三次元マルクス

 暑い!

 夏ではない!

 海ではない!

 まして水着でもない!

 砂漠というのはのしかかってくる熱射!

 また熱砂からつきあがってくる暑さ!

 これのサンドイッチである!

 これはいかなロボットいえ、いやロボットだからこそまともでいられない。

 なぜ輝いている夏の太陽が恨めしいか!

 こっちとらお前のせいで暑いのに、お前はなんだか平気そうでいやがる。

 そういうところである。

 そんなわけで、わヲん、ノアともども砂漠を歩む。

 あの一軒家は敵ロボット三体ふくめ木っ端みじんで、跡形もなかった。

 で、ひと段落ついて、わヲんがふと思った。

「帰りはどうしたらよいのだろう?」

 この疑問は、砂漠を歩むいまですら未解決である。

 はやく解決をよこすべきである。

 でなければ、到底こんな照り輝く天敵から囲繞され睨まれている状況でままならない。

 ついでの後出しじゃんけんで、わヲんなぜ歩けるまで回復したか問題に触れる。

 わヲんはたしかにバテやすい!

 きっと四二・一九五キロどころか、四百メートル、いや百メートルだって危うい。

 しかし!

 このロボット、体力の尽きやすい代わり、体力の回復も早い!

 百メートルごと十分ほど休み休みやれば、四二・一九五キロなんてへのかっぱ!

 はやくつくことに意味があるのではない!

 走り切ることに意味があるのだ!

 よって、わヲんはある種、無尽蔵の気力といって、さしつかえない!

 だからこの砂漠だって、休み休みやっているのだ!

 ただし、まだ人間たるところ残しているノアは無尽蔵ではない。

 ついにドサっと、小さな彼女が果てしない砂の布団に倒れた。

 わヲんは駆けつけて、抱き起す。

 汗だくで熱でうなされる綺麗な人は、とても儚かった。

 この泡のような命をなんとか抱きとめ、呼び起こそうと声もかける!

「しっかりするんだああああ!」

 うるさい。

 より不快に彼女の顔が歪むじゃないか!

 さらにはこの男なんと手を平打ちの構えにするではないか!

 こうなったら、頬を百万遍ひっぱたいてやろう!

 さすればめざめる!

 が、踏みとどまる!

 ただ、あれこの処置って極寒での荒療治ではないか? というか病人に鞭打つなんて。

 という疑問から踏みとどまったんではない!

 そんな頭脳は、わヲんには搭載されていない!

 じゃあどんなわけかといえばこうである!

 彼女の幼気で、苦しい表情、病に挫けてそれこそあと一打で泡として散るような弱り目。

 どんな最低な馬鹿やろうでも、冷水をぶっかけられたようにハっとするだろう!

 これゆえわヲんためらうのだ!

 だめだ!

 こんな生き物にそんな荒療治できない!

 でもここは嫌われるたってやってやる勇気ではないのか!

 なんとここにきて例が見つかった!

 一見して悪では? と思うことをあえてやる正義がある!

 これの例である!

 正確には一見して悪では? と思うことをあえてやる正義のようで、やはり悪、だが。

 まぁ、正確さなどあってないもの!

 この世は確からしいで回っている!

 四捨五入でおおかた片付いている!

 三・一四一五九二……はパイである!

 我々へできるのは、このように不確かさへ決断を加え無理にも分別をつける!

 これだけである!

 さあ、わヲんを葛藤のなか決断せよ!

 守りたいものを、打つか! 打たないか!

「くっそ! すまない、ノア!」

「あつくるしいよ」

 意識が朦朧のなか、人は正直である。

 よってわヲんはあまり威力のない爆発ながら「あ」で突き放された。

 そして爆破で舞った砂の晴れたとき、蜃気楼のさきからふたりへ奴が追いつく!

 右手の失い、右半身ただれきってなかの回路が露わな彼女!

 かつて美少女ロボットだった、その恨みと怒りを凝り固めた女!

 名前は知らん! 誰だっけ!

「名も訊かずぶっ飛ばしやがって、教えてあげる私はレミファだ! おぼえとけ!」

 らしい!

 が、立ち上がるわヲん向けて歩んでくる!

 では、あらためて!

 どうやら復活してきたレミファ!

 対して、もうノアの力添えは期待できないわヲんによる決戦であった!

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