改造エンドユーザー

 わヲんはロボットではなかった!

 まして人間でもなかった!

 ではなんなのか!

 真相は、齧り尽くされたスイカみたいになった窪地でホヘトが語る。

「数年前、未知の生命体、超生物と呼べる神の子がこの星へ落ちた」

 その聞き手はレミファだった。

 目を覚ましたら、自身をコテンパンにしたイロハすら倒されている。

 ノアとイロハは盛り土になって、雰囲気の静まったわヲんから弔われている。

 なにがなんだか。

 野次馬根性に聞くのだ。

「超生物ねぇ、それがわヲん?」

「あぁ、星を一瞬で破壊できる力と、その破壊衝動だけで動き続ける超生物体だ」

「あんなポンコツがね」

「新幹線を蒸気機関で動かすようなもので、合わない動力をつけていたせいだ」

「で、いまはちゃんとした動力ってわけ?」

「ア動力炉は、もともとわヲんのなかにあったものを私が摘出した」

「その影響で、あんなポンコツに?」

 ポンコツ、ポンコツ喧しい女だとわヲんは合掌をやめた。

 過去の悪い印象ばかり持ち上げて、あげつらうなんて嫉妬深いにもほどがある。

 が、まあわヲんもでたらめに強くなった強者の愉悦で聞かなかったことにした。

「また私は、記憶の喪失にも成功した」

「じゃあ、それで円満なんじゃないの? ポンコツのまんまいてくれたら」

「いや、この超生物体は二体いる」

「なんでそんなことわかるのよ」

「同時期に、星の配列からなる宇宙碑が解読できたことはまさに神の恵みだったのだ」

「星座占いみたいなもんのことね。おとぎ話として聞いたことはある」

「その碑文によれば、二体の破壊者が喧嘩し合いながら、長く宇宙を滅ぼしていくそうだ」

「で、もう一体は?」

「観測したところ、いままさに数多の星を壊しつつ、こちらへ向かっている」

「で、その対抗策がわヲんってわけ?」

「そうだ。心を改造したわヲん、この改造正ギわヲん・ノアならな」

「改造正義?」

「人は、そこに至るストーリーさえあれば、自ら忌諱感なく心を改造する」

「超生物だって、心があるならそうなる。で、そのストーリーが正義の味方ってわけね」

「力は申し分ないのだ。しかし、問題は破壊衝動とそれから来る悪心」

「私らはそれらを改心させるためのパーツだったのね」

「レミファ、こう説いたところで、お前は私を許さんだろうな」

「まぁ、もう私はロボットではないし、私の半身、エビシーの仇は取る」

 だが、そう言ったレミファは、この場から背を向けた。

 言っていることとやっていることが、矛盾ではないか。

 わヲんは去っていく背へそう問う目をした。

 だが、別れの言葉はこの矛盾を解消した。

「先生、あんただけでこんな大それた計画を実行できない」

 私は根本の仇を断ちにいく、とした。

 これへホヘトは、訝って目の細くした。

「だとしたら、お前は全人類を敵とするのか?」

「星を破壊する超生物に比べてみなよ。半端な奴ひとりか一体、安いもんでしょう」

「勝てると思っているのか?」

「理屈じゃないね。どれだけかかっても、私は私の恨みを晴らす」

「さいごに聞くが、お前は誰だ? エビシーか、レミファか、それとも……」

 半人半ロボットの誰かさんは、ちょっと楽しげ手を振るだけだった。

「ただの恨みの塊だよ」

 あとには、完成したわヲん・ノアと、ホヘトだけ残った。

「崩壊が起きているのか?」

「あれも倒しておくべきか?」

「いや、いま急ぐべくは、もう一体の破壊者だ」

 わヲんは、鼻を鳴らしてそっぽを向く。

「言っておくが、僕はお前の言うことを聞くつもりはない」

「わかっている。だが、いまのお前ならこの星が砕けることをよしとするのか?」

 さっきまで弔っていた盛り土が、一見された。

「お前はこの星で生まれ変わったのだ!」

 ホヘトは、ようやく細マッチョをやめて小枝のようにほきほき折れそうな体に戻った。

 しかし語気は強い!

 わヲんは、正直なんと勝手だろうと思う!

 人類とは身勝手かつ愚かである!

 こんなのは癌になったからといって癌を叱っているようなものである!

 なってしまったものは仕方がない。

 ひとまず治療するべきである。

 だがどうしても感情として、なんで私なのだと思ってしまう!

 悪いことをしたかと思ってしまう!

 だが、別に悪事と、病に因業はない!

 もっといえば大なり小なり魔はさすもので、罪がないなんてきっとない!

 しかし運が悪いなんてことでは納得がいかない!

 わヲんはこの納得がいかないとばっちりを受けているとみて、間違いなかった!

 だが、とばっちりもここまでされたら大したものである!

 お前はこの星で生まれ変わった!

 なんと悪くない響きだろう!

「この正義は、宇宙の規則に背く悪逆かもしれぬ!」

 ホヘトは大太鼓をドンと響かすようなことを、なお放つ!

「人類の罪な身勝手かもしれぬ!」

 内心、もっとやる気を出させてみよ!

 と真剣に傾聴する!

「しかし世界が規則であるように、心もまた世界に在る一部である!」

 言われてみれば、そうだ!

 その通りかもしれない!

「ならば、生きたいという心のため、神へ反逆するもまた正義!」

 確かに!

「さぁゆけ! 対世則用悪逆兵器にして改造正ギわヲん・ノア!」

 ここまで熱く!

 命がけの声で言われたのだ!

 とばっちりだろうが!

 騙されていようが!

 作り物だろうが!

 こんな熱量に応えないのは、正義ではない!

 植えつけられた、しかしもはや真実にも等しい正義が燃え上がる!

 口角が、高揚でニッと上がる!

 なにより!

 敵は最強の破壊者!

 正義へ反する正義!

 世界を壊してでも!

 この星を!

 人類を!

 世界を守る!

 これほど少年心をくすぐるフレーズのオンパレードが!

 いくら改造されたとはいえ!

 いまなお少年そのまんまのわヲんに響かぬはずはない!

「よっしゃああああああああああああああああああ!」

 ア動力炉もフル稼働!

 青き炎を纏い!

「俺好みになってきやがったああああああああああああ!」

 いざ!

「待ってろ世界!」

 その日、宇宙へと一筋の正義が、青く打ちあがった!

 さいごの正義を貫くために!

 

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