第3話
いつも通り学校に行くと、何やら教室が騒がしかった。クラス中が息を飲み、不穏な空気が流れているのを肌で感じる。誰かを貶めるような空気間とクラスの集団心理が同調して人を追い詰めるような、そんな雰囲気をなぜか感じた。
そしてその中心にいるのは中条くんだった。
「何があったの?」
心のざわつきと焦燥を抑えながら、一部始終を見ていたであろう莉子に事情を聞いた。
すると莉子は信じられないことを口に出した。
「中条が、
「え?」
中条くんが?
「これはやばいな、停学か、最悪退学も有り得るぞ」
ボソッとこぼした莉子の言葉が一気に頭を真っ白にしていく。彼が人を殴ったことにも驚いたし、退学なんてしてしまったら、私はもう二度と彼には会えないんじゃないかと、そう思った。
「相手が姫坂ってことは、何か揉めたのかもしれないけど、こんな皆に見られちゃあな」
相手の姫阪くんはクラスでも中心人物のような人で、私は苦手だったが彼を慕う人間はこのクラスには多い。それも影響してか、それとも中条くんだからか、クラスの目は中条くんだけに向けられていた。まるで彼だけが悪いかのように、そして実際に手を出しているのなら彼が悪いことは明確だ。
こんな時のクラスの同調圧力と力の無さに頭を打つ。彼のことが本当に好きなら私だけが彼を信じてあげるべきだ。きっと殴ったことには何か理由があるし、不器用な彼なだから誤解されやすいだけだと、そう思った。
だからきっと………
「何か理由があったんだよね」
ホームルームで、こっそり隣に座る彼に聞く。
「何も無い。ただムカついたから殴った」
いつもより無愛想で冷淡な声が返ってきて、背筋が凍る思いだった。
そして彼は付け加える。
「だからもう話しかけてくんな」
明確な拒絶を突きつけられた私は、何も答えることができなかった。
その後彼はホームルームが終わってすぐに教師に呼び出されて出ていった。あの騒ぎだ、教師が聞きつけていてもおかしくない。
『最悪退学も有り得る』
莉子のさっきの言葉が頭の中で反芻した。
彼との会話を楽しみに浮かれていたさっきまでの自分をぶん殴りたい。いや、それよりも気持ちを伝えられないかもしれないことを知った今、別れ際のホームで何も言えなかった自分が一番腹立たしかった。
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