第33話 暴走




 岩の家のぜんの自室にて。


『わからなくなった。ゆえに、共に過ごし時間を増やして、わかるようにしたい』


 嘘だ。

 咲茉えまは即断した。


(マスターにわからない事なんて、あるわけがない。私と共に居る意味を見出せなくなった。遠回しに。出て行けと言っているのではない。か。そもそも。何故、マスターが私を傍に置いてくれるのか。わからなかった。私は、マスターのように飛翔したいと明確な理由があるが。マスターはただその願いを受け入れただけ。寛大なマスターとて、気持ちが変化したとしても。おかしくはない。だろう。もしかしたら、メンテナンス中に重大な欠陥が見つかったのかもしれない。傍に置いてはおけないと判断するほどの。だが。だったら。直接そう言ってくれたら。いや。激情に駆られて、暴走すると考えたので、直接的ではなく、間接的に言った。の。か)


 そんな事はしない。

 ただここまで受け入れてくれた感謝のみ。

 それだけだ。

 それ以外に、何があると言うのだ。


(………いや。マスターは私より、私の事を、わかっている。ゆえに。私は。暴走。するの。か)


 暴走する。

 感情に関係なく暴走するのではないか。

 重大な欠陥とは、時間経過により暴走する事だったのでは。

 そして、今日、今この瞬間よりそう時間を置かず、暴走するのではないか。

 それを防ぐ為に、この部屋で処理しようとしているのではないか。


(そうか。私を横に寝かせて、機能停止させて、速やかに処理するつもりだったのだ。マスターは。優しい方だから、真実を伏せておいて、健やかに死へと誘おうとしてくれているに違いない)


「………マスター。感謝する」


 咲茉は正座のまま深々と頭を下げると、善の横に身体を寝かせて、目を瞑った。


「最後の最後まで、手を煩わせてしまって、すまない」











(2024.8.28)



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