第4話

「おーい、いつまでそうしてんだもう昼だぞ」


 一限目からずっと机に突っ伏したまま何のやる気も起きない私を見兼ねた莉子は無理やり頭を持ち上げてきた。


「体調でも悪いのか?」

「そうじゃないから離して」

「じゃあその理由を話してよ! それから早く昼食べよ」

「お腹空いてない」


 嘘だ。お腹はめちゃくちゃ空いている。それでも食べる気にはなれなかった。


「ほっといてよ、もう」


 言ってハッとした。思いのままに言ってしまったが、私はそんな拒絶の言葉でこうなってしまっているのに、同じことを唯一の友達である莉子にしてしまった。気づいて謝ろうとした時


「ひゃっ!」


 変な声が出た。莉子がお腹をつまんできたのだ。


「珍しく弱気だな! 何か悩んでるんだろ」

「そんなんじゃないよ。それにいつも私は弱い」

「そんなことない。渚紗はもっと自信もっていいって」

「ないよそんなの」

「ある! ほら、いいから昼飯食べに行くこ」

「ちょっと」


 無理やり手を引かれて体を起こされ、そのままいつもの場所へと連れていかれる。本当に莉子は強引だ。でも今はこの強引さに助けられている。

 私にもこんなに誰かを引っ張っていける強引さがあれば、彼に何か聞けたのかもしれない。



 どれだけ落ち込んでいてもお腹は空くもので、お弁当を広げると自然と箸が動いた。隣に座る莉子はそんな私の様子に安心したようだった。

 二人静かにお弁当を食べる。莉子はあれから何か言及してくるわけでも、無理に会話を始めることもなかった。その気遣いにとても救われる。

 でも黙っているわけにはいかない。こんなにも私を思ってくれている友達にずっと嘘を吐き続けるのは私の気が晴れない。


「私さ」

「ん?」


 ようやく声を出した私に莉子は少し驚きつつも、真摯な態度で聞いてくれる。


「実は、中条くんのこと好きなの」

「そっか……」


 もっと驚かれたり、食いつかれたりするのかとも思ったけど、莉子は案外平常心でどこかホッとしたような、でも少し寂しそうにそう頷いた。その意図を私はわからない。それでもこうして茶化さず真剣に聞いてくれる人がいるというのは嬉しかった。


「で?」

「で? って?」

「だから、渚沙はどうしたいの?」


 莉子は少し呆れたように笑った。


「私に気持ち伝えても意味ないでしょ? 本当に伝えるべき相手は誰?」


 そう言われてハッとした。確かにそうだ。こうやって莉子にも伝えられたなら中条くんにだって。

 でも………


 そんな言葉で開き直れるほど私の心は強くない。頭の中で彼の拒絶が反芻する。


「無理だよ、私には」

「はあ……渚沙らしいけど」


 さっきよりも気分はいくらかマシになったけど根本的な解決にはなっていない。私に自信がついたわけでも、中条くんの問題がなくなったわけでもない。ただまだ肩が軽くなっただけだ。


「あ」


 そんな時、同じクラス青山くんが通った。あまりクラスでも目立たない大人しめの子。

 莉子はそんな彼を捉えると。


「おーい、青山」

「っ!」


 彼は私たちに気づくと返事もせずに一目散に逃げだした。


「おい、逃げることないだろ。ちょっと待ってて」

「え? ちょっと?!」


 莉子は私の話も聞かずに彼を追いかけていって、私はその場に取り残されることになった。

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