第2話

「ん、もう朝か。」


気付いたらベッドの上にいた。疲れて眠ってしまったようだ。


眩しい光が窓から差し、昨日散々濡らした瞼を擦りながら床に放り投げられたように置いてあるスマートフォンを取った。


「うわ、なんだこの通知の量。」


スマートフォンを開いて目に入ったのは夥しい量の通知。


「案の定、真奈からだよな。」


メッセージを開けば、昨日のことをまた思い出してしまいそうだ。


だが、好奇心が勝ち、指が動いてしまう。



どこにいるの、さっきのは誤解、話がしたい、家に行ってもいい? 今から会いたい


同じようなことばの繰り返しが並んでいるトーク欄。


今日、会って話をしよう。


その前に――


「腹減った。シャワーも浴びよう。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




朝、7時10分。


そろそろ来るはずだ。いつもこの時間に待ち合わせ、登校する。


彼女は釈明をしたいだろうから来るはず。そんな

確信めいた何かがあった。



コツコツ、とコンクリートを叩く音がする。




振り返ると、そこには少し隈が目立つ真奈が居た。


「おはよう。」


いつも口に出す挨拶は、まるで昨日は何も無かったかのように感じさせる。


「ごめん…。」


「………。」


「昨日のことは、その…誤解、なの。」


不安そうな目で彼女は言う。


「…誤解って?」


頭は昨日と違い、やけに冴えているのか、冷静に受け答えができそうな気がする。


「あれは、その…私の王子様なキャラを崩したくなくて…!だからあんな酷いこと言っちゃっただけで…本当にあんな風に思っているわけじゃないから!」


「そのキャラっていうのと、昨日のは何の関係があるの?」


「それは…そのせいで素直になれなかったというか…なんか恥ずかしかった…というか……上手くことばにできないけど…君への想いは嘘じゃない!信じて欲しい…」


「信じる…か。」


そう小さく呟く。


「僕にチャンスをくれないかな…!僕の君への愛を必ず証明してみせるよ…だから――」






朝、起きた後、色々と考えてみた。今後のこととか、昨日のこととか。



僕はもう真奈を信じれなくなった。


でも、未だに彼女のことが好きだ。


出会ってもう10年に近い。そう簡単に冷められるほど短い期間ではない。




僕は、真奈に依存していたように思う。


彼女と出会い、仲を深めた時から。


何をするにも真奈と一緒。離れたくなかった。陸上を始めたのも、真奈がしてたから、という自我の無い理由。


依存傾向は、付き合い始めてから強くなった。


その依存は、真奈以外見れなくなるほどで、付き合う前に出来た友達、竜二以外はまともな交友関係は無い。だって、真奈だけ居れば良かったから。



でも昨日の出来事から、今のままじゃ、いけない。そう思った。


真奈が僕のことを好きなのか分からなくなった。


このままの状態で彼女のことを想い続けるのは、辛い。


もし僕がこの場を穏便に済ませさえすれば、今までの関係に戻るのだろう。


それじゃダメだ。


抜け出さなくちゃ。この関係の中から。


真奈中心の世界じゃない、広い世界を見なくては。


良い機会じゃないか。彼女の僕への想いが疑わしくなった今。







「僕たち、別れようか。」


真奈のことばを遮るように言い放った。


「え…………。」


途端青ざめていく真奈。


「人の心を弄ぶような最低な人とは付き合えないよ。ごめんね。」


心が痛い。だけど、これくらい言わないとこの関係は断ち切れないだろう。


「ごめん……紅葉のこと…傷つけちゃったんだよね…ごめん……」


真奈が泣いている。彼女の泣き顔を見るのなんて何年ぶりだろうか。


「…じゃあ」


そう言って気にせず背を向けて歩き出す。


「ま、待って…!別れたくないよ…僕まだ紅葉のことが好きなんだよ…お願い…信じて……あ…」


引き留める声が聞こえる。だけど立ち止まることはない。もし留まってしまえば、決意が変わってしまうかもしれない。


追いかけてくる気配は無い。


良かった。彼女との追いかけっこは負ける未来しか見えないから。



ーーーーーーーーーーーーーーーー


ガヤガヤとうるさい廊下を歩き、教室に入り、自分の席に座る。すると、僕に気付いた竜二が此方に寄ってきた。


「おい、紅葉。お前、昨日彼女となんかあったらしいじゃん。」


知ってんのかよ。そう思いながら少し目を逸らしてしまう。


「やっぱ、なんかあったんだな。何、話してみろ。」


「あー…その、僕…別れたよ。真奈と。」


「はぁぁあ!?どういうことだよ!あんな好き好き言ってたじゃん!あ…もしかして振られて…」


「いや、僕から振ったよ。」


「なに!?いや尚更なんでだよ!?」


「…あんま言いたくないかな。」


「そうか…紅葉が言いたくないなら別に無理に言う必要はねぇけどよ…。話せるようになったら話してくれよ?俺たち、友達だろ?」


なんか沁みる。友達っていいな。


「そうだな。あとおまえ、時計見てみろ。」


そう言って時計を指差す。


「あ、やべ。」


そう言った途端チャイムが鳴り、急いで竜二が自分の席に戻って行った。


その少し後、担任が入ってくる。


まだ、真奈は来ていないようだ。



「ふう、それじゃあ朝のHR始めんぞー。あれ、新藤がいないな。」


そう口にした途端、一部の昨日の出来事を知る者の視線が自分に集まってくる。


勘弁してくれよー…


「まぁ、後で家に電話入れとくか。んじゃあ今日の連絡だけど――



そして、の朝がはじまった。


ーーーーーーーーーーーーーーーー

次話、真奈sideです!






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