ドラム缶のなかで夕焼けをみたが狭い。
修行といたってどうしたものだろう!
なんでも修行の部屋があるそうなので、イロハに案内を受けている中途。
付いて廊下を歩くわヲんは、その響きに夢中であった。
滝行、荒行、瞑想、筋トレとかいろいろある。
おもえばかの赤叉によって、挫折こそすれ当社比にて最強になりかかった。
そんなわヲんである!
だから修行すれば、ふたたびその道を開くかもしれない!
そういう期待もあった!
「ここです」
少女イロハが、示した。
両開きの重厚かつ丈夫げな鉄の扉。
無骨であるが、それこそらしい。
というわけからより気分も盛り上がって、思いっきり開けてみる!
明るくドでかい、体育館みたいなところが広がった!
ただ修行道具のようなのはなにもない。
どころかどんな物もない!
大げさに直方体を広げただけ!
わヲんがひとり入るなり、扉の閉め切られた!
鍵がかかったガチャンとかかった!
静けさと同居した!
だがべつに逃げはせんと、わヲんはふり返りもしない!
するとホヘトの声が、どこからともなく、
「わヲんよ。これからお前にはこの大部屋で修行してもらう!」
「早くしてくれ。とてつもないやる気が僕のなかで疼いているんだ」
「わかった。修業とは己との闘い心してかかれ」
放送の切れた。
すこし静まってから、ことが起きる。
対面にも扉があり、ここが開いた!
どうやら修行が入ってくる!
扉が閉じる!
入ってきた者と、わヲんだけ!
いや入ってきたのも、またわヲんであった!
「僕じゃないか!」
生き別れた双子どころか、クローンと呼べるほど瓜二つである!
服装まで同じだから、傍目にどっちがどっちやら。
間違い探しならぬ間違いない探しだから、悪魔の証明にも似た難しさがある!
そしてややこしいようで単純だが、わヲんがわヲんの目を見つめたとき!
お互い察した!
ドッペルゲンガーというのがある!
じぶんと同じ人がいて、であったがさいごお互い消滅してしまうそうである!
これはそれの新説と呼んでよい!
どこかにあるかもしれないが、新説だ!
つまりなんで同じ人が出会っただけで、対消滅するか!
答えは簡単である!
わヲんふたりが思うように!
お前がいると、僕のアイデンティティがなくなる!
ゆえ倒さねばならない!
さっそく一言もなく、突進し合い!
一発殴り合う!
頑丈さまでそっくりそのまま!
ますます消えてもらわねばいけない!
ところでどっちが本物のわヲんだろう!
「僕はお前に消えてもらわねばいけない!」
「僕だってそうだ!」
どっちがどっちかはわからない!
しかしどうでもよい!
また殴り合う。
数発やりあって、お互い同タイミングで疲れた!
暗黙裡にインタバルが入る!
そこまで真似る必要があるのかというほどだ!
物まねだってもう多少の誇張が入るか、あんまり似ていないかである!
でないとウケない!
なんとややこしく、おもしろくない勝負だろう!
「僕はすべてにおいて強くなるため、戦うのだ!」
「僕だってそうだ! また僕はそれから正義を行使し、すべてを守るのだ!」
「僕だってそうだ! だから負けるわけにはいかない!」
「僕だってそうだ!」
どんな叫び合いも、僕だってそうだで解決してしまって、なおつまらない!
しかしやはりどっちがどっちかと真偽を決することはない!
たとえ偽物が本物になったっていい!
なぜならここまでやり合い話しただけで、わヲん同士わかったからだ!
僕らには互いが互いに遜色がない!
ここで先生からアナウンスの入る!
「どちらのわヲんにも、わヲん専用の物凄い希少金属を半分ずつ使っている」
よってと放送は断言する。
「性能差はない!」
で、切れた!
ふたりは不敵に笑う顔を見合わせる!
「性能差がないだって」
「じゃあ僕たちは、ほんとうに鏡写しどころじゃないな」
「いや、そんなことはない!」
「あぁ、そうだな! ここまでの体験が違う!」
「その通り! もし性能差だけなら引き分けだ!」
「しかしこの戦いには決着がつく!」
「なぜなら!」
「「思いの丈が違う!」」
こればっかりはどんな鏡にも映るまいものである!
体験したものが違う!
まさかここまでのあんな情けなくも泥沼な戦いが、この世にふたつとあるわけがない!
なにより!
傍に血の通ったノアがいたはずがない!
またノアを目の前で失いかけてもいないはずだ!
それにたといその記憶をコピーできたとて、まったく同じ心にはならない!
感動モノの映画を見るのと、その感動モノの映画の実話を体験した人が同じ感情か!
いや違う!
ながしている涙の意味合いも違えば、後々の経過だって違う!
映画館をでれば降ろせる重荷と、生涯かけて覚えつづける重荷!
まったく違う!
つまりこの戦い!
思いの丈の違いが、どっちか知らんが勝利をもたらす!
そして!
本物が勝つのではない!
勝ったほうが本物だ!
オリジナルだ!
真だ!
そう、真わヲんである!
修行とは、まさしくバッタもんでも己との闘いである!
過去にここまで修行らしい修行があったか!
いやきっとたぶんない!
さあ、ふたたび殴り合う!
どこもかしこも、ボロくなる!
傷がつく!
痛みが染みる!
まさか思いの丈まで同じなのかというほど両者、倒れても立ちあがる!
さすが僕だ根性がある!
きっと互いにそう思っている!
しかしもう限界だ!
これまたきっと同じ思いである!
もうおしまいにしようとする握りこぶしも同じ形である!
さいごの一発のために、ロボット二体駆けだした!
届いた拳は、一方のわヲんであった!
当たり前だがわヲんが勝った!
これにより真わヲんのチャンピオンベルトは、わヲんが肩に担いだ!
さいごの一撃で、倒れてしまったわヲんが機能停止の寂しい蚊の鳴くような音をさせた。
「さすが僕だ。なかなかかっこよく強かった」
自分を称える自分という、なかなかのナルシズムであった。
「良い修行になったよ」
おっと、もはや修行が終わったような言いぐさである。
残念ながらまだ終わらない。
どころか、もうつぎが待っている。
「い」
聞き覚えのある声だった!
ただ音だけが「あ」でなく「い」であった!
しかも体に覚えるの爆発に、吹き飛ばされる!
爆発のさなかその中心地へあった姿!
髪こそ青だが、やはりノアの見てくれだった!
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