いなくなっても神は神。

 衛星軌道をぶち抜き!

 飛び立った青い星が遥か彼方!

 暗闇と星が支配する無限の宇宙をひたすらまっすぐ!

 やがて破壊同士!

 衝突した!

 一方が青く!

 一方が緑!

 互いとてつもなく燃えている!

 この熱意が、声も通らぬ宇宙で頭に直接語りかけてくる!

「久しぶりだな兄弟よ!」

 緑色の炎そのものという人が!

 神の子が景気良い!

「そうだな」

 人類決戦兵器たるわヲん・ノアは、冷たい宙に静かに燃える!

 遠いあの母星のように!

「前回の決戦では、やはりあいこだった! 俺たちはどうしても決着のつかない!」

「そうだな」

 相手の焔が、疑問のように揺らめく。

「どうしたんだ? ほんとうに兄弟か?」

「僕や、お前ほどの力を持った存在がほかにいるか?」

「物凄い気迫だなぁ。まさか俺に勝つつもりか?」

「だったらばどうした?」

「この天地開闢以来の喧嘩の決着をつける、と?」

「そうだ」

 さいごの敵たる超生物は、大きく笑った!

 馬鹿にするように、炎が震える!

「どうやらさきのあいこで漂着した星でなにか感化を受けたらしい。おかしくなったか!」

「おかしくはなった!」

 別に否定はしない!

 なんなら、おかしくされた!

 人生を狂わされた!

 だが、どんなものにでも終わりがある!

 それはどう考えたって、狂っていくからである!

 病がある!

 命がある!

 心がある!

 むしろこれらがあって狂いがないのがおかしい!

「僕はおかしくなって正義へ目覚めたのだ!」

「俺たちこそ正義なのだ!」

「星を壊し、永遠に破壊衝動を満たすだけの僕たちのなにが正義だ!」

「お前も知っているだろう! この世界があの神によってどう生み出されたか!」

 この話を持ち出されると弱った!

「かつて神は、存在を持たなかった! 意志を持たなかった! 言葉を持たなかった!」

「僕はそんな間抜けな話を信じるつもりはない!」

「だが、俺たちの記憶の底には真実としてある!」

 超生物は力説をつづけた!

「そして始めて発音したのはなんと不意なことだったか!」

「なにもないところで、躓いて転んだのだろ」

 話のオチを横取りして、わヲんはくだらなかった。

「『あ』と言ってな! そこでこの発っした爆発力が世界を生み出すきっかけを作った!」

「存在を持たないで躓いたり、転んだりなどということがあるのか!」

 とても核心である!

 もっといえば童話に、魔法なんてあるわけがないと文句を言うひねくれものである!

「相手は俺たちですら、およばぬ超現実的存在! 理屈を問うな! 感じよ!」

「たとえそうだとして、こんな破壊は馬鹿らしすぎる!」

「望まれなかった世界の後始末だぞ! なんと愉快なことだろう!」

「もう生まれてしまった命を! 正義を! 僕らはどれだけないがしろにした!」

「そもそも破壊! 創造! 混沌! これのみが世界だ! 正義などありはしない!」

 わヲん・ノアはこのわからずやが!

 と拳を固める!

「いまも遠い小さな星で、小さな墓に眠る娘を悼んでいる父がいる!」

 宇宙の法則だか!

 神の意志だか!

 こうなってしまったわヲんにはとんとわからぬ話である!

「懸命に生きたいという命がある!」

 だがひとつだけ!

 たしかに胸中のア動力炉が!

 怒り!

 悲しみ!

 やらねばいけないことをたったひとつだけ示してくれる!

「だれかを憎み!

 憎まれ!

 愚かでも!

 愛し!

 愛した! 

 思いが!

 美しさが!

 この世界に確かにある!」

 青き命は燃え上がる!

 愛していると!

 これほどのものを与えてくれて、ありがとうと思うほどに!

「お前のような正義も悪も愛も持たぬ奴に!

 それを壊す権利はない!」

 緑色の火だるまも、また同じだけ燃焼する!

「能書きはいい!

 どうせ俺たちは力は同じ!

 どうやったところで引き分けなのだあああああああ!」

 緑炎が柱となって力をあふれさせる!

 だが正義は動じない!

「僕はお前と違う! 青き星で改造された正義の味方!」

 正義は正義のもっとも倒すべき、ただの破壊を見据え!

「わヲん・ノアだああああああああああああああああああああ!」

 こうして!

 引き分けの許されぬ!

 ただ勝利のみに突き進まねばならぬ!

 そんな戦いが宇宙の真っただ中で幕開けた!

 純粋な殴り合い!

 ぶつかり合い!

 いままでのような小手先はない!

 力で勝り!

 押し切ったほうが勝者である!

 正義が一撃を入れれば、破壊とて一撃を同じ分量で食らわせる!

 この一撃が、あたりの星々すら響いて砕く!

 またひとつ、またひとつと星が失せる!

 なにか思いがあったかもしれない星々が暗くなる!

 正義は躊躇い、敵対者へ距離を置く。

 このままでは、遠くとはいえ影響が出る!

 星々の重力は、影響し合っている!

 星のなくなれば、ビリヤードの玉の弾くように悪影響がおよぶ!

 また数発なぐりあっただけでも、もうお互い体力に陰りが出ている!

 けっきょく、体力のなさは折り紙付きだった!

 もし倒すとすれば、つぎの一撃!

 相手は引き分けのつもりで、撃ってこよう!

 だが負けない!

 なぜなら正義は常に勝つつもりで撃つからである!

「本気だな! 兄弟! 覚悟はできているのか?」

「当たり前だ! お前とは背負っているもんのデカさが違う!」

 背でか細くも青い星が光った!

 それを一瞥して正義は、さいごの一撃を構える!

 そして!

「「あああああああああああああああああ!」」

 ふたつの「あ」を叫ぶ思いが終止符を打ちにかかる!

 相手がたとえ全宇宙の法則を背負っていようが!

 それへ見合った力をもっていようが!

 あいにく正義が学んだ星では、そんなものをゆうに超える思いがある!

 森羅万象大超越の不敗神!

 いやそれすら打倒せしめる最強のなかの最強!

 いやいや!

 そんなちゃちなもんをも超える!

 絶対的な正しさ!

 それぞ!

「究極奥義! 会心一撃わヲん・ノアああああああああああああ正義撃!」

 最終決戦にしてようやく奥義なんてでた!

 が、じっさいわヲん・ノアがその場で考えた適当である!

 ただし!

 威力はあきらかに、ただの破壊者に勝ってあり余るものだった!

 さぁ、宇宙の平和が訪れる!

「やってしまったな、兄弟。これで宇宙は星の重みでいつか潰れる」

 貫かれた緑の焔が、悪あがきのようにまだすこし燃えている。

「調整者たる俺たちがいなくなれば、どうなるか。わかっているな」

「あと百億もしないうち星々の力で宇宙は引き延ばされ、世界がバラバラになる」

「なぜわかっていて」

「いま生きたいと願う思いと、僕の意志に応えて戦ったのだ」

「神の宇宙への慈悲すら袖にしても、一惑星の人の思いが優先されると?」

「間違った正義は存在しない。ただ見方が違うだけだ」

 やがて破壊者は、諦めたように消えた。

 そしてまた、わヲん・ノアも……。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る