第14話 殺戮人形
アミが維持していた魔法陣を完成させ、手のひらをゴーレムに向けた。
「ヘルエラプション」
ゴーレムの正面に小さなオレンジ色の光の粒子が無数に生じた。まるで空間そのものがそこから焼け落ちるように光の粒は数を増やしていき、そしてそれは唐突に限界を迎えた。
超新星爆発の如く弾け、衝撃波が僕のところまでもやってきて尻餅をついた。息を吸うと喉に激痛が走る。
「あっつ! 熱い! 喉が焼ける!」
「ば、お前、仲間まで攻撃すんな!」
「仕方ないでしょ! 爆発なんだから爆風くらい飛んでくるの当たり前じゃん!」
「だけど、流石にこの爆発ならゴーレムも——」と町田くんがわざとなのか何なのか、いらんフラグを立てた。
ゴーレムの付近の樹が何本も倒れ、火が点いてごうごうと燃え上がっている。
視界を遮る灰色の煙の中に、黒い影が揺らめいた。立っている。胴の太い6本腕の化け物の影がこちらを向いていた。
「……この爆発で生きてるか普通?」町田くんが眉間に皺を寄せる。
「てか、あれゴーレムってレベルの生物じゃないでしょ」と僕がぼやくと、「あたしが知ってるゴーレムはあんなに強くないよ」とアミも呆れて目を細める。
ゴーレムは静止状態から突如として、こちらに猛スピードで突っ込んできた。
「来たぞ! 壁!」と町田くんの指示を合図に、僕は武装したゴブリンを20体召喚した。魔力なら腐るほどある。出し惜しみしていると一瞬で殺される相手だ。僕も端から全力だった。
フルプレートの重武装ゴブリンは衝撃に備えて腰を少し下ろしたが、そんなことで何かが変わる相手ではなかった。先頭のゴブリンは敵の薙ぎ払いに一撃で彼方まで吹き飛んで動かなくなった。そのフルプレートメイルは攻撃を受けた部分がメッコリと凹んでいる。
ゴーレムは障子を破る子供のようにがむしゃらにズタズタとゴブリンたちを葬りながら突き進んで来る。
「ちょっと! アイツ止まらないじゃん!」アミの額に汗が伝う。
「分かってるよ!」
僕は苛立ちを振り払う思いで、ブラッドウルフを召喚した。獣用の鎧、面具をつけたブラッドウルフはグル゛ゥウウウウ、と自らの闘志を高めるように唸りながらゴーレムを睨みつける。
「行け!」と僕が指示を出すとブラッドウルフは走り出し、列を作ってゴーレムに群がるゴブリンを跳び越え、鋭い歯をガバッと開けた。
次の瞬間には、キャンっという情けない鳴き声と共にブラッドウルフは横に殴り飛ばされて光の粒子となり消える。
「…………な?」と僕はアミを見た。
「いや、な、じゃないが」アミが半眼で睨んでくる。
「だって仕方ないじゃん! アイツ強すぎだろ! アミだって大魔法まで使って全然ダメージ入れられてないくせに!」
「はぁ?! あたしはまだよくやってる方だから! アイツ炎耐性あるんだよ? あんたらが情けなさすぎなのよ!」
「僕のことは悪く言っても、町田くんのことは悪く言うんじゃ——て、あれ? 町田くんは?」
僕とアミが慌ててゴーレムに視線を振ると、すぐに町田くんは見つかった。
ゴブリンの列の影から、町田くんが飛び出す。既に剣を構えていた。
「能力向上、鬼剣解放」と唱えながらゴーレムの懐に入り込む。町田くんを取り巻く空気が明らかにさっきまでと違う。町田くんの纏うピリついた圧力に、肌が少し粟だった。
「重撃三閃!」
町田くんの斬撃が立て続けにゴーレムの右腕を襲った。全て同じ箇所に綺麗に入り、ゴーレムの腕が斜めに跳んでいった。薄黄色のオイルのような液体が飛び散る。
「やった!」
「まだ5本もあるけど」アミが士気が下がるようなことを隣で呟く。
ゴーレムは残る腕を薙ぎ払うように振った。それは町田くんに直撃する。町田くんが直線を描いて吹き飛ばされ、地についてからは石床に削られながら転がった。
「町田くん!」
「待って、
ゴーレムは怒り狂ったように全ての腕で石床を叩きながら、魔力を三つ目に集中させていった。
ギョロギョロと動いていた瞳がピタッと止まる。その見開かれた目は僕らを捉えていた。
「魔法が来る! 距離とって!」
町田くんが生きていると信じて僕とアミは急いで一旦後退した。
ゴーレムが目から光線を放った。光線といっても
光線があたった石床はその箇所だけ石が砕けて、線状に地中に沈み込んだ。
「なんだ……これ」
とりあえずゴブリンを大量に召喚して、身代わりにした。何体かのゴブリンは光線が直撃する。彼らは被弾箇所に引っ張られるようにして地に沈み、そして石床と同じように線状に陥没して、結果身体は真っ二つに千切れる。つまり即死の魔法だ。
ゴーレムは今度は吹き飛んでいった町田くんの方に目を向けた。町田くんの姿はここからでは見えないがゴーレムからは見えているのか、迷うことなく、ゴーレムが歩き出す。
「ヤバい! 町田くん!」
僕は考えるよりも先に走り出していた。後ろからアミが「ちょ、待ちなさい!」と叫んでいるが、待っている余裕などない。
剣を構え、ゴーレムの後ろから奴の首に力任せの斬撃を入れる。
ガン、と音がして剣は弾かれ、僕も地に尻餅をついた。
「繋!」と僕を呼ぶアミの声がして、顔を上げる。横を向いたゴーレムは動かない。まるで僕と町田くんのどちらを相手取るかを計算しているかのように静止していた。
やがてゴーレムがゆっくりとこちらを向き、僕を見下ろした。
奴の攻撃を受けることも、奴より速く走って逃げることも、僕にはできそうにない。
僕は命の終わりを悟った。
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