水平ドラッカー
わヲんはこうなったら向き合わねばいけない!
ノアを守れなかったかもしれない非力!
じぶんの不甲斐なさ!
これらを研究所のあの黒い扉の病室のまえで、塞ぎ込んで決意しなければならない!
ちなみにもう病室のなかは改築され、どうやらノアの集中治療室になっていた。
あの戦いのあと、やはり蹴られた後遺症か、面会謝絶で入れられてしまった。
もはや待っていたってわヲんにできることなどなかった。
わヲんは猛省した!
ここまで戦ってわかったこと!
それはあまりにも己が弱い!
どのくらい弱いかといえば、もはやうずらの卵ほどである!
まだ産まれてすらいない小さい卵が、ちょっと机から惨く割れてしまう!
そういう孵化すらみていない弱さであり脆さ!
またここまでで騙しだましでは騙しきれないくらいの欠点がひとつある!
あまりにも体力が足らない!
いくら頑丈だって、三分も持たんのでは話にならない!
カップラーメンの計りにもならない!
こんな半端な時間では、世界なんて救えない!
あと一分あれば硬すぎず柔すぎずのいい麵でできあがるのだ!
なのに足らないせいで、ノアだって戦わざる得ない!
なにもかも傷つけ、そのくせ頑丈だから生き残ってしまう!
なんとジレンマだろう!
そしてこれだけ反省すれば、もう塞ぎ込んではいられない!
あれをやるしかない!
あれってなんだと思うだろう!
いまのわヲんの、まじめな顔を見れば誰だって悟るはずだ!
そうか、あれかと!
たしかにそれしかない!
具体的になにかわからなくとも、こうなってくる!
そう、中身もなくあれからそれへと期待が上がっていくのだ!
で、決心したわヲんが、あれのため迷路を歩く!
ひたすら歩き、なんとか脱する!
脱出してから、あの毎度帰ればどっかから生えてきているテレビ山積みの部屋へ!
それからテレビのつけば、あいかわらずホヘトのワンマンショーである!
「どうかしたのかな、わヲんよ」
「先生! 僕はノアを守る! そのために強くなる!」
「いい心がけだ」
「それであれをやろうと思う」
「そうだな。あれをやろう。覚悟はできているか!」
「僕の目を見てほしい!」
いかにこれが真剣な眼差しだったか!
目つき顔つきがその人の心を表す!
情熱を!
魂胆を!
覚悟を!
わヲんの瞳のなかでは、あらゆる闘争がおこっている!
赤壁の戦い!
桶狭間の戦い!
百年戦争!
そしてワールド・ウォー!
そう世界すべての戦いの歴史が、その瞳が燃やす情熱から始まるのだ!
こんな瞳を見せられて、いくらロボット先生でも、冷たくはいられない!
「うむ、どうやら覚悟はいいらしいな!」
「あぁ、望むところだ!」
「ではいまより始めよう!」
ここでようやく察しの悪い方々にもわかるよう、あれが明文化される!
心して聞け!
「対巨悪無差別撃退柔術の修行をな!」
どうやらわヲんも衝撃であった!
わヲんも察しの悪いうちの者だった!
「しゅ、修行?」
「どうした、なにか問題でもあるか!」
わヲんの瞳に宿るあらゆる戦は、一時休戦。
どうやら和平交渉までしなければいけない!
「修行、修行ってあの修行?」
「ほかに修行があるのか?」
世には修行と呼べるものは、腐るほどある。
最近はトレーニングとか、練習というほうが新鮮だったり通例だったりする。
修行という言葉はその分ほんとうに賞味期限の切れて腐っていきそうな傾向がある。
しかし消費期限がだいじょうぶなら、まだ修行でいける!
だがわヲんが言うのは、そんな誤謬の揚げ足取りなことではない!
もっと根本な部分で疑問がある!
「ロボットって修行して強くなれるのか!」
「やってみる価値はある!」
「先生、それってどれくらい価値があるんだ!」
「んなもん知るか! しかしやるだけやってみるこそ大事なんだ!」
「なんて非効率なんだ! それでも科学者か!」
「科学こそ地道な日々の積み重ねなのだよ!」
本職が、凄んでいうから説得力があった!
だが、それではわヲんが持ってきたあれがダメになる!
それはいけないと、また休戦協定は破られる!
「待ってくれよ! 僕はじゃあ違うあれを提案しに来たんだ!」
「修行以外にあれはない!」
「あるさ!」
「じゃあ、言ってみろ!」
「改造だ!」
改造!
なんと心くすぐられる漢字二文字!
改めて造る!
修行に負けず劣らず腐りだしている気もする!
が、情熱という火の通せば、食えないことはない!
熱処理こそ古来から続く、クッキングである!
さあこうなれば修行と改造がぶつかり合う!
「改造……ダメだ! 修行しろ!」
修行派のホヘト先生が唾を飛ばすほど大激怒!
「なんでだよ!」
わヲん、負けじとそばのテレビをぶっ叩く!
「先生は僕を作ったんだ! だったら改造、強化で、かっこいい武器だってつけれる!」
「作り手だからこそ、私はお前を知っている! ゆえダメなのだ!」
「僕は役に立ちたいといのだ!」
「ならば修行せよ!」
「そんなのロボットらしくない!」
「どうせ強くなるのは同じことだ!」
「この際、もうそんなことどうだっていい!」
「なんだと!」
この先生のなんだとと驚くのは正しい!
強くなりたいわけでない!
ならこのロボットなんであれやそれや持ち出して、しまい改造なんて持ち出すのだ!
ではこれへ答えるわヲんの叫びを聞くがよい!
「僕は一夕一朝で見るからにかっこよくなりたいだけだ!」
そう見るからにかっこよければ凡そどうにかなる世の中である!
別に努力せずとも、モテはする!
自信もついて勉強やスポーツも仕事もできる気がしてくる!
できなくたって、顔はいいと慰められる!
不細工よかイケメンであるし、美女である!
不細工でもいいというなら、有名ファッション雑誌の表紙をみよ!
おおかたでかでか載っている人間たち!
それは街中でこんな顔面そう見かけないぞという整ったもんだ!
高い値をだして整形する人間は、これだけの恩恵を買っているのだ!
そりゃいくらでもだす!
そしてもし天恵なんていうのがあるとすれば、それは産まれもった顔面にある!
ルッキズムこそ現世の苦しい戦いを良く抜ける力を持っている!
これほどの力ある主義なのだ!
とまぁ、偏見ではある!
しかしわヲんは、この偏見でもって、かっこよくなりたいのだ!
自信が欲しいのだ!
せめて楽してメンタル強化したいのだ!
「僕はもうこんなアナクロで芋臭い学ランを一転、卒業したい!」
「馬鹿をいえ! お前のデザインは私がかっこいいと思う形だ!」
「だから古い! ここまで出会った人やロボットはいまどき感があった!」
「ダメだ! そんな七めんどくさい! 金や部品が勿体ない!」
「いやだ! かっこよくて強くて、手からビームとかミサイルとか出したい!」
それもまただいぶ古いロボットファッションであった。
携帯を与えたくない親と、みんなの持っている携帯がほしい子どもの図式であった。
だがこんなのも、さすが作った親である!
先生からトドメの一言!
「だいたいお前の性質上、もう改造できる余地は残っていない!」
そんなわがまま言うなら、買ってもらえる家へ出ていけ!
に匹敵する一言であった!
わヲんは暴れなくなって、ただ唸った。
「そんな! 嘘だ!」
「嘘じゃない! お前の体はなにより硬い! その硬さゆえそう改造できんのだ!」
「じゃあ、せめて服装だけでも!」
「ファッションやってかっこつける暇があるなら、かっこよく戦わないか!」
わヲんは、この大きい声に心打たれた!
改造ができないことで、むしろ吹っ切れた!
「まったくもってその通りだ!」
見た目なんてなんになるんだ!
老いればただ皺を刻み濁っていくだけの水面じゃないか!
それでも水底に金銀財宝が沈んでいれば、いつか一等星のように光りだすもんだ!
そう、かっこよさとは中身からにじみ出る!
なんどへこたれたって立ち上がり生き抜いた年季!
これがふとしたとき、顔にも出れば背にもでる!
中身ができていないのが、いくら着飾ったって意味がない!
ラーメン頼んで中身のない高級どんぶり鉢だけでてきたら、クレームがつく!
広い家に住んだって、家具がなければ寂しいばかり!
株が暴落すれば、偽造防止徹底の紙幣だって紙切れで、だれも偽造なんてしない!
ルッキズムはいつでも中身の真価へへつらう下っ端である!
たしかに外見は自信になるかもしれない!
けれど自身がついたところで、できる気がすると、できるは違う!
勉強はやっぱり赤点であるし!
やっぱり運動音痴であるし!
やっぱりうだつが上がらないのだ!
だが中身を身に着ければ、それは自信どころではない!
かっこよさも実力も、なんなら強者の気風まで欲張りセットでついてくる!
そして人も、ロボットもこの中身を鍛えたければやるしかないのだ!
あれでもなくそれでもなく、改造でもない!
「先生、僕が馬鹿だった!」
わヲんはあの集中治療室のまえより、猛省も猛省だった!
「らくして強くなろう! 努力とか頑張るとかだるい、ダサい! 正直そう思っていた!」
もう迷いわない!
まだ瞳のなかで過去の戦いしかは行われていなかったのだ!
しかし、ついにわヲんの現実が開戦するのだ!
いかにめんどくさくとも!
意味があるのか、超過労働じゃないのか、手取りが少なくないかとか疑問を思っても!
そんなのは弱音だと押し黙ろう!
「僕はかっこよく強く自信満々になるため! その修行! 受ける!」
「ではわヲん、覚悟して挑むがいい!」
もう悪者なんじゃないかくらいホヘト先生も高笑い!
よし、ではブラック社員はできあがった!
では次回、対巨悪無差別撃退柔術修行編である!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます