からの脱出に100パーセントつながるとは断言できないが・・・最大限ボクらは協力することができる」

ターナーがこちらに手を差し出す。


「改めて、【神智の司書セオソフィー・ライブラリアン】ターナー・ロスチャイルドだ」


「【亡骸喰いデッドイーター】イセ・タビト。よろしく、ターナー」

おれは彼の小さな手を握り、ゲームクリアへの歩みを進める。


※おまけ

ターナーが血の選択によって手に入れたスキル。

●《狩人の一閃ハンターズ・ワン》必要条件:弓所持

 スキル内容:狩人の営みは弓との営みともいえる。原初の有力狩人かりびとたちは、狩りに有用な五つの基本弓技を生み出した。これはそのうちの最速の一射である。

●《石削打》必要条件:特になし

 スキル内容:鋭い石を削り出すために生み出された技。器用に打ち込み対象を削る。サバイバルと同義の日常では、これは意義のある発明だ。

●《フラッシュ・ライト》必要条件:特になし

 スキル内容:掌、或いは所持した道具から一時的に大小融通の利く光を灯す。光は魔術師たちが遠方からの合図に用いていたが、近距離での目眩ましにもなる。存外有用な技。

●《アイシクル・貫通弾シュート》必要条件:特になし

 スキル内容:鋭くとがった氷弾を一直線に打ち込む。魔量が高い者が使用したとき、それは大木にも穴を空け得る。

●《アイシクル・散弾ショット》必要条件:特になし

 スキル内容:小粒な氷弾を拡散して放つ。たとえ近距離だとしても、恐れれば外れるものだ。

●《槍討スピア・スタブ》必要条件:槍所持

 スキル内容:汎用の槍は海人たちが得意とする。つまり銛のごとく槍を正確に打ち込む。

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