第12話 遭遇
「この世界が特別なんじゃない。この島の、あんたらが特別なのよ」
僕と町田くんは同時にアミに目を向けた。
「どういうことだ」と町田くんが訊く。
「あたしは元々この世界に存在していた魔人だけど、
「お前、召喚獣だったのか」と町田くんが興味深げにアミの頭に触ろうとする。アミはそれを手で弾いて「獣って言わないでくれる?! これでも、あたし魔人なの! 召喚人なの!」
「なんか召喚人とか言うとリーガルな響きだな」と町田くんはけらけら笑うが、アミは「リーガルって何よ」とむすっとしていた。
「じゃあさ、アミは元は何レベルだったの?」
「86よ。300年生きてね」アミはあっけらかんと答えた。
「ぇぇぇええ?!」と僕はまたしても無遠慮に叫ぶ。
「驚くのも無理ないよ。あたしだってこっちでこんなにレベルが上がるとは——」
「——アミ300歳だったの?! おばあちゃんより年上じゃん! 江戸時代の人間じゃん!」
「中間、こっちの世界に江戸時代とかないぞ」と町田くんが律儀に指摘してくる。
レベルより年齢に食いつかれたのが気に食わなかったのか、アミは僕の足を踏んづけてからへそを曲げてそっぽを向いてしまった。僕がいくら「ごめんて」と謝っても許してくれなかった。
町田くんは僕らに構わず、うっとりとした表情で天を見上げた。「この劇的なレベルアップは全て女神様——エリー様のおかげなんだな」
僕はぎょっとして「どした町田くん」と声を掛ける。暗に『キミだけは変なキャラ属性を保有しないで』と懇願するように。
「なんかヤバい宗教みたいね」アミが笑う。機嫌が戻ったようだ。
「ばか、お前ら。エリー様は俺らにもう一度生きるチャンスを与えてくださったんだぞ? それはもう神だろ。そんなことできるのは神! この恩を返さないでどうする。俺はエリー様のために魔王を倒す」
町田くんがすごい早口でまくし立てた。頼りになるリーダー的存在という立ち位置から、どんどんと下降していき『変な人』という地位に転落しつつあった。
「あたしは別にそのエリーってのも、魔王ってのも、どうでも良いけどね」
「ならアミは何のために旅してんだよ」と町田くんが片眉を吊り上げて訊く。
「何のためって……」とアミが僕を見た。それからぷいっと僕から目を逸らす。「べ、べべ別に。ひ、暇つぶし? てか、まぁ繫がどうしてもって言うから手伝ってあげてる? 的な?」
召喚体は特に主従契約などはない。通常召喚は絶対従順なようだが、生贄召喚は別だ。アミは去ろうと思えば去ることだってできるのだ。それでも、彼女は僕と一緒にいてくれている。決して安全な道ではないのに。
「ありがとう、アミ」
気が付いたら感謝の言葉が口をついて出ていた。僕を助けてくれて、寂しさを埋めてくれて、ありがとう。心からそう思った。
「だ、だからァ! 別に暇つぶしだって言ってんでしょ!」
そう言ってアミは顔を背ける。ピアスがいくつもついたアミの耳は先っぽまで真っ赤だった。
おい、と町田くんが逼迫した小声で僕らを呼んだのはその時だ。手首を掴まれて石柱の影に引っ張り込まれる。
「いたぞ」
町田くんが指差す先に、目を向ける。
胴が丸く足が短い。そのくせ腕は長く6本も生えていた。真っ赤な目玉は3つ三角形の頂点となる位置に埋め込まれ、ぎょろぎょろとそれぞれ忙しなく視線を彷徨わせている。
「アレが——」
ゴーレム。
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