第2話 現れる爪
「さきほどはみなさんタビトさんのお相手をできずすいませんでした・・・私はユウアといいます」
白い道を二列程度で行く中で、隣にいた少女ユウアがタビトに話しかけてきた。トシマは少し離れた前の一団に入り、話している。
「あまり余裕がなくて」
「えっ!あッいえ!そんな・・・」
完全に虚を突かれて焦る。手と手を合わせたってことをひいき目にみても、このユウアという少女はかわいい。タビトはそんな子と話すコミュニケーション能力が欠如していた。
「この世界、不気味ですよね・・・」
「そうですね・・・なんていうかなんの説明もなくて不親切だし・・・」
「私のときもまったく同じです。真っ暗な視界に三つの職業の選択肢がでてきて、一つ選んだら扉しかない白い部屋で目が覚めました。最初は夢かと思ったんですが」
「同じですね」
「ただ、私のときはもう三名、同じ部屋で目を覚ましていました」
「えっ!そうなんですか」
(ここにも違いがあるのか・・・)
「はい、私を含めて男性二人女性二人でした。そこでわけもわからず話をしてると、後ろの扉からイザキさんたちがやってきたんです」
「なるほど・・・じゃあユウアさんは今回で2回目の敵部屋ってことですか?」
四人プラスと魔法使いの男はさっき言っていたから、彼女の話はすぐ最近の部屋でのことだろう。おそらく、【仲間部屋+4人(ユウア含め15人)】→【敵部屋-8人(7人まで減る)】→【仲間部屋+1人(タビトを入れて8人)】→【敵部屋(今回:人狼)】という順番だ。そして、この話から確実に嫌な予測が立てられる。女性が二人目覚めていた。しかし、今のメンバーには女性はユウア一人だ。
「はい。そこでイザキさんたちに色々この世界のことを聞きました」
(あいつ・・・俺一人のときはなにも説明しなかったくせに)
「職業のこととか、能力のこと。部屋を選んで敵を倒していくこととか・・・」
「彼らも、置かれている立場は大体一緒ってことですね」
(この部屋の繰り返しが続くのか・・・?)
「でも・・・イザキさんはもうすぐホームに帰れるんじゃないかとも言ってました」
「ホーム・・・?」
「はい。そうすれば多分この部屋の連続からはでられるんじゃないかと」
「ホームか・・・ソーシャルゲームでのホーム画面とか、拠点みたいな意味ですよね」
それ以上はなにも分からず、次に職業の話になった。
「タビトさんの【亡骸喰い】って、はじめてみた職業でした。っていっても先ほどのメンバー分しか調べたことなかったんですけど。イザキさんたちも知らなかったみたいなので、珍しいと思います」
物騒な名前だし、選んだ人がいないのも原因なのではないだろうか。と思った。
「あ~、そうですね。あまり考えずに選んじゃって、何ができるかもわかんないんですけど・・・あ、そしたらユウアさんの職業は何だったんですか?さっきはリードっていう風につぶやいてましたよね?」
「はい。私は【占い師(テーラー)】という職業で・・・さっきのは《読み取り》という何かしらの情報を得られる技で、最初からもっていたみたいです。ホウジさんが言うには、それなりによく見る職業と能力らしくて」
なるほど、【占い師】という職業と情報を読み取る能力。これはゲームとしてはよくありそうな設定だ。
(それならば、【亡骸喰い】という職業では何ができるようになるのだろう?)
「能力とかって自分で確認する方法はあるんですか?」
ユウアは答える。
「頭の中でスキルを見ようとすれば確認できると思いますよ」
最初にシステムがその説明をしてくれればよいのに、つくづく不親切なシステムになっている。
しかしさっきユウアさんに《読み取り》を唱えられたとき、スキルがないと言われたとおり、確かになかった。
次に一目見たときから気になっていた質問をちょうどいいタイミングだと聞いてみた。
「その占い師の服とか杖は最初から着ていたんですか?皆さんそんな感じの着られてますよね」
「あっ、これは・・・前回の敵部屋の報酬で。コスプレみたいですごい、恥ずかしいんですけど・・・」
突っ込まれたくないところだったようで、頭をさげ顔を赤くしている。最初からそうなのだが、ユウアさん、ゲームキャラじゃないとしたら、その服装似合いすぎ・・・
「なるほど・・・」
じっとみてしまっていたのがばれたのか、杖で腰を小突かれた。
その後も、ユウアさんからいろいろな話を聞くことができた。前の部屋ではアンコモンの【
戦闘に参加した人や、パニックになってしまった人が何人もやられてしまい、結果として残ったのが、ユウアさんを含めた七人だった。報酬を受け取った後に、次の部屋へ進んだところ、先ほどの状況になった。
少し情報は得られたものの、置かれた状況は同じで、ユウアさんは今回で2回目で自分同様のほぼ初心者・・・職業や能力、装備のこと、そしてそもそもの「この状況」について、疑問は山積みだ。イザキやホウジに聞いたほうがより情報を得られるだろう。あとで聞ければいいのだが。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
白い道は、いつの間にか鬱蒼とした森の獣道になっていた。
その時刻は夜で、月の光は細い。空は木々の重い葉っぱで覆われていた。
ジメジメとして汗が噴き出し、それが持ち悪くて額を拭う。タビトは黒い学ランの上着を脱いで、ワイシャツ姿になっていた。
(これが夢かゲームがだなんて、とても思えない)
身体全体にのしかかる空気が、タビトにそう思わせていた。
一行は沈黙に包まれている。
ガァーッガァーッ
!!
上空から鳥の鳴き声のようなものが聞こえ、全員が身震いをした。
「フッ・・・ビビるなよ、お前ら。コモンの敵はこれまでもなんとかなってきただろ。余裕だよ」イザキが声をあげる。
「なあ、ホウジ」
イザキはホウジのほうを向く。
ホウジは途中からしきりに顎に手を伸ばし、考え込んでいる様子だった。
「おい、どうしたんだ」
再度、イライラした様子のイザキが聞く。
そこでホウジはイザキに答える。
「いえ、ちょっと・・・いつものコモンのときと様子が異なる気がして」
「どこがだ?」
「コモンと、アンコモンの部屋もそうでうしたけど、通路を進んだすぐ先に目に見えて敵が待ち構えているパターンがいつもだったので」
(そうなのか・・・)初めてのタビトには知りようがなかった。
「たしかに、さっきの【亜人の墓守】の部屋はそうだったような気がします・・・」
ユウアが小声でタビトにだけ言う。
「まあ、そうだが。その敵の部屋にまだ着いてないんだろ?こういうパターンだってあんじゃねぇの?」
イザキはホウジに言う。
「えぇ、そうだといいんですが」
「ビビらせること言うんじゃねぇ。こんな話をしてるときにやられたらお前のせいだからな」
イザキは前を向きなおって歩を進める。タビトはその動きが少しぎこちなく見えた。
また、一行はしばらくの間、おそらく三十分は暗闇の森を歩いただろうか、木と木の感覚が少し開き、月明かりが少し射しているところで、ホウジは手を挙げてみんなを制止する。
「さすがに・・・ちょっと休憩しましょう。それにここまで敵が姿を現さないなんて、なにかがおかしい」
「休憩してるときにくるかもしんねぇだろ」
イザキはこの湿気と、いつ敵に襲われるかもしれないという状況にピリピリしている。
「それになんか変だってどうすりゃいいんだよ」
「それを今から考えるんです」
「もうこれ以上こんなとこでノロノロとやってられるか!!」
イザキは声を荒げてホウジの服をつかんだ。
ガァーッガァーッガァーッ!
また、すぐ上空で鳥の鳴き声が場に響いた。
その時―。
黒い影が通り過ぎ、イザキの頭部が突然ホウジの目の前から消え去った。
服をつかんでいた手はそのままに、胴体は地面に崩れ落ちる。
ホウジの顔は赤黒く染まって倒れ伏すイザキの胴体を見下ろす。
!!!!??
「敵だ・・・」
ホウジが声を絞りだした。
おれを含め、その場にいた全員がその状況についていけてなかった。声がでない。
ガタガタとホウジの膝が震えている。
「バ、カな、こ、このレベルの敵、がが・・・コモン・・・?」
ホウジは口から血を吐き出し、どさりと横に倒れた。
彼の首筋は一瞬にして先ほどすでに切り裂かれていた。
「きゃああああああああ!!!」
おれの横でユウアが叫び声をあげる。
その悲鳴は、その場にいた全員を現実に戻す。
イザキとホウジが倒れているそのすぐ先。月明かりが異形を照らしていた。
2メートルは超える巨躯。筋肉で盛り上がった銀色の毛で覆われた上半身。今しがたついたばかりの血で汚れている。右手には大振りの血のついた長剣をもっており、左手にはイザキの頭部、
髪の毛をつかんでいる。二足で人間のように仁王立ちしているが、その顔は狼のそれである。
【人狼】だ。
「グルルルルルウルッ!! ゴォォォォォッッ!!!!」
左手につかんだイザキの顔を、なにが気に入らないのか、おれにむけて投げつける。
力にまかせて、すごい勢いで。
(あ・・・終わった・・・)
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