第5話
「で? 何隠してんの?」
おそらく強引に連れてこられたであろう青山くんは若干怯えながらに薄情する。
「僕が原因なんだ」
「原因って?」
彼が何の話をしているのか最初は理解できなかった。それでも次に出た名前にすぐに耳は傾いた。
「大我くんが問題になったの」
「どういうこと?!」
食い入るように私は彼に聞いた。
私の勢いに彼は一瞬たじろいで、ゆっくり呼吸を吸ってから答えてくれた。
「僕が姫坂くん達にパシられてるところを中条くんに見つかって、彼が助けてくれたんだ」
「渚紗?」
「そうなんだ」
ゆっくりと言葉を出さないと思わず溢れできてしまいそうだった。
そうやって必死に堪えようとしたけどやっぱり涙は出た。ただホットして、肩の荷が降りたからだ。
「よかったぁぁ……」
そう小さくこぼしたつもりだったが莉子には聞こえたのか、それとも察したのか背中を叩いてくれた。
「良かったな」
「うん」
「それで中条くんはどうなったの?」
「それは大丈夫だと、思う」
自信なさげだけどはっきりと青山くんはそう言ってくれた。
「僕も先生に頼んだんだ。彼の暴力は僕のせいだって。それで先生も姫坂くん達に事情を聞いたみたい。もちろん姫坂くんは否定してたみたいだけど、目撃者も何人かいてとりあえずは反省文だけで済んだみたいだよ」
停学でも退学でもない。それは彼とのこれからの高校生活も楽しめるということだ。私は舞い上がってしまうほど嬉しかった。
「ありがとう青山くん」
「僕はなにも。全部大我くんのおかげだよ。姫阪くん達のパシリも無くなったし」
「もう大丈夫なの?」
「わからない。でも頑張るよ、彼が勇気をくれたから」
彼とはきっと中条くんのことだろう。不器用だけれど優しい彼が、一人の男の子を救ったのだ。
その事実に私はますます彼のことを好きになっていくのを感じた。
「私も、頑張ろう」
一人の男の子が変わったように、私も変わるんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます