第二話

 いまでこそ、私は『読み専』として日々おもしろい小説を見つけては楽しんでいる。


 けれど、あれは一年くらい前のこと。

 私も小説を書いてみたくなった。


 好きな要素を組み合わせて、おもしろいと思う話を考えて。時間も体力も使って。

 最後まで作品を書き上げた時、私は、私だけの宝物を手に入れられたような気がした。

 最高傑作ができたのだ。私がいいと思うものを詰め込んで、私ができることをできる限りして、そうして出来上がった私の完璧な作品だった。


 ……作品を公開するまでは。


 自分で言うのも恥ずかしい話だけれど、たくさん小説を読んでいるのだから、いい作品が書けると思ったし、書いてしまったのなら、ランキング上位に入ると思っていた。

 ……そんなことはなかった。


 読者はゼロではなかった。本当に数人だけ。けれども小説投稿サイトの読者人数表示機能が、無情な事実をつきつけてきた。私の作品を読もうと思った人は、序盤で離脱してしまっている事実を。


 私はおもしろい作品を書いたつもりだったのに。

 きっとみんなに好きと思われて、評価される作品を書いたと思ったのに。

 できることを全てやったつもりだったのに。

 処女作でトップをとろうなんて、それは無理な話かもしれないけど。


 ただ、思った。この作品を書くために費やした全ては、無駄だったんだって。

 作品そのものも、費やしたものも、価値がないのだと。


 SNSで宣伝してもスルーされるだけ。読み合い会にも参加したけれど……さらっとした短い感想だけが送られてきて、果たして本当に私の作品を読んだのか怪しく思えてしまった。興味を持ってもらえなかったのかもしれない。


 ――その作品はもう消してしまったし、私の「作者」としてのアカウントも、もう消してしまった。

 あんな虚しい思いをするのは、もう嫌だった。


 ……だから、わかってしまうのだ。今日のシオリの話に出ていた小説の、作者の気持ちを。


『今日の帰りに言ってた小説、見つけた!』

『確かにあらすじの時点でなんか触っちゃいけない感ある』


 ――シオリからそんなメッセージが飛んできたのは、夜のことだった。URL一つが送られてくる。


『ほんと? あとで読む!』


 お風呂に入る前だった私は、そう返した。

 そして風呂上りに読もうとURLをタップするものの、エラーページしか開けなかった。


『なんかもう作品読めなくなってる! 消したのかな』


 そう返すしかなかった。


 ふと、思う。消した小説は、どこに行くのだろうか、なんて。

 私の場合は……完全に消してしまった。作者としての「私」も消してしまった。


 そしてもう一つ思う。そうやって消えていった作品や作者は、どれくらいいるんだろう、なんて。


 ――私のメッセージに、シオリの「既読」はつかなかった。

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