なにもかもが無くなることはないが、なにもかもが有ったこともまたない。

 なんにも破壊しない輝きが収束!

 大樹を背に!

 わヲんが!

 いや、見た目こそそうだが!

 そう呼ぶべきか迷う存在が立っている!

 対峙するイロハニホヘトはその姿へ、目を瞠る!

「青い眼に、青い焔のような雷を纏う……完成だ!」

 ホヘトの瞳が嬉しさでみちみちていた!

「久しぶりだな。私がわかるか?」

 溌溂として訊かれ、すこし落ち着いた、しかし睨み忘れぬ面持ちでわヲんが答える。

「ホヘト。あぁ、僕は思い出したぞ!」

「なにを思い出したか!」

「僕はお前に作られた者ではない! またロボットですらない!」

 ここにきてなんと覆るカミングアウトだろう!

 しかしわヲんは、このふざけはいらぬ場面で、そう言うのだ!

「その通りだ!」

 そしてホヘトすら嬉々として、これに賛同した!

「僕は神の子、いわゆる破壊の意志だな」

「そうそしてノアこそ、その魂、ア動力炉の一時保管場所だ」

「魂と意志が合体し、記憶がよみがえる。ホヘト、ここまでお前の筋書き通りか?」

「すべてお前が降ってきた日からだ。そしてお前はもう私の筋書きに乗り気であろう?」

「ならば覚悟はできているんだな」

 ふたりの間で暗黙の了解があった。

 わヲんはすこし目のまえで挑んでくるだろう恩人に、悲哀の感情を覚えた。

 しかし、この真実を持った以上!

 やらねばならぬ!

 それにどうなろうと!

 わヲんはわヲん!

 どんなわけがあったとしても、ノアへの仕打ちは断罪されねばいけない!

 正義のため!

 恨みのため!

 そして、ノアが託した世界のため!

 わヲんは眼前で構える悪を倒す!

「あああああああああああああ!」

 叫ぶ!

 そんなに叫んでなんの意味がるのか!

 いや意味はある!

 胸に収まった心臓!

 ア動力炉が!

 魂が!

 これに応えて、力を全身へ与える!

 力が漲る!

 疲れなどまるでない!

 わヲんはその威勢そのまま瞬く間で、相手の懐に潜り込む!

 青い焔を纏った拳が、細マッチョの顎を突き上げる!

 天空まで吹っ飛ばす!

 イロハの翅がどうにか慣性へ抗う出力をし、空中で静止する!

 するとわヲん!

 全身へ焔を巻いて飛び上がる!

 踏ん張った地を砕き亜音速に打ちあがる!

 ホヘトが拳で反撃を試みる!

 だが、すべて受けきって、されど蚊に刺されたにも値しない!

 モスキート音の厄介さもない!

 散歩するのにわざわざ空気をかき分ける必要などない!

 よって、強引に拳を通す!

 一方的な百裂拳!

 おまけに踵落としで、ホヘトはぼろったく地に返った!

 それでもさすがダサくとも合体しているだけある!

 まだ立って、青く燃えながら中空浮かぶわヲんを睨み上げる!

 またわヲんは、空から遥か見下す!

 まるで高見!

 いまこのふたりの差が歴然と物質界にあらわされていた!

 ホヘトは圧倒に対し笑う、笑う、大いに笑う!

「なんと最強で、究極なんだ! わヲんよ!」

 こんな嬉しそうな負け犬の遠吠えは、そう聴かない!

「言っておくが、どうらや良心を搔き立てるフェロモン波が効いてきているようだ」

 わヲんは涼しい顔だった。

 それにホヘトはなお歓喜で、咽るほどだった!

「つまりお前はぜんぜん本気ではないのか!」

「本気のつもりではあるけど、すこし躊躇っている」

「つまり良心があるのだな!」

「まぁ、あんたの思惑通りにな」

「では、やってくれるな!」

「お前のためじゃない。この星に住む人々、ノアの意志のためだ。それにお前は許せない」

「いいさ! 私の命なぞ奪うといい! 創造主へすら破壊を与えなく、大事はなせない!」

 わヲんは拳を震えるほど握る!

 それからまた叫ぶ!

「ああああああああああああああああああああ!」

 焔が「あ」に反応し、増大!

 増大したのが、拳に集中する!

 同情なぞいらない!

 あらゆるしがらみを吐き捨てるようになお叫ぶ!

「ああああああああああ!」

 もはや、果てまで轟くうるささである!

 そして急降下!

 ホヘトへ向け、青く閃光となって迫っていく!

 だが、ここでホヘトの背から翅が、乖離する!

 翅から少女イロハが、生える!

 わヲんと、ホヘトのあいだに割って入る!

 あっけなく青に貫かれた!

 わヲんは思わぬ、打倒にハッとなる!

「お気になさらず。ただ私は作られた意義に忠実だったのです」

 風穴のあいた完全無欠のロボット少女が、それでも痛ましく微笑み、そうつぶやいた。

 これが聞こえて、聞こえたからこそわヲんはその拳を!

 それでもと!

「あああああああああああああああ!」

 ホヘトへとまっしぐらに放った!

 あたり一帯が爆ぜた!

 木々も!

 大樹も!

 山も!

 ごっそりえぐり取られる一撃だった!

 あまりにオーバーで、自然破壊であると思っただろう!

 しかし、わヲんの怒りのやり場は、もうそこにしかなかったのだ!

 すべてが収束したとき!

 山だった窪地のなかに、わヲん、レミファ、ノアだった体、壊れたイロハ。

 さらにホヘトが滅びずにまったく残っていた。

 恨みなぞさっぱり消して、慈しむようにわヲんは拳を見つめた。

 それで目の前で不思議そうに瞬くホヘトへ、

「真実を知って、ア動力炉、いやノアの心が許したのだ。なら僕も許そう」

 そう清々しく諦めた。

 良心とは、正義の恐るべき敵であるかもしれなかった。

 

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