第13話 先客

 アミが魔力を発散させると、足元に大きな魔法陣が展開された。


「いつでもいけるよ」彼女は好戦的な笑みを浮かべる。

「よし、手筈通り——」と言う町田くんを「ちょっと待って!」と僕は遮って止めた。


 ゴーレムに近寄る僕ら以外の人間を見つけたからだ。町田くんとアミもそれに気がつく。

 

「なんだ、あの人たち……」

「俺らと同じプレイヤーか?」


 彼らは全部で4人いた。だが、誰一人学生服など着ていない。鎧やローブを身につけ、武器もそれぞれ充実している。どう見てもこの世界に来て数日の人間には見えなかった。


 剣士らしき男がゴーレムに斬りかかる。

 ——が、ガン、と音がしてゴーレムの腕に弾かれた。無防備な男をゴーレムは6本ある腕の2本で薙ぎ払った。消しゴムでも弾いたかのようにあっけなく男は飛んでいき、木に激突して潰れた。身体が曲がってはいけない方向に曲がっている。おそらく即死だ。


「これ……まずくない?」と僕が口にすると、

「ああ。あの通り一撃で即死だ。接近戦は特にヤバい」と町田くんが答える。

「そうじゃなくて!」と僕は町田くんに食いさがるように目を向けた。「あの人たち死んじゃうよ!?」

「覚悟の上でしょ。あたしたちは敵の出方が見られるんだから、いいじゃない」アミはどこから出したのか、焼いた木の実をポリポリ食べながら観戦していた。


 そうだけど。そうなんだろうけど——。

 もう一度ゴーレムと闘う彼らに視線を移した。


 魔術師がゴーレムの足を氷で固め、捕縛してから、人程もある氷の塊をいくつもゴーレムに飛ばした。だが、ゴーレムは高熱を帯び、煙を上げながら足の氷を一瞬で溶かした。

 金属部品が剥き出しになっている手足の付け根部分が熱を帯びてオレンジ色に発光している。軽く1000度はありそうだ。

 氷の塊は全弾ゴーレムに直撃したが、全くのノーダメージのようで、途轍もない速さで魔術師に肉薄すると、高熱の身体のまま6本の腕で魔術師を抱きしめるように捕らえた。魔術師は絶叫してもがいたがやがて動かなくなった。あまりの強さに残った2人は、情けない声を上げながら踵を返して逃げ出した。

 だが、ゴーレムはそれを見逃すつもりはないようだ。殺戮人形が彼らを猛追する。


「ひ、ひぃぃいいい」


 出遅れた魔療師が振り返ってどんどん迫るゴーレムを見ながら、恐怖を口から漏らした。

 そして、彼の恐れる事態はすぐにやってきた。真上から4本の腕でプレスされ、破裂する水風船のように、血が石床を染めた。

 ドクン、と僕の胸が一度強く鼓動した。

 

 ——行け。殺せ。悪を滅ぼせ。


 脳裏で声が反芻した。

 誰の? 僕じゃない誰かの。だけど、それは外からの声ではなく、僕の中にある声だということは不思議と分かっていた。

 頭で考えるよりも先に身体が勝手に動く。強制的に動かされている訳ではない。乾きに耐えかねて川に駆け出すように、動かずにはいられなくて、そうしてしまうような感覚だった。


 残った1人。シーフ姿の男が、死に物狂いに走る。だが、やはりゴーレムの方が圧倒的に速い。ゴーレムが走りながら4本の腕を掲げた。

 もう追い付かれるという時、ブラッドウルフ3体がゴーレムに突進して食い止めた。


「おい馬鹿! 狙いがこっちに——」と町田くんが慌てたのと、同時にゴーレムの赤い目が3つ共こちらに向いた。

「——変わったわね」とアミが肩をすくめて呑気に言う。


 シーフの男はいつの間にか消えていた。逃げ切ったようだ。良かった。


「どうせ倒すつもりだったんだ。行くぞアミ!」と僕は立ち上がった。

「はーい。あんたはどうすんの? そこで日和ってる?」とアミが町田くんを煽る。

「舐めんな」と町田くんが笑う。「そんな煽り不要だ。元からお前らだけを行かせるつもりはねぇよ」


「アミ!」

「分かってる!」


 アミが維持していた魔法陣を完成させ、手のひらをゴーレムに向けた。


「ヘルエラプション」



————————————————

【あとがき】

レビュー★、フォローくださった皆様、マジでありがとうございます😭



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