第32話 わからない
「マスター。どこか具合が悪いのか?」
「頗る調子はいい」
「そうか」
「そうだ」
「………」
岩の家の
この所、飛翔する時以外は人化していた善であったが、今は人化せず元の竜の姿になってはいたものの、本来の大きさより縮小化していた。
本来の大きさでは、人化した時用にあつらえたベッドには到底身体が収まらないからであった。
「爪を体内に収め、鱗も柔らかく変化させて危険を排除したが、やはり元の姿より人化した方が共に寝やすいか?」
「気遣いに感謝する。だが。問題はどのような姿か。ではなく。マスターのベッドで何故私がマスターと共に寝る必要があるのか。という事だ」
今日の夜のメンテナンスは中止する。
夕食を終えて暫くして告げられた善の言葉に、わかったと頷いた
一対一で話があるからと言われた咲茉は、昴と詩に先に自室に行って眠っているように告げては、先に歩く善の後を追いかけて、善の自室に入って。
(………いつの間にかマスターと共に眠っている。のは。おかしい。記憶の欠如。は。ない。ただ。マスターに寝ながら話がしたいと言われたので、その通りにしただけだ)
善と横に並んで横たえさせていた身体を起こした咲茉は、ベッドから下りようとしたが、善に下りないでほしいと頼まれたので、渋々ベッドの上で正座になって身体をうつ伏せにしたままの善を見た。
「共に寝たいだけだ」
善は目を瞑ったまま言った。
「飛翔に必要だからではない。ただ、吾輩が咲茉と共に寝たいだけだ」
飛翔に必要だからかという質問を封じられた咲茉は返事に窮した。
飛翔に必要な事ではないのならば、失礼すると言って、さっさとベッドから下りて、自室に戻ればいいだけの話だ。
それだけの話。
なのに、
「マスター」
「無理強いはしたくない。ゆえに、嫌ならば、自室に戻っていい。ただの他愛無い吾輩の願いだ」
「………マスターは。私に………私に。何を求めているのか?」
善はすぐには答えず、ただ、しっぽで咲茉をやわく囲うようにベッドの上で動かしてのち、わからないと言った。
「わからなくなった。ゆえに、共に過ごし時間を増やして、わかるようにしたい」
(2024.8.28)
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