自分のことを男避けだと口にする彼女に別れを切り出してみたら、とっても病んでしまいました。

えび

第1話

「12.49か。まぁ、グラウンドで走ったにしては良いタイムかな。」

「相変わらず速いね、真奈。」


彼女は新藤真奈しんどうまな、僕と同じ高校2年生であり幼馴染、彼女でもある。


綺麗な黒髪のボーイッシュで容姿端麗、運動神経抜群、頭脳明晰、神が二物も三物も与えたかのような奴だ。大きくて吸い込まれるような瞳と、誰もが目を奪われる抜群のスタイル。男ならばうっかり好きになっちゃう。それほど彼女の容姿は美しい。そして可愛さに加えて、女子から悲鳴が上がる程のカッコ良さも持っている。王子様みたい、だなんて言われてるらしい。


対して僕、尾野紅葉おのこうようは、全てが中途半端な人間。容姿は悪くは無いけど良くもない、所謂フツメン(だと思いたい)。頭も悪くは無いが良くもない。僕が必死に努力して受かった高校に真奈は経った数週間の努力で受かってしまった。運動も中学から続けていた陸上以外は平均以下。

こんな僕がなんで真奈と付き合えているのか、と不思議に思うくらいに、目立った所がない。


まるで彼女、真奈とは釣り合っていない。自分でもそう思っているし、周囲からもそうやって言われてきた。ただ、僕は真奈が好きだ。それだけで十分だし、周りの声も気にしていない。


「女子に負けちゃってる紅葉は悔しいとは思わないのかな?」


だけど、嫌味を言うのがたまにキズ。でもそれを含めても真奈のことが好きだ。


「う、うるさいな。」


「紅葉は地区予選から抜ける前に、まず僕をこえないとだねー」


彼女は悪戯な笑みを浮かべながら言った。



彼女と僕が付き合ったのは、僕からの告白がきっかけだった。


小中高と同じだった真奈のことを意識するようになったのは中学生に上がった頃から。


小学校では性別の壁なんて気にせず、毎日遊んでいたのに、中学からは思春期になり、一気に異性である真奈のことが気になり始めた。

無論容姿に惹かれた部分もあるが、漂う格好良さに魅力されたのが大きかったのだろう。


好きだったのに、性根がチキンだったため中学では告白できず、同じ高校に進学。


受験を乗り越え、心も成長したためなのか、男として気持ちを伝えるべきだと思い、自ら告白。告白は成功し無事付き合うことになった。跳び跳ねるほど嬉しかったのを鮮明に覚えている。



真奈も僕のことが好きだったのか?



そんな疑問が頭をよぎり、そのまま真奈に向かって口にする。


「なあ、真奈って俺の事好き?」


あ、やべ。


思わずそう聞いてしまい、後から後悔する。


恥ずかしい…顔がなんか熱い。


「へ!?いきなり何!?気でも狂った?」


「いやごめん。なんか気になっちゃって。」


もぞもぞ真奈が何かを言っているが聞き取れない。


「…早く次行こ」


「まだ走るのかよ!?まあ、いいけどさぁ…。」


結局答えてくれなかったか…


「こんなんでへばってるんじゃ僕を超えるのはまだまだ先かな〜。」


「くっ、言わせておけば。」


「スタート地点まで早く戻ろ!」


真奈が僕の腕を引っ張って言う。


「分かった、分かったから引っ張んないでくれよ。」


「もたもたしてる紅葉が悪いんだからねー。」


練習はきついけど、真奈となら何でも楽しく思える。


本当、彼女と出会えて良かった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ふぅ、やっと終わった〜」


練習後のミーティングが終わって解散となり、ロッカーに向かって歩きながら呟いた。


「ほんと、今日の練習メニューキツ過ぎんだろ。顧問頭おかしいんじゃねぇの。なぁ紅葉。」


高校に入ってから出来た友人、芝竜二しばりゅうじがこんがりと焼けた肌から出る汗を拭きながら僕に話しかけてくる。


「まったくだ。今日の走り込みも何度吐きかけたことか。」


「マージで狂ってるって。」


愚痴を言いながら歩き、ロッカールームに着いた。


ロッカーを開き、ある事に気づく。


「あ、水着教室に忘れた。」


連日のプールの時間割を思い出した。


「おいおい、何やってんだよ…」


「流石に持って帰らないとまずいし取りに行かないとだよな。」


「お前、もし半日でも放置してみろ。明日には発酵して腐ってんぜ。」


笑いながら冗談を飛ばす竜二を横目にメッセージを打つ。


『水着教室に忘れた。取りに帰るからちょっと遅れるかも!』


真奈とは毎日一緒に登下校する。待ち合わせもいつも同じ時間なので、ひとこと言っておかなければならない。


「すまん、取り入ってくるわ。」


「おう、彼女あんま待たせんなよ〜?」


「う、うっせ。そんじゃ、また明日。」


あーめんどくさい。さっさと取りに行こう。


そう思いながら小走りで教室に戻る。





机にかけてある水着の入った袋を見つけた。


「あったあった。早く靴を履き替えて真奈の所に行くか。」



袋を取り、また小走りで靴を履き替えにロッカールームへ戻ろうとしている時、更衣室近くの渡り廊下を友達と歩いている彼女、真奈を目にする。


「ねぇ、真奈の理想の男子ってどんな感じ?」


「んー…まぁ僕より運動も勉強も出来るイケメンとか?」


「へえ。って、そんな人学校にいないじゃん!あれ、てことは尾野君は真奈の理想の男子じゃないんだね。」


「そだね。理想の男子と付き合えるほど世の中簡単じゃなからなー。」


「尾野君が可哀想じゃーん、まあ釣り合ってないよねー実際。」


笑いながら隣を歩く友人は言う。


あー...なんか嫌な流れだな。聞かなかったことにして早く行こう。

そう思って背を向けようとした時。真菜が言い放った。


「僕と付き合えてるだけで光栄に思ってほしいな〜。紅葉と付き合ったのもあいつがとっーても必死そうだったからさ〜。別にそこまでどうとも思ってないんだよね。所詮男避け?的な?」


あははと笑いながら真奈は口にする。





どくん。





僕の心臓が大きく鼓動する。水着の入った袋を落としてしまった。


ガサリと音をたて、その音に気づき、二人が後ろ振り返る。



あぁ、そうだったのか。好きだったのは僕だけ。僕が1人で舞い上がってただけ。


目からポロリポロリと涙が零れ、床に落ちる。


「え………。紅葉が何でここに…?」


「あぁ……」


気まずそうにする真奈の友人と驚いて目を見開いている真奈。


「ごめん……」


震える声で言う。


ぐちゃぐちゃになっていく心を気にせず走り出した。


「ねぇ!ちょっと待って!これは誤解で…って、ちょっと!」


真奈が何かを叫んでいるが無視して走る。


聞きたくない、一刻も速くこの場から去りたい。


その思いで無我夢中で校内をかける。


「ごめん、ちょっとアイツ追いかけてくるから、これお願い!」


カバンを友人に預け、紅葉の後を追うため同じく真奈も走り出した。





ーーーーーーーーーーーーーーーー





走って家へ向かい、鍵を開けて中に入り自分の部屋への階段を駆け上がる。



「ちょっと〜、ただいまくらい言いなさいよー。」


母の声が聞こえるが、今はそれどころじゃない。


部屋に入り、扉の鍵を閉める。



はぁ、はぁ


扉を背に座り息を整えようとした。


急いで走ったせいで呼吸が荒々しい。

そして、堰を切ったようにようにまた涙がポロポロとこぼれ落ちてくる。


「クソ………なんなんだよ…今まで何だったんだよ…!」


小さく吐き捨て、彼女の言葉を思い出し、吐き気が催してくる。



床に置いたスマートフォンが何度も音をたてて揺れる。恐らく真奈からだろう。でも、メッセージを見る気力は湧かない。



『なあ、真奈って俺の事好き?』



数時間前の会話を思い出す。



「結局、一方通行だったってことか……。」


なんだよこれ、涙、とまんねえよ…。













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