第8話

 トイレの鏡で私を見ると何とも情けない顔が映っていて笑いたくなった。こんな残酷な結末が待っているのなら、私が脇役だって気づいていたなら、彼に恋をしていたなんて浮かれていた私はバカみたいだ。

 募る後悔はさらに自分を卑下する。容姿も、性格も、自信のなさも。自分の何もかもを否定したくなる。どうしてこんなに可愛くないのだろう、どうしてこんなに暗くて地味なんだろう、どうしてもっと早くに告白できなかったんだろう。

 考えてしまう、もし告白したいたら違う未来も、私が幸せになる結末もあったのかな。

 いやきっと告白していても結末は変っていない。それでも、こんな報われない気持ちを自分で処理することもなかったはずだ。私はこの気持ちの整理の仕方を知らない。


「どうしたんだ?」


 声の主はやはり莉子だった。こんな時、彼女の存在は大きくて私は頼ってしまうように、彼女に抱き着いた。


「私やっぱり私が嫌いだ」


 莉子は何も言わずに受け止めてくれいてた。



————


 週末。何もやる気が起きない私はただベッドでゴロゴロと怠惰に過ごしていた。昨日一日彼とはまともに話せていない、避けているように見えないといいけど。

 まだ彼に対しての恋心を手放せない私に嫌気が差す。

 前まではこのベッドの上で馬鹿みたいに彼のことを考えていた。

どこでもいいから遊びに行きたかったし、いつか一緒に行こう、って言葉を待っていた。

それが叶わないのは私に勇気がなかったから、勘違いを募らせて、行動しなかったから。


 中条くんはまだメールの内容を考えているんだろうか。

 別れることを拒むのか、受け入れるのか。今の私にはどうでもいいそんなことを考えてしまっていた。


 隣に置いていたスマホが振動した。

 有り得ないのに、彼かもと思ってすぐにスマホを手に取った。もちろん相手は中条くんではなく、それでも元気をくれる存在である莉子からだった。


『大丈夫?』

「うん。大丈夫だよ」


 あの後、トイレで私は事の顛末を莉子に話した。その時は何も言わずにただ背中をさすってくれて、帰りも部活を休んでまで私に着いてきてくれた。

 本当に莉子には助けられてばかりだ。そして今も助けられようとしている。


『今は家?』

「うん」

『これは渚紗次第たけど、今中条学校にいるよ。まだ書いてない反省文を書かされてるらしい』

「そうなんだ」

『行かなくていいのか?』

「うん。行ってもきっと何も出来ない」


 行って何をすればいいんだろう。何を話せば、なんて言えば。考えれば考えるほど沼にハマっていくようだった。


『そのままでいいの?』


 よくない。でも、私には。


『そのままずっと避けてる方が辛いよ』


 その莉子の言葉にハッとした。

 前まで彼がいなくなってしまうことがあんなに怖かったのに、今は自分から離れようとしている。

 彼といれる時間は限られているのに、私が塞ぎ込むほどそれは短くなって、きっともっと後悔してしまう。

 恋は叶わないかもしれないけど、彼といれないわけじゃないんだ。


『渚紗はそれでいいの? 本当にこのまま中条と話さないままで』

「嫌だ。私は、まだ中条くんと喋りたい。彼に彼女がいても、好きな人が出来ても、私は彼との日々を無いものにできない」

『それが渚紗の本音だろ? 泣いたって仕方ないし、頑張れ! 私がついてる』

「ありがとう」


 たったその5文字では言い表せないほど莉子には感謝してる。

 ほんとうに私はいつも莉子に助けてもらってばかりだ。


「行っきます」

『行ってらっしゃい。きっと渚紗なら大丈夫』


 その文を見て、私は制服に着替えてすぐに家を出た。



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