第5話

竜二と話してから四日後、真奈が正式に退部した。顧問の先生はかなり止めたようだが辞めると言って聞かなかったという。


未だ疑問は拭えない。なぜなのか。なぜ陸上をやめてしまったのか。


「紅葉!」


名前を呼ばれたので振り返ると、そこには竜二がいた。


「竜二か、仕事は終わったの?」


「いやあ、まだなんだけどさ。一旦休憩しよかっなって。」


最近の竜二は、真奈が学校を休んでいた間に溜まった仕事を片付けるのに忙しそうだった。

塾にも通っているそうだし、今の竜二には疲れがかなり見える。


「そう。大変そうだね。なんか目の下にも隈できてるし、しっかり寝てる?」


「それがあんまり。課題とか塾もあるし、あんま

寝れてないんだよな。」


「それは良くないね。明日は学校も部活も休みだし、今日はしっかり寝なよ。」


「おう!ありがとな!んじゃ、仕事戻るわ。俺がいないからって寂しくて泣くなよ?」


「な、泣くわけねえだろ!」


微笑みながら竜二は走り去って言った。


うむ。


正直なところ、今の僕はぼっち気味である。竜二は忙しくて、相手がおらず、独りで昼飯を食うことが増えた。前までは真奈が居ればそれだけで良いなんて思ってたけど、今はそうじゃない。


依存から抜けた今、僕は友達が欲しい。


だけど、学校では長い間竜二や真奈以外とまともに話していなかったため、他人との接し方を忘れた。


「はぁ…」


今も絶賛外のベンチでぼっち飯中である。


何度か暇そうなやつを誘ってみたこともあるのだが、全て断られてしまった。なんか気持ち視線も冷たかったし。


何かしたっけなぁ…



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ふう。」


部活が終わった。竜二は残るらしいので、先に帰ることにし、校門を出た。


(友達って、作るの難しいんだな…)


そんなことを考えながら駅へ向かう。


ん?


(あれは、真奈か…?)


友達と歩いている真奈らしき後ろ姿が見えた。


帰り道同じだし、気まずいからバレないようにしよう。

そう考え、気配を殺すようにして歩き、駅に着いた。どうやら、友達は別方向らしく、今は一人で駅構内の椅子に腰掛けながらスマホを見ているようだ。


(なるべく離れた車両に乗ろう。)



そうして、真奈とは2両ほど離れた車両に乗り、揺られること数十分。最寄りの駅に着いた。

電車から出て、プラットフォームを出るための階段を上る。


(真奈に見つからないようにさっさと帰ろう。)


逃げるように、小走りで駅を出た。


ぎゅるる

お腹が鳴った。部活終わりだし、腹が減った。


(コンビニでも寄るか。)


疲れた足で、駅近くのコンビニへ入る。


コンビニでホットスナックを買い、外に出ると、そこには歩いている真奈がいた。


迂闊だ、コンビニなんて寄るから。そう思っていると、目が、合ってしまった。


「あ…」


少し驚いたような表情を見せる真奈。相変わらず綺麗な顔立ちだ。


「…やあ。」


「紅葉…。」


気まずい。気まずすぎる。何て言えば?というか今ここで会話を交わすのか?


やばい、やばい…。


そう内心焦りまくっていると、真奈が口を開いた。


「—ごめんね。僕、紅葉のこと蔑ろにしてた。学校を休んでる間、とっても後悔したし、反省もした。」


「——うん。」


「こんなことをここで言うのもあれだけど、僕たちやり直せないかな…?」


驚いた。会っていきなりそんなこと…。

でも、真奈らしいか…。


正直、揺らいでしまう。


最近は竜二と顔を合わせることも少なく、寂しさを感じていたからかもしれない。


だけど—


「ごめん。」


「…やっぱ、そうだよね。」


悲しそうに言う真奈を極力見ないよう、視線を逸らす。


「いきなりごめんね、変なこと言っちゃって。

…それじゃ!」


そう言って真奈は走り去っていった。


(あ、そういえば退部した理由聞けば良かったな…。)

あまりにも動揺しすぎて完全に忘れていた。


「ふう…」


真奈は復縁を望んでいた。少なからず好意はあったのかもしれない。


——いや、

帰ろう。真奈との関係は自分から絶ったんだ。今更考えても仕方ない。


そうだ、明日は休みなんだ。久しぶりに外へ出かけよう。

そんなことを考えながら帰路に着いた。

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