第6話
昼休みが空けて、久々に見る彼の顔は少しだけ陰って見えた。
反省文だけで済んだのに浮かない表情。
少し怖かったけど授業があるから彼の隣に座らないといけない。私はゆっくりと席に座った。
「鳩山。さっきは、きつい言い方して、ごめん」
ボソリと彼は言った。
「いいよ。反省文だけで済んでよかったよ」
「誰から聞いたんだ?」
「青山くんが教えてくれた。やっぱりあなたは優しい人だね」
「そんなことない。俺はお前に、鳩山にあんな言い方したし」
「気にしてないよ」
それにもしかしたら、私を巻き込まないためにあんなきつい言い方をしたのかもと、彼の優しさを知った今なら思えてくる。
さっきまであんなに近寄り難かった彼なのに、今ではいつも通り自然と会話出来ていた。
「本当にごめん」
「わかった。じゃあドーナツまた奢って」
「そんなんでいいのか?」
「うん」
そんなものじゃない。私にとってあの時間は、あの味は特別だ。
「わかった。じゃあ今日行くか」
「うん」
また今日も放課後、彼にドーナツを奢ってもらった。ただのドーナツなのにいつもよりも甘い味がするのはきっと気のせいなんかじゃない。
「じゃあ」
そう言ってまた別れる。
反対側のホームには、いつもみたいに手を振る彼が。
この時間はわたしにとって特別なものだ。それでも、望めるのなら望みたい。時間だけじゃなく、彼と特別な関係に。
そんな願いも込めて、私も彼に手を振り返す。残酷にも電車は出発していく。
伝えよう。いつかきっと、この思いを。
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