ガラクタの取り柄は、第一に使われないことである。
さあ修行も終わった!
修理も済んだ!
晴れて自信溌溂として、胸を張ってノアに会えるとわヲんは思う!
で、イロハに連れられて、発射砲台の一室。
まぁ、砲台がまだ少女だから、だいぶ空き室だ。
ただぽつんとノアがいた。
笑ってくれた。
もう大丈夫そうだった。
が、わヲんは素直には受け取らなかった。
この人を傷つけたのだと思った。
修行の甲斐はなかった。
罪悪感がわヲんを委縮させる。
歩み寄る足も鉄下駄を履いた気分。
笑顔には気にしていないよという、優しさが含まれていると感じる。
真意はわからない!
だが申し訳ないわヲんには、そう解釈されるのだ!
受け取り手の問題!
一枚の決して上手くもなく、それこそ落書きのような絵に何千万もの値がつく!
そんな時代だから笑顔にだって、それぞれの評価額がつくのだ!
よってわヲんはこの作ってもらった笑顔をひとり競売!
みごと買わねばいけない!
しかし一文無し!
なにを返せば、この笑顔の憂いを晴らしてやれるか!
さて、わヲんは振り絞ってみる!
それでも絞りきって、これしかないを見つけた!
この始末で出せる身銭はひとつ!
誠意の宝刀!
土下座である!
「すまなかった! 許してくれ! なんでもする!」
おまけになんでもするとまでつけた!
石頭が冷たいツルツルした床を叩く!
床が卵みたいにひび割れる!
とりあえず謝っとけで出てくる土下座ではない!
床は弁償しなければならないかもしれない!
だが、そんなことはどうでもいいとばかりの威力!
これほどの誠意はそう見られるものではない!
「僕はロボットとして半人前だ! いや半人前どころか、四分の一人前にもならない!」
床のひびが酷く広がっていく!
ヘッドバンキングにガンガン頭をぶつける!
もう逆にふざけているまである!
現に遠巻きの出口あたりから見守っているイロハが、零下何度だろう瞳をしている!
ような気がわヲんはする!
まぁ、ノアが許すか、許さないかであるから、どうでもいい!
「僕はなにも守れやしなかった! 許してくれ!」
二度目の許してくれでわヲんは悟る!
もはや許してくれなんておこがましかないか!
起こしてしまったことは取り返しがつかない!
そして気が付く!
僕はいま!
楽なほうに逃げているだけじゃないか!
やはりどこか自分本位なところが残っている!
それではいけない!
あの修行に意味があったかわからないが、ここままでそういうところが災いだった!
わヲんは土下座を取りやめた。
床はただ無駄に傷ついただけだった。
ノアは黙って真剣に見つめてくる。
わヲんは許しを乞うのではいけないと考えた。
だから!
「いや、よく考えれば君が悪いよな。僕は君の弱さにせいせいした。どっかいけよ」
ここは、あくまでも冷徹で突き放すべきだ!
わヲんはいま、心にもない表情で、心にもないことを言っている!
とても心は苦しい!
さっきまで熱烈に土下座をやっていてからの温度差がなお苦しい!
だが、善意も羞恥も捨てただ鉄面皮を演じるのだ!
これはテイク二である!
土下座はなかったのだ!
冒頭からカットして編集してつなぎ合わせれば、まったく違和感はないはずだ!
そしてこれでノアに思いっきり恨んでもらう!
なんなら復讐してもらう!
それで自身のいなくなったとて!
彼女の心がわだかまりなく救われるならばよい!
これぞ真わヲんによる真の滅私奉公!
「だいたいいつも黙って、すかしてほんとう気に食わない奴だ!」
ただ正義感がひたすら傷つく!
無感情に振る舞って言うたび、心を鞭打ちされていく!
あぁ泣きたい!
逃げたい!
嫌われたくない!
されどそんなこと言えるご身分ではない!
雑念振り払って、より決定打を狙う!
「僕は君みたいな奴は大嫌いだ!」
こう言い切ってしまうと、そういえば前にもこんなやり取りがあったと思い出す。
ただあのときは……。
逆だったか。
手を握られるあたたかな感触。
これもまた逆さまに与えられる温もりであった。
手を取ってくれたノアはやっぱり屈託なく笑ってくれた。
「ありがとう」
感謝があって、白く眩くなった。
この爆発はなんの復讐でもなかった。
心からの台詞であった。
眩い光が終わると、ノアはわヲんを抱擁していた。
落書きみたいな芸術だってとんでもない値で売り買いされる。
そして落書きにだって意味があるのだ。
一円にもならぬ、つたない似顔絵をみた母親が涙を流して喜ぶことだってある。
このときふたりの心は、受け取り手の問題ではなくなっていた。
共通のなにかがあったのだ。
もうすぐまた発射のようだ。
離れていたイロハがつまらなげ抱きしめあうふたりを避けて通る。
「なんだか危ない気がしたんですよ」
とその勘は大当たりであった。
やがて変形し、砲身が首を振り始めている。
わヲんは、となりのノアを見つめて、
「僕は君を守って見せる」
そう、また誓ったのだった。
ノアは語らずただ、その守りたい表情でいてくれた。
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