第7話 イセタビトVS初心者狩り集団
「ホ、ホギイさん・・・」
「タビトくん。悪いね。これも生存戦略ってやつさ」
ホギイは用心深く一定の距離をとっている。既にその手には短く細い剣を手に持っていた。
そして今は後ろからやってくる仲間を待っていた。
「ホギイさんもプレイヤーなんでしょう!なんで・・・人が死ぬんですよ!!」
「ちっ・・・なんだ。やっぱり初心者みてぇじゃねぇか。さっきのはまぐれか?」
タビトの話を一切聞くつもりはないような態度でいいながら、ホギイはタビトの後方にちらちらと目をやってることに、気づく。
(・・・ホームの入口をみてるのか?)
「!《
「!!」
ホギイはタビトに自分の考えが気付かれたことを察し、鋭く剣を放っていた。
剣は白いオーラを纏い、切っ先が眩しく暗闇をタテに割る。
「う、わぁ!!」
ホギィの奇襲に後ろに後ずさると、その踏み込みはタビトの予想を超えた跳躍力を見せた。
タビトは飛び上がり、ホギイの視線は一、二メートルほど前方上空に注がれた。
「な・・・!!」
ホギイは先ほどのタビトの異常な反応に恐れ、攻撃の踏み込みが足りていなかった。
それに加えタビトの跳躍力は彼の理解を超えていたこともあり、その頭は少しパニックにもなっていた。後ろで見ていたその仲間たちも驚く。
「き、消えた!?」
さらに驚いたことに、飛び上がったタビトの姿が、そのあとすぐに視界から消えたのだ。
〈亡骸喰いの黒装束〉。それは完全に闇夜に紛れ、タビトの姿かたちは暗黒の一部と同化していた。そしてそのまま音もなく着地する。
タビトは自分の動きに驚いたが、すぐさま近づいてくる松明たちに気付かれないように息をひそめた。
「ど、どこだ!」
「照らせ!!」
「《フレイム・ライト》」
後ろから素早く駆けつけてきた一人が杖を掲げ、火が周りを照らす。
「い、いたぞ!」
「う・・・!」
タビトの姿は広範な光に照らされてしまっていた。その瞬間。タビトは光の外へ走り抜ける。
(今は逃げろ!!)飛び上がった時にホームから離れていたため、咄嗟に回りの山に逃げ込むしかなかった。
「逃げたぞ!!」
「《アイシクル・
「うわっ!!」
ここでもタビトの動きは予想を大きく超え、向かってきた素早い氷の塊を寄せ付けずにホギイたちの視界から消えていった。
「くそっ!」
「ホギイ。この闇の中・・・やばいぞ」
「わかってるよ!くそが・・・シジンの野郎が一撃で仕留め損なったせいだ・・・」
(・・・なんでこんなことに。めんどくせぇことになりやがった)
「ホームの入口だけは張ってろ!他のやつは追うぞ!」
「・・・」
ホギイの命令にそこにいた者たちの反応が鈍い。タビトの動きに明らかに恐れを感じている。
「しくじったらおれたちが殺されんぞ。ガイセイの野郎に」
「ああ・・・わかってる」
ガイセイという言葉を聞いたとき、その場にいた者の空気が明らかに一変した。
ピリピリとした空気に、ホギイは汗をかいている。
「オイオイ、逃しちゃったの?キミタチ」
そこにいつの間にか現れたのは、二メートル近くある巨躯に蛇の装飾が施されたメイルを纏った男だった。
凶悪そうな顔つき、黒い肌は首と顔面に蛇のタトゥーが入っている。
「う、あ・・・リーダー」
「オレのことは将軍と呼べといっただろ?」
その圧にホギイは声をだすことができなかった。
「将軍・・・」
「マッタク・・・いいよ。早くゴー」
手を振って急かす。
「しばらくシテ連れてこれなかったら。オレが勝手にいくゾ」
「は・・・はい。将軍!」
「行くぞ!てめぇら!」
「はい!!」
その時、タビトは山の中を素早く、上に上にと駆け上がっていた。
「おい!そっちいったぞ!」
「どこだよ!!」
「うわ!近くを通った!」
あちこちから声があがる。
(なんで・・・だよ)
闇雲に人のいないほうに駆けながら、心はホギイたちの奇襲に戸惑い恐れる。・・・しかしその気持ちと裏腹に、同時に急速にこの事態を受け入れ心を落ち着いていく実感もあった。
(もう、慣れてしまったたのだろうか?こんな世界に)
急ブレーキをして、一段と大きな根の下に身体を落ち着かせた。
「はあ・・・ふう」
目をつぶり深呼吸をして、さらに気持ちを落ち着かせる。
そしてゆっくりと目を開けると、この山の様子を驚くほど冷静に把握することができた。
今は山の中腹あたり、それより下方から松明の炎がいくつか。見下ろした中央に先ほどいたホームがある。ホームの入口近くにも松明の炎が一つ。おそらく見張り。
(思ったより・・・どうにかなるかもしれない)
多分、ホームに逃げ込めばなんとかなる。こいつらが諦めて引き上げるか、その前に見張りを倒して駆け込めばいい。
(松明で場所がわかるのが救いだ・・・逃げ切れるぞ!)
息を潜めて、松明の炎が近づいたら場所を変える。それを繰りかえす。
森の木々の中に身を隠すのはこれで二度目。
タビトはこの世界への適応を驚くほど速く進めていたことに、自分でも気づかなかった。
逃げ切ることを考え、タビトはふっと自分の気配を消すことに集中し始める。そのとき、タビトを包み込むように、牙のある髑髏が纏わりつく。それはひどく禍々しいオーラだ。
「・・・ウン?」
一人の男はその気配に気づいたようだった。
今、タビトのホームの前で座っていた巨躯だ。男の足元には狩人らしい恰好の男が横たわっている。首の骨が折れ、すでにこと切れていたていたその男はタビトに矢を放っていた男だ。
「ナーンカ、妙な気配。このザコドモじゃ・・・いつまで経ってもムリか」
森の中、男たちは焦りを隠せなかった。
「ホギイ・・・無理だぞこれ」
「松明を消したら互いの場所も分からなくなる。《フレイム・ライト》は有効時間が少ないしすぐ逃げられちまう」
「わかってる!」
ホギイは苛立ちながらも気付いていた。最早ターゲットが自分たち見つからないことに。
(クソ役立たずのザコ職どもが・・・!!結局奴隷みたいに扱われちまう!!)
「ホ、ホギイ・・・」
隣の男の問いに、考え込んでいたホギイは答えなかった。
「ホギイ!」
「んだよ!今考えてんだ!」
「・・・ガイセイの野郎が、くるぞ・・・」
「!!」
ホギイがタビトのホームのほうをみると、すでにその男は動き始めていた。
「やべぇ、ま、巻き込まれる!!みんな逃げんぞ!!」
余りにも強烈な殺気を放ちながら。
その殺気はゲームらしくどす黒いオーラを放ち、現実に強烈な破壊力を及ぼす。
ミシミシと空気を揺らし、木々を揺らす。
「・・・!!!」
強い寒気、悪寒の中。タビトは立ち上がりその殺気の下。ホームを見下ろしてしまった。
瞬間。確かにその巨躯と目が合う・・・
かなりの距離があったはずだった。
「・・・ハケ~ン」
その言葉と同時に、男はその巨躯にふさわしくないバネを発揮した。
その両手には身体ほどの長さの斧を持っていた。
「《
男はその跳躍の中、手に持った巨大な斧を竜巻の如く回転させて向かってきた。
竜巻は範囲を拡大していき、木々と人々をなぎ倒す。
「ぎぃやッ!」
「うぁぁうぁうぁぁぁ!!」
「あぐッ」
逃れられず巻き込まれ、松明を持っていた者たちは軽々と身体を引きちぎられ、炎とともにその命までも消えていった。
山の木々をなぎ倒し、造り出された道はタビトの居場所へとつながっていた。
男は今、タビトの目の前に立ちふさがっている。
「こーんなキッズが隠れていたのですね~。先ほどの気配はナンだったのか・・・」
男はじろじろとタビトを見下ろす。
「【
タビトはマルクスの出現、その迫力に身体がすくんで、とっさに声がでない。
二倍以上の体格差があるように思えた。
(名乗れ・・・この世界では『職はその名を示し、名は生を誇る』)
!!
「・・・おれは・・・【
口から言葉がふとでてくる。
「「こい・・・デカブツ」」
挑発的な態度とともに、タビトは夢幻の長剣を鞘から抜き出して構える。
「ククク・・・面白いデスねぇ!!!」
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