どんなに悩んでも腐るだけだと血液が回る。

 ビルは健全と残って、まったく天狗の鼻ようなものである。

 ノアは爆発を抑えたんだろう。

 さぁ最強談義で花咲いて、わヲんはあたりまえに生き残っている。

 でもう片方、なんと生き残っている!

 なんなら見てくれこそ、煤っぽくなったが姿ともに崩れはない!

 最強は伊達ではない。

「最強師匠!」

 最強の熱にやられてしまったわヲんが、この最強然とした姿に歓喜であった!

 お前のなにをしに来たのだ!

 寝返るつもりか!

 師事を仰ぐつもりか!

 こんな勢いで始めたトレーニングなんて長くは続かないぞ!

 痩せないぞ!

 継続は力なり!

 まぁ、いろいろ意見はあるだろうが、冷静にならず沸騰寸前の薬缶みたいな頭で考えよ!

 まっすぐで騙されやすい少年のまえに、最強を謳う男が現れる!

 しかもちゃんと完成され尽くした肉体美でもって、マッスル強そうなのだ!

 さらに敵の攻撃なんのそのの雄姿!

 かっこいい!

 憧れる!

 俺もあぁなれるかな!

 以上!

 少年の夢とはかくも単純である!

 ただもうひとり少女は、夢なんてとっくに冷めて難敵に苦い顔である。

 なんでも女性のほうが、精神年齢は早熟しやすいそうな。

 快活にして赤叉は最強の肉体に無敵の看板をつけてきたのだ。

「なんと遠慮がちな爆発よ!」

「さすがだ。師匠!」

 だめだ! 

 まだ夢を見ている少年がわヲんのなかで巣くっている!

 この洗脳を解くのは至難である!

 また変に改心させようとすれば、反抗期に突入してむしろ頑な岩になる!

 アオハルとはロックである!

 少女ますます、思春期の息子に戸惑う母の困りようだ!

 しかしここで、張本人たる赤叉からこの思春期に鉄拳が加えられる!

「馬鹿やろう!」

 重たく鋭くたしかに、喜びに緩む頬に入った!

 わヲんの頑丈な体すらもろともせず、その芯にまで響く打撃であった!

 とつぜんと師匠になった人から、とつぜんの手痛い仕打ち!

 さぁ、反抗が動く!

 いや、岩は動かなくなる!

「なにをするんだ!」

「お前はいったい俺をなんと心得る!」

「師匠だ!」

「違う! お前の敵だ!」

「な、なんだと!」

 まったくもって正論だ!

 そんな雷でも走ったようなショックをもらうこともない!

 なんなら泣きそうになることもない!

「そんな師匠! 俺を騙していたのか!」

「俺は最強の真実を語ったのみ! 勝手な夢を描いたのはお前だ!」

「なんということだ! なんでそんな突き放すんだ!」

「俺がお前と戦いたいからだ!」

「し、師匠!」

 お互いの瞳のなかで、燃えているものがぶつかり合う!

 なんという白熱!

 根源でこのふたりは通じ、また似通っている!

「いいか! 小僧! いまからお前へ師事してやれることはたったひとつだ!」

「耳をかっぽじってよく聞こう!」

「最強の弟子は! 師を超えるものだ!」

「そうだった!」

 愛や友情は時空間を関さない、いわゆるタイムマシンのような自由さがある!

 師弟愛もまた同じ!

 しかしこの愛情ゆえ、わヲんはまた時空間を要せずすぐ苦しむ。

「俺は師匠の背を追ってきた! なのにその人を!」

「まえを向くのだ、小僧! 俺だって最強だぞ! やすくは超えさえないさ!」

「でも俺は超最強になりたいんじゃない! 師匠の最強になりたくて!」

「馬鹿やろう!」

 また殴った!

 蹴りも入れた!

 頭突きも三度やる!

 なんという体罰!

 教育委員会が黙ちゃいない!

「お前はどうやら真実を教えねばならんらしい!」

「真実だって!」

 額の合わせた即席子弟!

 わヲんは体罰の染みた涙目で、真剣な師を見据えた!

 蚊帳の外で、ノアのそろそろもういっぺん「あ」と言ってやろうかと飽きている。

「俺は人間だ!」

「え?」

「はぁあ」

 飽きていたノアまでも「はぁあ」とやってしまう。

 やってしまって、なんとか爆破を堪えようと苦心した。

 さて、すこし頁を戻ってみたまえ。

 この最強が最強たる所以、最強論を語ったとき、冒頭言っていただろう。

『人間は!』

 と。

「俺は注射も薬も改造もない! 純然たる人間! 純粋にして最強の人間だ!」

「しかしありえない!」

「なぜだ!」

「あの爆発に人間の耐えるなんて、物理では」

「まったく昨今の若い奴は物理だ、法則だ、効率だ、限度だ、アナリティクスだと軟弱な!」

「でもそれへ勝るものなんて!」

「気合いだよ!」

「き、気合い! 物理に対しそんなでたらめな!」

「物理に反してなにが悪い! 気合いで片付けて何が悪い!」

「そんなの現実的じゃない!」

「いや現実で起こった以上は、もはや現実! 物理法則こそ夢物語となる!」

「ちくしょう! さすが師匠だ! 反論の余地がない!」

 いや、それどころか余地のありすぎて、もうそれでいいやと諦めてしまう威勢である。

 それでここらで堪えていたノアも限度であった。

 軟弱ながら屋上いっぱい広がって爆発した。

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