アンデルセンの科学
山!
谷!
山!
そしてまた谷!
これだけですべてが説かれている。
この世の真理まで説かれている。
つまりわヲん、ノアは真理を歩んで、ようやく到達したのだ!
山林のなかぼろっちい嗚亜研究所へ。
でっけぇ見上げたら眩暈するくらい、でっけぇ。
という広葉樹の根の洞を改造して作った研究所で、なかもでっけぇし汚ねぇ。
想像してみたまえ、所せまし段ボールだらけの家。
この段ボールを、まず煌々とひかるブラウン管テレビ。
むずかしければ液晶テレビでもよい、置換する。
つぎに「鬱」
べつに心が暗くなったのではない。
どうだ、みればみるほど複雑だろう?
この複雑さを配線にして部屋の床を這っていると思うのだ。
そうしてできあがるのが、嗚亜研究所の内部というわけだ、わかったかな。
わかったということで、話の進めよう!
「先生!」
まず呼びながら、ドガンッ! と、わヲんがテレビの蹴散らしていく。
ここには怒りが含まれていて、活火山がついに噴火したという感じだ。
そして先生、もとい嗚亜ホヘトが暴かれる。
まず禿げ!
落っことしそうなほど丸い瞳!
ボトルネックの猫背!
極めつけいかにも不健康で斬っても血が出なそうな蒼白さ。
よく勉強しろ、勉強しろと親は言う。
されど、もしかしたらこういう生物がうまれるかもしれないとすこし躊躇ってほしい。
才知があまり肥えると、身体は貧しくなる一例やしれない。太陽を浴びよ。
「先生どういうことですか!」
みつかった喜びより、わヲんは怒りが勝っている。あとは火山灰をぶちまけろ。
しかし先生さすが、白を切る。
「なにがだな?」
ぶかぶかな白いタンクトップの肩に手の突っ込んで、痒そうに掻く。
火山に油を注ぐであった。ドカン! となるのか?
ともかくわヲんは激怒だった。
「ノアを改造したんですか!」
「あぁ、新しくできたア動力炉の適性があったのでな」
「ア動力炉?」
新種の語に、怒りの削がれた。
「あぁ、これを搭載した人間の『あ』へ反応し、ア動波という特殊な波動を生み出すのだ」
「なにを言っているのかチンプンカンプンだ!」
「つまり娘の『あ』というだけで、世界を脅かす悪の組織でさえ倒せるのだ!」
なんと画期的な、とはならない。
ぐつぐつとこんどは鍋で、怒りの再燃。
「あなたじぶんの娘をなんだと心得ているんです!」
「巨悪殲滅決戦用改造少女といったところだ!」
「人でなし! なんて人だ!」
わヲんに余裕はない。よって発したことばのふしぎにつまづきはしないんだった。
「いくらでも、なんとでも呼ぶがいいさ!」
「禿げ頭! やせぎす! マットサイエンティスト! 鬼畜! 馬鹿やろう!」
「馬鹿とはなんだ! 馬鹿とは! 天才だぞ!」
涼しく見逃していたのに、おしくも最後はストライクだった。
「とにかくこんなことは馬鹿げています! 敵なら僕がドォンと倒してみせます!」
そう言ってのけ、偉い! 偉そう!
しかし見せるシャドウボクシングにすでにやられている描写がある。
「なにを嘘つき。一体ほどしか倒せていないだろうが!」
「なんでそれを!」
シャドウで負けたうえ追い打ちであった。
「言ってなかったか、内部でモニタリングしとるんだよ」
「なんてことだ! 僕に私生活はないのか!」
「ロボットだろ」
「あ、そうだった」
熱しやすく冷めやすいふたたび。
だが冷えていられない、頭を濡れを弾く犬みたいに振ってからなんとか食い下がる。
「でも先生、親ってのは子を思うものでしょう!」
「なぁ、わヲん、ひとつ尋ねよう」
「なんですか?」
ちなみにみなさま、ノアのどこにいるかって?
だんまり目くじら立てないながら、わヲんのお隣り。
だから先生はここで、わヲんのお隣を見る。それからわヲんにもどる。
「親子にしては似ていなくないか?」
ハ!
これはわヲんへあらゆる想像を与え、みるみる枝葉をつけさせた。
なんて立派な樹木だろう! となるまでなんとコンマ六秒と八。
「たしかに、こんな枯れた雑草からバラの花が咲くわけがない」
「そうだ!」
瘦せこけた胸板でも自信がつけば、やはり瘦せこけている。
「遺伝子検査は!」
「怖くてしてない!」
「するべきだ!」
「もう改造してしまった手前こわい」
「あなたの妻は?」
「幼い時から病気がちだった」
「じゃあ無理だ!」
「それは偏見だ! 現に娘は産まれている!」
否定したいあまり病弱なら浮気なんてしないという印象がでっちあがっていた。
人は見かけによらないし、なかみにもよらない。
「そういえば、病院の医者と仲が良かったな」
「夫への愛とか!」
「妻はつねづね言っていた。遺産めあてだと!」
「知っていて夫婦をしていたのか! じゃああなたは愛していたんだ!」
「私は妻なんてどうでもよかった。世界の平和への貢献と研究だけが本懐だ!」
「もういい! こんなこと話したって取り返しはつかないんだ!」
よくぞ言った! 正しい! 分が悪くなって開き直った感が否めないも正しい!
拍手。
と言いたいが唯一、拍手できる立場であるノアはくだらない話に飽きていて目の擦った。
どうもパジャマ姿やその所作から、睡眠不足なんであった。
「僕は悪ならば、創造主だってやってやる!」
「ほう、私へ歯向かうかな! お前の自爆スイッチは私が持っているんだぞ!」
「負けました!」
潔し!
なんと美しき九十度の最敬礼。
さてここで渦中まっただなかながら、お眠の姫があくび、
「ふわぁあ」
はい、言ってしまった。
研究所は爆発した。
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