点滅トラベル

 わヲんとノアの問題はおおかた解決した!

 たぶん。

 もちろん関係性のある以上はどこやかしで悪化の因子が育っている。

 だがそんなこと気にしていたら、心なんて抱えて人と接せられない!

 悪意などと戦ってもいられない!

 というわけで、バンバンぶっ飛んでゆこう!

 イロハはもう大砲で、わヲんとノアを待っていた。

 やはり変形というには、オリジナリティや連続性に欠ける!

 おまけで、

「またあの迷宮で迷っていたんですか? 維持費もあるので、早くしてください」

 やはり熱量なんてマッチの芯ほども蓄えていない。

 わヲんは、もう張り合いがなかった。

 こういうのは年上として譲ってやることが、穏便である。

 けっして二の句で、反撃されて一発KOが怖いなんてことはない!

 さあ、戯言は置いておいてとっとと砲身へ潜って正義の砲弾となろう!

 ドガンッといって、バコンッと降りればもはや敵地なのだ!

 といううわけで、地面のせりあがって大きい山の頂上へでる!

 三角の頂点から、砲身が青空を丸く覗く!

 なんと快晴! 

 雲は欠片もない!

 前回おなじく、ドンッといった!

 で、今回悪の本拠地!

 いや、やはり支部は、発射場からうらっかわ!

 凄まじい速度で、太陽の沈んだ!

 マジックアワーなんて瞬く間!

 都市の中央でそそり立つ摩天楼!

 ないし、あるビルいっさいロケットにしてぶち上げたとしよう!

 そしたら真っ先に大気圏、ロマンチックにいえば天国まで迎える高層ビルである!

 眼下で街が光ひしめいている!

 そんな光だって、ここまでは及んでこない!

 まえのような、あんななんちゃってハウスではない!

 悪党らしいしっかりめ企業ビル!

 赤くランプの明滅するその屋上で着弾。

 ヘリポートのあのHが足元で描かれる。

 このほか、ちょっとした照明が端っこから照らしてくるだけ。

 しかしこうも派手な着地!

 ビルだってちょっとうねったんじゃないかという着地だ!

 もっといえば、ビルに砲弾をぶち込もう精神をもったほかの正義の連中もいただろう!

 つまり、警戒なんて当の昔からされており、なんの対策もないわけがない!

 さあ対策が出てくる!

 ひとり男であった!

 黒髪七三!

 ほどよくなんでも着こなせる身長一七〇!

 なのに半裸であった!

 細マッチョという体格だった!

 脂肪がなく、あらゆるところにマッチョの筋が浮き彫りになって一種の精緻な彫刻!

 そりゃ半裸のはずだ!

 もはやどんな高級ブランド!

 なんの革!

 どんな柄!

 セットアップ!

 さし色!

 スリット!

 スタイル!

 ファッションなんてこの肉体美でもって言えば小細工である!

 そう、今回そういう男、いやきっとロボットが敵なのだ!

「お前たち! なかなか根性な連中だ!」

 しかも気合だって、充分!

 ほんとうに悪なのかというぐらい豪快な大口であった!

「そっちこそ一人かああああああああああ!」

 だが瞬間の根性、大声、肺活量ならわヲんだって負けやしない!

 となりでいるノアが近所迷惑に耳を塞ぐほどだ!

 ただすぐ疲れるが。

「そうだ! 俺はコードネーム、赤叉あかさ! 傭兵だ!」

「いくら貰って保障もあるのか知らないが、たった一人とは難儀だな!」

「いや、俺ひとりで充分、いやむしろ独りでなければならない!」

「ずいぶんな自信だな!」

「そりゃ、そうよ。なんせ俺は最強だから!」

「最強だと!」

 最強!

 なんということだ! 

 ロボットといえ、あきらかに成人している姿の奴から聞く単語ではない!

 アイアムサイキョウ!

 モットモツヨイ!

 そんなことを根拠や理論、実績すらひけらかさず口に出す!

 また恥ずかし気もなく自信だけで言ってのける!

 わヲんはこのとき思った!

 むしろ真実臭い!

 いや真実かもしれない!

 そして気圧された!

 勝てない!

 だって真実ならば最強だぞ!

 そんなことはあり得ないと思う人もいるだろう!

 しかし考えよ!

 君の目のまえに、いきなり神様と名乗る人が現れる!

 一見ふつうの人だ。神様なわけはない。しかし君は思うはずだ!

 俺、神様にあったことねぇや。

 そうすると薄っぺらい先入観が剥がれ、だんだん自信が削がれていく。

 これと同時に、目の前の人のそれらしさが目に付く。

 そして挙句の果てには、おかしなことに自ら肯定的な箇所を集め始める。

 本物って実際みつかったら、こんなものかもしれない。

 で、気づけば君はよくわからない新興宗教に加入し、信じる君は救われている。

 とまぁ、あるかもしれないわけだから、気をつけるのだ!

 でないといまのわヲんの有様になる!

 わヲんはいま最強について囚われ考えなければならない!

 深く、深く、足らない頭で深読み、この最強を打破せねばいられないことになったのだ!

 そもそも強さとはなんだ!

 この男はもっとも強いなんて言っている!

 どういった意味で強いのだ!

 ジャンケンで考えよう、パーはグーより強い、グーはチョキには弱い!

 で、だからなんだ!

 そうかジャンケンには最強は存在しない!

 してはならない!

 きっとそれは反則だ!

 これをもとに考えれば、なぁんだ最強なんて存在しないんじゃないか。

 だが待てよ。ならばなぜ僕は怖がったのだ?

 埒のあかないジェットコースターをエンドレスにやっていた。

 ここで意外にも相手方から答えがあった。

「お前、いま最強について迷っているな!」

 図星であった!

「では教えてやろうじゃないか!」

 さあ、ようやく戦いか!

 そうではなく、ちゃんと口頭の説明であった!

「人間は!」

 まずここから始まった。

「命、金、欲望、浪漫、親愛、恋愛、信仰、道楽! あらゆるところから強くなれる!」

 しかし! と男は腕組み威張り、力強い!

「真の強さはこのあらゆるものからひとつを選りすぐらねば始まらぬ!」

 どうやらこれは長いらしいとわヲんは感じてきた。

 けれど聞き入る!

 なぜだか、聞かねばいけない熱が起こったのだ!

「そして選んだなら、ほか一切合切みすてそればかりのためにひた走らねば手にできぬ!」

「それが強さだと!」

「そうだ! 強さとは求道なのだ!」

「なんて気迫の説得力だ!」

「求道とは果てしなき一本の道である! お前に見えるか! この道が!」

「悔しいが見えない!」

「では甘いな! 俺には見える!」

「な! なんだと!

「太陽系を突き抜け、天の川銀河から飛び抜け、銀河団なんぞなんのその!」

「そんなに伸びているのか!」

 わヲん、もはやおかしな熱意へあてられ、夜空をありえない道を探している。

「そして宇宙の膨張速度へすら追いつき! なんと追い抜く!」

「なんて果てしなさだ!」

「そうやって、まっすぐまっすぐ伸び続ける果てしなさ! さぁお前はどうする!」

 なぜ追い込まれたような汗をたらりと垂らして、地に拳を突く。

「見えもしなければ、見えたところでなんて絶望なのだ!」

「違う! 違うぞ若造!」

「師匠!」

 敵対者らしいのに、師匠とまで言い始めてしまった。

「この果てしなさをよっしゃあ、いよいよ俺好みじゃないか! と突っ走るのだ!」

「そんなお終いだってわからないのに!」

「そう、一種のバカ! ある意味、愚者! 控えめに狂っているだろう!」

「はい、そう思います!」

 もはや敬語である。

「そういう奴こそ、宇宙をほったらかして、自分の命すら投げうって辿り着くのだ!」

「どこに!」

「求道の頂点!」

「求道の頂点だと!」

「そう安直かつ稚拙、されど聞くなら心躍り、身震い! 叫び! 極まる!」

「ま、まさかそれこそが!」

「あぁ! それこそが手にすれば誰もが伝説となれる二文字!」

「最強!」

「そうだ! 最強! 最も強い! 唯一絶対孤独! 森羅万象大超越の不敗神!」

「なんてかっこいい響きだ!」

「いや不敗神へすら敗北を与えてしまう天上天下に比肩を許さぬ強さ!」

「もうどこまでいってしまうんだ!」

「どこまでもだ! これぞ求道! これぞ最強! 究極の最強!」

 アルティメットストロング!

 信奉したロボットと半裸傭兵は夜の星々へ一緒に吠えていた。

 すこし離れたところ。

 この冷ややかだったノアが、座りこんであまつさえ眠ってしまいそうだった。

 しかしようやく終わったのを見ると、

「あ、終わった?」

 まぁなんだかよくわからぬノリ感の火炎であった。

 だから「あ」の滝をぶっかけてほどよい収拾であった。

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