第6話 呪われたホーム
「う、あ・・・?」
白い空間から解放されてタビトが目覚めたのは、荒れ果て、ところどころが崩れ落ちた廃墟。
月は薄い雲に覆われ、月光は十分ではなかった。
その隅のガレキの上、冷たい壁に寄り掛かっておれは座っていた。
打ち捨てられ、破壊された大きな像がーそれがなんなのかはわからないー横たわっている。この廃墟は教会に見えた。
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チュートリアルクリア報酬:〈亡骸喰いの黒装束〉
アルゴスの無限回牢レアルームクリア報酬:〈
ホームの報酬ボックスにて受取可能。
他:レートポイント1000+110 現在1110p
職業値 0+2 現在2p
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パッと目の前に文字が浮かび上がる。
「・・・」
人狼との戦い、ユウアとの会話が心に残り続け、すぐに言葉はでてこなかった。
身体の痛みより怒りと悲しみが勝った。
それでもボーっとし続けるわけにはいかない。ユウアに托された「生きて」という思いを無視することはできない。
「・・・くそっ!!」
おれは自分の足を叩き、立ち上がった。
(ここは、ホームってことか)
視界にはいっていた白い箱に目を向ける。この何もかも汚れていて煤けた廃墟のなかで、その箱は傷一つなく、輝きを放っていて明らかに異質だった。
「報酬ボックスか・・・」
このふざけたゲームにのっかりたくはないは、その拒否権はない。そして生き残るために必要なのは・・・やはり強力ななにかだろう。報酬とはそういうものが入っているにちがいない。
その滑らかな箱に手を触れると、箱に白い魔法陣のような紋章が光って浮かびあがり、不思議な音を立てて開いた。
上下一式揃った黒づくめの服。グローブ。牙が生えた骸骨のマークが入ったマントもついている。〈亡骸喰いの黒装束〉なのだろう。
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●〈亡骸喰いの黒装束〉種類:上下服 クラス:アンコモン
古より、亡骸喰いの下級卒が身に着ける暗色の制服。元来、無地であったがとある王家に仕えた際に、牙を持ち祈りを捧げる骸骨の紋が刺繍された。亡骸喰いの下級卒は正に宵闇とともに紛れ、軽々と動き回った。
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パッと目の間に説明文が現れる。これは今、タビトが心のなかでこの装備の説明を求めたことに呼応した。
(亡骸喰い・・・おれの選んだ職業にあわせた報酬がもらえたのか)
そして、紫色の装飾の長い剣も手に取る。自分の腰から足元までの長さはある。〈夢幻の骨剣〉。
おれはその剣の柄、金属ではないごつごつとした手触りのそれを握り、そっと鞘から剣を出した。
剣身も紫になまめかしく光っている。おれはその不気味な色に、恐れと・・・少しの魅惑を感じた。
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●〈夢幻の骨剣〉種類:長剣 クラス:レア
何の変哲もない長剣に骨の柄と幻惑の力が施された。そのとき剣身は紫苑に鈍く光りを湛え、とある戦では数十にも上る死者を生み出したとされる。その戦をはっきりと覚えている者は、その使い手以外にはいない。切りつけられた者に血の惑わしを与える。
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「「夢幻・・・久しぶりだな」」
その言葉が、自分の口から出たことに気が付いてハッとした。
慌てて剣を鞘に納める。
「なんだこの剣」
考えても答えはでてこない。
そのとき廃墟に流れ込んだ風に、タビトは寒気を感じた。人狼との戦いのなか雨に濡れ、身体にはりついていたのは制服のワイシャツだ。
(さすがに着替えたほうがいいよな)
この制服はタビトが生きていた世界の残滓。それを脱ぎ捨てこの世界の服装に袖を通し、グローブをつける。
〈亡骸喰いの黒装束〉。その黒い装束はタビトの身体に心地よくしつらえられていた。
ぴったりすぎる。アンダーシャツのような生地は滑らかだが強靭。
ズボンにはいくつかのベルトがあり、様々な武器を装着できるのかもしれない。
そしてマントに牙が生えた髑髏の紋章。よくみると骸骨は顔の前で掌を合わせていた。
これが【亡骸喰い】のマークなのだろう。
(これが・・・単なるコスプレだったらよかったんだけど)
自身の恰好におかしさを感じたがしょうがない。
「おーい!だれかいるのか!?」
!!
丁度、そのマントを装着したとき。急に外から声が聞こえてきた。
声がした方向に目をむけると、そこに確かに人がいるのが気付いた。
白い鎧を付けた短髪の男と目があう。男は松明を手に持ち暗闇を照らしている。
「おっ、やっぱりいるじゃないか。君!もしかして新人のプレイヤーかな!?」
その男は声が大きく、少し距離があったがハッキリと聞こえた。
「あ、そうです!」
おれも大きな声でそれに返答した。
「おれもプレイヤーだ!ちょっとこっち来て話さないか!情報交換でもしよう!」
「わかりました!」
人狼との戦い後に喪失感に襲われていたおれは、少しほっとした気持ちになった。
イザキやホウジ、トシマのように他のプレイヤーがいることに安心する。
おれはその男のほうへ歩いた。男はこの崩れた教会の入口がらしき場所の外にいる。
「ほら、こっちで話そう」
男は手招きをしている。
おれはそこに駆け寄った。
「ど、どうも、おれはイセタビトっていいます!」
「タビトくんか、おれはホギイだ」
「ホギイさん。おれ、いきなり・・・」
そこでホギイはおれの言葉をさえぎって片手をそっとあげる。
「タビトくん。何か聞こえないか?」
「え?」
おれが答えた瞬間。
「《
どこからか高速で矢が飛んでくる。風切り音が闇夜を裂いてタビトの側頭部に突き刺さる。
ガキィンッッッ!!!
・・・かに思えたその瞬間。おれは・・・左手に、何も考えずに報酬ボックスで手に取り、着替えの後なんとはなしに持っていたそれに救われた。
〈夢幻の骨剣〉。 左手がいつの間にか動き、その鞘で高速の矢を弾いていた。
「な、なに・・・!?」
おれはあっけにとられ何も話せずにいたが、目の前にいたホギイがそう口にしてハッと気づいた。
おれは今、殺されるところだった。
目の前のホギイと、その仲間に。
「ちっ!ビギナーじゃねぇのか!」
そういったホギイはバッと後ろに跳んで下がった。
その目はおれの剣を見つめている。
「偶然だろうが、サシでやるのはめんどくせぇ。おらお前ら!」
ホギイの言葉が暗闇に響き渡ると、背後の山々に点々と光が灯り始めた。
松明の炎の中に幾人ものプレイヤーの顔が浮かび上がる。
「へへ・・・あの変なガキが言ってたことは本当だったみてぇだなぁ」
「シジンの野郎、一発で決めるって言ってたくせに」
「はは、まぐれだろ。おれたちの出番ができてよかったじゃねぇか」
「ホームにいれんじゃねぇぞ。めんどくせぇからな」
その松明の炎は十を超えていた。
「さあ、楽しい楽しい初心者狩り開始だ」
「ホ、ホギイさん・・・」
タビトの絶望の戦い。その第二戦がはじまる。
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