知らない骸なんてだれも拾わないが髑髏なら拾うのだ。

 ズドンぶっ飛んで、三分待たらずはい到着、悪の根城! 

 でなくたぶん支部。

 砂漠に建つちっぽけ極まる一軒家ぽつん。

 なんでこんなふざけた立地なのだ。

 昼は暑い。

 夜は寒い。

 エアコンはない。

 ただエアコンのリモコンだけある。

 内装だって瀟洒な事務所くらい。

 いったいこんなことでなにを支配し、なんの悪行ができるのか!

 そんなところに真っ昼間から突っ込んだ砲弾。

 いやロボットと、ちょっぴり改造された少女。

「よし悪よ! 蹴散らしてやる!」

 さすが悪と戦う正義のロボ、わヲんである!

 実績、がんばって悪のそんな大したことないロボット一体たおしたこと伊達ではない!

 大見栄きっている! 

 威勢だけいっちょまえ!

 片や、ここまでまともにしゃべらないでおなじみノア少女。

 実績「あ」の一言で、ロボット九十九体を一掃した大量破壊少女、こちらも伊達でない!

 黙っている。

 小さく花びらみたいな口元を結んで黙っている。

 たったこれだけ!

 これだけなのに、なぜか!

 大声で正義感をふりかざしている、ちゃちなロボットより凄味があった。

 こんなあべこべふたりが来た。

 さあ悪党よ! 

 どうするのか!

 しかしどうするもこうするもなかった!

 どいつもこいつも熱中症であった。

 否どいつもこいつもといったって三体ほどである。

 荒野であった雑魚ロボットが 二体、床で伸びている。

 主らしいのが一体、L字ソファーでぐったり座っている。

 熱中症よかオーバーヒートというべきなんだろう。

 夏場、水分補給はこまめにしなければいけないことのあらわれであった。

 こんな肩透かしがあっていいのか!

 たしかに楽に勝てるにこしたことはない!

 なにもかも有限であって、失ったものは梃子でも返してくれないこの物理世界だ。

 青春はそのとき、その場でしか楽しめないのだから存分にやれ!

 すべては楽しいことは楽しいとき、全力でやらねば損である。

 だからといって、なんら緊張感なく試験や就職もないなら張り合いがないじゃないか!

 きっとわヲんもそう思っているはずだ!

「よしゃ! 勝っているじゃないか!」

 まあ、楽しければ、楽しいだけいいか、そう思わせる喜びであった。

 なんなら雀躍としている。

 なんなら熱中症あいてに馬乗りなってフハハハハ! となぶっている。

「くらえこの鋼の拳を!」

 とまで図に乗っている。

 だが、こういうのも正義かもしれない!

 そう一見して悪では? と思うことをあえてやる正義がある!

 と、思ったが考えてみてもあまりいい例えがでないので、結論!

 悪いものは悪い!

 相手の弱さへつけ込むなんて、わヲんはなんて卑劣な奴なんだ!

「ちょっとなんてことしてくれるのよ。天井が……」

 ソファーでぐったりなっていたのが、首をもたげて嘆く。

 どうやら黒ボブカットの女子高生の体裁こそとっている。

 しかしこれはロボットである!

 なぜならあまりに美少女だから!

 この熱砂であって、日焼けもない、シミもない、皺もない。

 どんなスキンケアでそうなるというのだ!

 美肌への信奉からすれば、うらやましい限りである!

 それだけならまだしも、顔立ち、体型、黄金比すぎである!

 歴史に名を残した三大美女に食い込める! 四大めになれる!

 まだまだある!

 白いカッターシャツが透けていない!

 この人が蒸発しそうななか発汗していない!

 ふざけるな! 

 透けるか、透けない!

 浮き彫りになるか、ならないか!

 その瀬戸際にどれほど夢が詰まっているか!

 ここまでただでさえ長い、のでこの夢は長くなるのでよそう。

 そして極めつけ、スカート短すぎである!

 ほどよく細くしなやかな太ももの真ん中くらいまである。

 さっき述べたが、見えるか、見えないかだぞ!

 その観点から言ってやる!

 これはよろしい!

 ただ恥じらいの感じないことを考えると、いかがなものか!

 そのいかがなものかという違和感からロボットぽい!

 断っておくがこれは現実の話ではない!

 夢の話だ!

 夢を語って何が悪い!

 理想論上等!

 現実ではそこまでとか、事実はとか、そんなねむたいことは寝て夢のなかで語れ!

 さて、長くうるさくなったが落ち着こう。

 このほか、現場の状況、嫉妬、怒り、喜び、あらゆる大人な事情など含める。

 その結果!

 これは間違いなく美少女ロボットである!

「ていうか、どうやら敵なわけね」

 美少女、ソファーからたちあがる。

 どうやらこの女子高生、型が違うだけあってできがいい。

 オーバーヒートしきっていないのだ。

 わヲんやっと馬乗りを止した。

 そして待ちくたびれて退屈だったぜとでも言いたげ首を鳴らす。

「こんなちゃちなおもちゃ二体で、僕に勝てるとは甘く見られたもんだな」

 これはハッタリではない!

 もはや妄想狂わヲんをして、この伸びている二体は彼が倒したことになっている!

 一度ちゃんと頭の回路を直してもらったほうがいいと思うだろう!

 しかし正義や、勇気を持つものは往々にして妄想狂である!

 なぜなら、正義なんてあいまいわからんはずの世で、正義なんて信じているのだ!

 しかもハッタリも、言ったもんがち、ときとして悪魔の証明である。

 それをいまから実証しよう。

「へぇ、その二体へ楽勝するほどの性能はあるってわけ」

 ほら騙されている。

 笑ってこそいるものの、やや引きつったものである。

 どうやら熱でやられていたとはいえ、冷静な思考回路ではあるらしい。

 実力、雑魚ロボット二体よかうえで、まだまだ余裕かつ調子乗りなの一体。

 実力不明で黙っているが、むしろそれが怖く、むしろもう一体きっと強いの一体。

 といった具合でおそらく勘定し、警戒しているはずである。

 きっと人であったら、透けるほど冷や汗のかいている現状なのだから。

「では、僕が行かせてもらうぞ!」

 美少女ロボットは、ほっとしたはずである。

 一体ずつ来てくれるんだ! ラッキー、と。

 まあ、そんな弱みは見せないが。

「いいのよ、ふたりがかりでも」

 挑発にのったわけではないだろうが、ノアがまえへでようとした。

 しかし、やっとこさここで正義漢らしい、わヲんが制した。

「彼女はべつに兵器ではないんだ! 僕で十分だ!」

 ちょっとやそとの生半可ではない、真剣である。

「いいの? そっちの子、まだなんともいってないけど」

「彼女は言えないんだ。いやだれかを傷つけてしまうから、言うのが怖いんだ。きっと」

 ノアの見上げる視線が、この人、こんなまともなこと言えるんだという丸みがある。

 と同時に、なんだかわかってくれていて、ハッとなった繊維もちょっとだけあった。

 そんな眼差しなんて気づかないわヲんだが、言うべきは言うやつである!

「もう愛しているも、ありがとうもいえないんだ!」

「なんの話だか、じゃあなによあんたここまで、連れてきたその子まもっているわけ?」

「あぁそうだ!」

 きっぱり! なんとまっすぐなのだ!

 惚れないものはないほど、はっきりしている!

「僕は先生に作られているあいだ、彼女をみてきた。ずっと」

 なんの打算なく、優しい微笑みを守りたい人へ向ける。

 それからやはりまっすぐにもどって、

「彼女は優しい人だ! 自然を愛し、動物に好かれ、僕のようなロボットへすら微笑む」

 近年まれにみる聖女である。

 デジタルに詳しいうえ狡猾そうな先生の周りでいて、よくすれなかったもんである。

 もしくはそれこそ反面教師だったんだろうか。

 しかしその優しさが、このロボットわヲんにまで染みていた。

 もっと人は優しくなるべきや知れない。

「俺はこの人の微笑みを、人の微笑みを、人類の微笑みを、守りたいと思ったロボットなんだ!」

 これぞ英雄であり、勇敢の台詞である。

 これをちんけで、ありきたりで、アナクロで、言うなら易しと冷笑するものたちよ!

 ならばやってみるがいい!

 あなたが守りたいと思う人たちのまえで!

 大声で!

 真剣に!

 相貌をつきあわせて!

 きっとこっぱずかしくて、赤面して、消えたくなるだろう!

 咳払いで誤魔化して、ごまかしきれない沈黙に耐えれなくなるだろう!

 それをこの心あるロボットは!

 男は!

 いや漢は!

 なんのためらいも後味の悪さもさせず言ってのけたのだ!

 笑う者たちよ!

 これを勇者と呼ばず、真心とせず、正義と認めず、なにが人間か!

 なにが心か!

 なにが情熱か!

「プッ、アハアハ、ハハハハハ!」

 ただなにぶん相手はロボットであるから、笑われてしかたない。

 またなにぶん相方は改造少女であるから、照れて悶絶うずくまる。

 で、ここまで思いっきり言ってのけれる当人だから、この反応がわからない。

「なにがおかしい!」

「いや、こんな青臭いカビの生えた台詞を言うのがロボットっていうところ」

 とても的を射た分析であった。

 さすが雑魚ロボットとは品質が違う。

 笑い方からして、もはや逆鱗を撫でるどころか剥がす勢い。

「僕を馬鹿にしたその性根! 許せない!」

 なんと短期!

 わかるだろうか!

 このわヲんはいま、どうしようもなく嵐でも巻き起こさんばかり怒っている!

 怒っているわけが、なんとロボット女に馬鹿にされたから!

 器があまりに小さすぎる!

 あまつさえ、岩石のように拳を固めて殴ろうと飛びかかる!

 そしてこのときの思考がこうである。

 どうせ、人の決意や意志を笑う奴なんて、悪党中の悪党、ロクなもんじゃない!

 きっとなんかしら悪いことをしている!

 未成年で喫煙だとか、飲酒だとか、よくない友達と遊ぶだとか!

 それで分が悪くなれば、じぶんたちはロボットだからと言い逃れだ!

 それどころか権利まで主張しだして、未成年だぞとドでかい態度だ!

 そんな奴は石を投げられたって投げ返す権利はない!

 なぜなら悪だから!

 悪には石を何度だって投げてもいい!

 なぜなら悪は人のなかで永遠だから!

 更生なんかしよはずがない!

 悪は消すしかないのだ!

 自己正当化を地において偏見と僻みの凄まじいコントラストが描かれている。

 これぞ今世紀さいあくの歪んだ正義である。

 善悪でわけれるほど、この世は複雑である。

 しかしまだわヲんは若い!

 具体的に言えば、作られて五年もないくらいだ。

 なのでみなさま、若気の至りと思い、どうか温かく見守っていていただきたい。

 さあ、こういった怒りで殴る。

 オリハルコンの拳である!

 けれど!

 相手のカンガルーのごとくあっさり跳ねて避けてしまう。

 だが空ぶった拳が、一軒家の床を打てば、床の抜ける!

 なんならば、その底の地盤の深くまでヒビの根が入る!

 こんな威力あたったらひとたまりもない!

 しかし当たらないので、ただ凄いだけである!

 で、美少女ロボットはまたカンガルー並みの脚で飛びあがった!

 そしてカンガルーの蹴りはひとたび当たれば人を絶命たらしめる威力!

 そんな反撃をしてきた!

 だが、わヲんは百篇でも万遍でも言うが、頑丈である!

 よってほんとうちょっとした石ころが軽く衝突しただけのことだった。

 攻撃のすっかり通らなかったことへ、相手は苦い顔。

 どうだろう!

 わヲんはかくも強い!

 こんな強いのが、なんであんな雑魚ロボット百体で苦戦だったのだ!

 疑問だろう!

 かんたんである!

 体力がない!

 いったん戦闘し、十発ほど拳をふるえば、もう肩で息をする!

 立っているのもやっと!

 設計上、あまりにも硬くしすぎただけに重たく負担がでかい!

 燃費さいあく!

 よく食う食うくせに動かない隠れ肥満体型!

 ガス欠なんてあたりまえ!

 ガソリン一リットルで一キロを走行する車!

 よくこんな金食い虫が発明されたものだと思う方々。

 ひと言いっておく、発明に浪漫と失敗はつきものである!

 古い燃費の悪いビンテージカーをコレクションすることと、なんら変わらないのだ!

 では、そんなわけで失敗作わヲんが、弱点を自らついてピンチである!

「くそおおおおあああああああ!」

 でました!

 床にへなちょこになった拳叩きつけ、お決まりのやかましい嘆きである!

 こうガス欠だと声だけやたらでる。

 弱い犬ほどというやつだ。

 こんな汚い遠吠え、せいぜい敵の耳にちょこっと障る程度だった。

「うるさいわね! つかもうダメになっちゃったの。ポンコツね」

「ぽ、ポンコツ!」

 ポンコツ!

 リモコンやその他もろもろとの交流を断ちまっくらな顔をするテレビ。

 乾かさずただ布の渦を巻くだけの乾燥機。

 秒針がいったりきたり足踏みする時計。

 すぐ充電の切れる携帯。

 これへ加えて、悪のひとつも倒せない正義のロボット。

 さて、これら用なしたちがたどる末路は決まっている。

 廃品処理場。

 朽ち、潰れていく。

 バラバラにされる。

 べつな物に作り替えられる。

 じぶんなんてなくなっていく。

「だってポンコツじゃない? すぐバテるし、持ち運びにくそうだし、かび臭いし」

「そ、そこまで言うことないだろう! 言いすぎだろ!」

 わヲんはおろおろ人みたいに泣いていた!

 反論できない!

 だっていまの体たらくがなにより証拠だ。

 惨めで、哀れで、どうしようもないどん底。

 どん底で、大した能力もなく会社をクビになって公園のベンチ。

 そんな小さいさびしい背中が思われた。

 さすがに悪党の美少女ロボットも、男泣きの不細工かげんにドン引きかつ同情。

 ちょっとやさしくなって、自虐めいた笑い。

「け、けど私なんてここで組織の処分した人間やロボットの後処理とかしてるんだよ」

「だからなんだ!」

「いやね、そのさ、正義のロボットって誇れるじゃん」

「でも、ポンコツなんだぞ! ポンコツ正義のロボットって、ださい!」

 きっと彼女はいまのお前が一番ださいといいったかっただろう。

 しかし美少女なだけあって、中身もどうやら美少女である。

 ちゃんと傷つけないよう本音は呑み込んで、

「いや言い過ぎたよ。悪かったからさ」

「いまさら謝って慰められて、もうよりいっそう立つ瀬がないんだよ!」

「でも私らなんて、勝手に作られて使役されてるんだしさ、作った人が悪くない?」

「そんな人のせいばっかりにして、君はロボットとしての矜持のない最低な奴だな!」

 慰めているのにこの仕打ち!

 恩を仇で返され、こうまでコテンパンに言われ、さすがの美少女も中身を般若にした!

「もういい、もうひとりは木偶の坊のようだし、あんたなんて蹴りまくって潰してやる!」

 いくら頑丈でも、長く怒りのカンガルーに蹴られ続ければもたない。

 涓滴岩を穿つ!

 まずい、そんな長々やっていてはいろいろもたない!

 と、そんな足が迫ってくるなか、わヲんの手をやさしい人の手が取った。

 やさしく細まった赤い瞳で覗かれて、涙ながらハッとなる。

 そうノアが咲くように微笑んでいる!

 彼の守りたかったものが、そこにあったのだ!

 あぁ、彼女へまでやさしくされたらまたおろおろ。

「ごめん! 僕は君を!」

「わたし」

 彼女はやっとしゃべった!

 きっとしゃべりながら気をつけていた!

 ゆっくりと。「あ」を言わないように!

 そして微笑みながら伝えていく。

「私も見ていたよ。お父さんに作られていく正義に輝くわヲんを」

 どん底から引き上げてくれる温もりであった!

「正義を、私をいっぱい語ってくれるわヲんに救われたよ。私は」

 涙の止まっていた。

 みじめな男泣きよさらば!

 情けないことのもう言っていられない!

「わヲん、あ……」

 と決意あらたにしているところ悪いが、言ってしまった。

 またもうすこし一発目の蹴りを入れようとしていた美少女にも悪いが、言ってしまった。

 言ってしまったので、もうめいっぱい爆発した。

 まるで天国のように輝きで満ち溢れた。

 さて、さいごノアはなんといったんだろう?

 ありがとうか、それとも……

 いや人の心をずかずか踏み荒らす野暮はよそう。

 彼女だって照れ隠しで、こうしたのかもしれないのだ。

 ひみつはひみつのままで、いっそう輝かしい。

 いま起こっている「あ」の爆発のように。

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