泥水へ映ったところで太陽は輝いているものである。

 どういう砂風の吹き回しで、美少女ロボットは復活できたか!

 灼熱砂漠のうえへぼろったくもいま立って、敵を睨んでいるか!

 まずその答え合わせ!

「まずい気がしたから、全速力もって逃げたのさ!」

 当人が言うのだ。

 腕一本、体の半分を焦がされながら言うのだ。

 これは覆らない現実である。

 たといこれで、気合でなんとかなった! 

 と戯言を、ご本人が目のまえでいる以上、やはり現実!

 しかしわヲんはこの現実!

 圧倒的な危難を晴眼できていた!

 ノアはバテきって「あ」も言えない。

 こんな砂漠で、こんな強敵で、助けなぞ望み薄。

 むしろ燃えるじゃないか!

 わヲんは相手を見定め、拳を固める!

 さっき一度追い込まれた、いや自滅したことはたぶん忘れている。

「さあ、かかってこい!」

「おや威勢がいいね」

「まさかさっき負けたことを忘れていないだろうな!」

 なんと都合の良い解釈だろう! 

 だが平和な世では、こういった自分次第な前向きな解釈こそ精神を豊かにする。

 まあ、いまは非平和な争いの真っただ中だが。

「忘れてないから、その子がバテていまちょっと安堵しているわ」

「ほう、では僕だけなら勝てるんだな!」

「だって一回勝っているから」

「君は右利きだろ」

「だったらなによ」

「右手がないじゃないか! 利き手が使えないだけどれだか不便だと思う!」

 たしかに人なら箸もまともに持てない、鋏も使いにくい、字も汚い。

 悪いことづくめだが、だがわヲんよ!

「私、両利きだけど」

 そう相手はロボットである!

 そしていま、打ちひしがれたよう地に膝をつくお前は、

「負けた! 僕なんて左利きで作られているのに」

 右社会でちょっと不便の多い左利きにくわえ、ポンコツである。

「あと私は脚力でやんのよ」

 カンガルーの脚が、すこし大股に構えられる。

 茫然自失。

 虚脱で動けないわヲんのそれどころではない。

「なんで僕は両利きじゃないんだ! ちくしょう!」

 言っている場合でない。

 もはやレミファが、走ってきている。

 それもノアである!

 ちゃんと賢い!

 まず厄介なのから消しておこう算段である!

 ここでわヲんの思考は、悔しさにあってまだ光を失っていない。

 まず心の整える!

 待つんだ僕!

 右利きや左利きや両利きなんてなんの自慢になるんだ!

 宴会でやってみろ!

 へぇ、そうなんだ、で?

 そう「で?」が来るぞ!

 そっからどういう凄技ができるんですか? というところに差し掛かる!

 そしてなにもないということが勘づかれると、みんな冷笑ぎみ、意外と感想!

 くだらない! 利き手がどうかなんて実にくだらない!

 こんなくだらないことを自慢する敵だ!

 どうせくだらない奴なんだ!

 この正当化は、たったコンマ三八秒で自信を取り戻させた。

 それから状況把握へ。

「あ! ノア! 危ない!」

 コンマ三八だから早かったが、敵さん足はもっとはやいのだ!

 いまから全力で駆けて、追いつけるか!

 いや追いつく!

 僕のほうが断然ノアへ近いのだ!

 わヲんは走り出した。

 砂は強く踏みこむだけで、溝になって足掬ってくる!

 しかし、そんな走りにくさは向こうだってと見れば、早い!

 姿も残像でしかない!

 そこで思い至る!

 あの女はここのため作られ、なんならおそらく暮らしていたのだ!

 一軒家まであったのだ!

 それがこの砂対策を講じていないわけがない!

 ええい、こうなったらば理屈は捨てる!

 わヲんはなりふり構わなくなった!

 どんな劣勢も負けないと思えば負けん!

 たしかにこう理屈は捨てられていた。

 守りたい人のいる前だけ見た!

 さあ、決着はいかに!

 わヲんが間に合った。

 レミファの蹴りが炸裂するまえで、どうにか剛健な体をノアへ被せる!

 背中へ喰らってなんのそのであった!

 レミファも思わず歯がゆく、くそがぁと汚く漏れた。

 やったぞ!

 わヲんの勝ちである!

 嬉しい!

 楽しい!

 愉快だ!

 だがひとつだけ残念だ!

 さっきなりふり構わず全力疾走した。

 なりふり構わずとは、後先は考えないということだ。

 つまり、残念ながらここでまた電池切れである。

 まずい、あと十分ほとんど動けない!

 質素倹約と、貯蓄形成という言葉が過った。

 なんってことだ!

 ちゃんと積立預金しておくべきだった!

 とまあ、体力面でそんな器用なことはできないし、寝だめもできない。

 というわけから、またしても危難だ!

 相手はもうここへつけ入ってきて、何千もの蹴りをあびせてくる。

 とんでもない大雨に打たれる気分である。

 こうなると、さすがに痛みが通ってき始める!

 しかし真下にあるノアの苦し気な表情から、なんとか心を固めた!

 なんとしても守り抜く!

 わヲんはあらゆる自己保身を捨てた!

「ノア! 僕はお前を必ず助けるああああああ!」

 叫びは、青いなかに吸い込まれていく!

 この気迫が通じたか!

 蹴っていた向こうへガタが来る!

 レミファの片脚は黒煙吹いて壊れた!

「あああああああああああ」

 なお叫ぶ!

 すれば折よくこんな心意気を知ってか知らずか、朦朧としたなかでノアがうめく。

「あぁ」

 どうやら、あんまり「ああああああ」とされ、これへまつわる悪い夢でも見たよう。

 寝言へ話しかければ、返事するという現象もある。

 またある種、わヲんの思いが歪曲して通じたかもしれない。

 そしてその悪夢が、現実へ出てきていっさい爆ぜた。

 お得意の利き足も失って、けんけんではこんどばかり逃げれない。

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