マッシュルームとメロンの違いが遠く離れると僅かである。
せっかく位置についてよぉおいまで並んだのだ!
ハーフサイズでも同じ罪を持ち、同じ功績を持ったのだ!
しかし無為にされた!
まさに一蹴!
それも一度は倒した亡霊から!
亡霊ロボットは、砂漠で敵対したのと変わらない女子高生の姿!
ロボットとは幽霊になんてなるんだろうか。
だが透過してもなければ、足先を失っていくわけでもない。
レミファはくっきりはっきり、万全に登場している!
そしてそんな生ける亡霊が、わヲんから半身と呼べる者を奪ったのだ!
走者を強引に自分へすげかえてきたのだ!
カラフルな丸石のうえで、替えられたノアが石ころみたいに転がっているのだ!
こうなればわヲんだって、恨みつらみの亡霊にならざるをえない!
「お前! よくもやったな!」
「あんたらが私へしたことへ比べればマシってもんよ!」
詫びればすこしは無罪放免としてやろう!
なんて気はさらさらない!
が!
反省も謝りもなく、どうやら逆恨みだけできている!
ノアを蹴ったのだって気分いいらしく、歯までみせて笑っているではないか!
こんなのは恨んでいい!
潰してよい!
弔ってなんてやる価値もない!
わヲんはなにもかもぶちぎれていた!
「僕からノアを奪う正当な権利が、お前なんかにあるわけない!」
「ないさ! けど逆転してあんただって同じ穴の狢だ!」
「なんだと! 僕はお前から奪ったものなんてなにもない!」
「そこにぶっ壊されているエビシーはな! 私の恩人だったんだよ!」
涙だった!
怨恨の涙が、なんと美少女の右頬を伝った!
わヲんも涙は出る!
しかし敵から出たのは、カルチャーショックであった!
そんな機構が血も涙もない悪からにじみ出るんだろうか!
また恩人という言葉は、これも冷徹無慈悲な悪からとても聞かれるものではない!
わヲんは昇っていた怒気が、顔を洗ったように怯んでちょっと収まる。
「恩人だと?」
「そう!」
「恩人っていうのは、お前を助けたってことだぞ!」
「だからあんたらに壊されたあと、回収して直してくれたのがその人なんだ!」
「な、なるほ」
「ど」を堪える!
いままでのわヲんならば、これにて納得!
こちらだって、悪かった!
命の恩人を奪ったなら恨まれても仕方あるまい!
なんて懺悔までしただろう!
しかしまだ恨みは持続している!
あちらの恨みと、こちらの恨みで競っている!
負けるわけにはいかない!
まだこの怨念の徒競走は終わっていない!
出鼻をくじかれただけ!
コーナーで差がつく!
いまだその大曲にさしかかってはいない!
「そんなの悪党がお前を再利用するためにしたことだ!」
「じゃああんたはどうなのよ!」
「僕は正義のために戦っているのだ!」
「正義とのたうけど、その正義ってのは私が彼女を守ろうとしたことと何が違うの!」
「だが間に合わなかっただろう!」
「あんただって、間に合っていないじゃない!」
「お前が大事にした人より、僕の大事にしていた人のほうが優しかったに違いない!」
「そんなのどうやってわかるっていうのよ!」
「そっちから吹っ掛けたのだ! やさしさのメジャーをもってこい!」
「ふざけないで、だいたい身長なら、エビシーのほうが高い!」
「いや! どっちもそう違わない! なんならノアのほうがきっと一センチほど優位だ!」
よく子どもの口喧嘩で、互いに泣いてしまって優劣なんて消えてしまうことがある。
それがこのロボット間で起こりそうであった!
こうなればお互い、知り合いの自慢合戦しなければならない!
凄まじく哀れで、無意味に映るだろう!
しかし聞いてほしい!
二体のロボットは、こう考えるのだ!
しでしかしたことがあまり変わらない!
互いに大事な人を奪ってしまった!
互いに傷つけあってもいる!
恨まれてしかるべきかもしれない!
だが!
まだ行いに正当性を持たせる活路がある!
こうなれば奪った者の価値が少しでも高いほうに分があるのだ!
正当な復讐をする権利があるんだ!
となっている!
「エビシーのほうが賢い! きっと知能指数百六十はある!」
「ノアだってきっと賢い! 数学のテストで満点をとったと嬉しがっていた!」
「運動神経だって、きっといい!」
「ノアは体力は並みで転んだりするが、何度でも立ちあがるぞ!」
「根気なんて、当たり前なのよ!」
「運動なんてできて、プロにでもならなきゃ宝の持ち腐れ!」
「そりゃ高性能だもの行けるでしょう!」
「あの体で出場したらドーピングだぞ!」
過保護なモンスターペアレントのいがみ合いであった!
だが、レミファはなんと最終兵器が残っていた。
彼女は尖がった爪の先で右頬を擦った!
すると涙でなく、機械的なものでもなく、純血の垂れた!
「お前、人間だと!」
「人間じゃない! 私はエビシーの肉体を半分より少ないけどもらっている!」
「なぜそんな!」
「部品がなかったから。あとは気まぐれと好奇心でしょう」
人らしい透明な涙が切実である!
レプリカの涙ではない!
真実の涙である!
「けど私にはその身を分けてまで命を救ってくれた恩人なんだ!」
王手であった!
コーナーで切迫して、ストレートで倍以上離された!
さすがカンガルーの足である!
わヲんは投了しようとした!
スプリットをかけるどころか、脚の回転を緩めた!
されど、相手も待ったの提案をしてくれるだとか、おてて繋いで頑張ったみんな一等賞!
そんなことは許されない!
なぜなら勝負であり、恨んでいるから!
ここぞとみれば腕組み自慢げ!
徹底的に来る!
「それで! あんたのところの子はそんなことをしてくれたの!」
正直に心のなかで答える!
そこまではしてくれていない!
なんて強いエピソードトークだ!
もはや血の分けた双子!
義兄弟の盃を酌み交わした仲!
それに比べて、ノアとわヲんはどうだろう!
言葉だけにすれば、守ろうと近づけば爆発してくる少女と巻き込まれるロボット!
いやしかし優しいと否定する!
だがそれだってどうだろう。
と弱気になって否定しきれなくなった!
するとこの弱気が、ノアを貶めていくではないか!
優しい人という称号は、よくそのほか特筆したところのない人に贈られる。
よくよく思い出せば、ノアは言葉ばかりではなかったか。
いやいや、命の助けられたことは何回もある!
向こうが一度の助けの質でやってくるなら、わヲんは助けられた量と考えたのだ!
ただ一度、針の先ほども疑いだせばそこからきりが無くなるから、おっかないのだ!
でもその分ひとりで抱えてばかり、信頼して僕に言ってくれたことないんじゃないか?
いやいやいや、これは頼りない僕が悪いんじゃないのか?
でも僕ってそんなに頼りないだろうか?
ノアが強すぎるだけで、僕だって守っているんだ。
あとすこし信頼してくれたってよかったんじゃないだろうか?
だいたいひとりで解決するなら、僕なんていらないんじゃないか?
なんて女々しい正義のロボットだろう!
どんどん自分もノアも貶めていく!
もうわヲんの恨みの矛先はノアに向いていた!
それで出した答えはなんとも卑屈だった。
なんだよ、どうせ僕なんかいてもいなくたても同じなんだ!
卑屈どころか自身の不甲斐なさにいじけ始めた!
ただこのままわヲんを酷い奴だなんて思わないでやってほしい!
これからもっと酷くなろうというのだから!
わヲんはレミファを敵らしく睨む!
覚悟の据わった目であった!
レミファは訝る。
「なによその目は、もう一言もでないでしょ!」
「あぁ、でない。どうやらノアと僕じゃあお前たちの話と戦えない」
「じゃあ、私のほうに復讐の分がある!」
「お前なにを言っているんだ?」
これからわヲんはとてもまともで、狂っているという言い分を思いっきり放つ!
心せよ!
「そもそも復讐に正当性なんてない!」
その通り!
復讐へ正当性を求めるとは、獣に倫理を求めるのと変わらない!
サボテンに法律を勉強させるのと変わらない!
戦争をしながら平和を説いているのと変わらない!
復讐とは!
矛盾し!
不合理で!
良いも悪いもない!
感情のごり押しでしかない!
「お前も、僕もなんで正当性なんて馬鹿げた良心を覗かせたんだ!」
「あんたが正義がどうこうと言うからでしょ!」
「そんな正しいいことは訊いていない!」
もはやわヲんは怒りを取り戻している!
自分勝手で、わがままな復讐へひた走っている!
「僕は彼女を守りたかった! 守れなかった! だからその憂さ晴らしがしたいんだ!」
そう復讐とはそういうものである!
こういえば有利になるとか!
正義がどうだとか!
悪意があったとか!
その証拠だとか!
そんなものは裁判で片付けよ!
ここは不甲斐なさ!
やるせな!
自己嫌悪!
それらを発散し、なんにも残らん!
まさしく憂さ晴らしの戦場である!
さて、両者がここで同意を見る!
気力もどす黒くできあがって、悪人面が向かい合う!
「ふん、そうだね。私だってそうだ!」
「じゃあ」
「まず一方的に」
「潰させろ!」
これよりやっとこさ仇討ち合戦開幕!
メルヘン世界でバイオレンスとしゃれこもう!
と思われたが!
横やりに、突進してくるレミファの体を白馬が跳ね飛ばした!
人の私怨を邪魔する奴は馬に蹴られてなんとやら!
だが今回に至って邪魔したのは馬のほうであった!
「そろそろいいかと迎えに来ました。大丈夫ですか?」
大事なものを失い、大事な私怨もイロハの馬で空振った。
レミファの体は遠く、空の彼方で小さくなっていった!
なんとあっけない!
復讐者わヲんのやるせない失望が、そこで、
「ああああああああああああああああ!」
と言葉にならなかった。
またちょっと苦し気な呻きともども失ったはずのノアも、薄く瞳をあけた。
「おや、すこし早く着きすぎました」
気づいたイロハがギャロップですぐさま爆心地になるだろうところから一目散であった。
「あれ? 私、なんで?」
こんな弱り目でもしっかりメルヘンの森を包むほど爆発は膨らむ!
その光のなかでわヲんは疲れたように思った。
僕は過ちを犯すところだった。
復讐なんてするべきではないのだ。
その思いは更生者らしく聞こえる。
が、過ちだと思えるのはノアが生きていたからこそだっただろう。
ノアがいなくなっていれば、わヲんもレミファのごとく、復讐を正しく思ったのだ。
今回において、復讐の土俵にもあがっていないが、もしかしたら。
そう考えれば、わヲんは爆発のなかで安堵した。
けれど、それが止めば、更地のうえですこし怖くなった。
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