第3話 過去

中学三年生の冬。

俺と美咲は同じ高校を志望していた。

もちろん全く狙っていないと言ったら、嘘になる。

ただお互い勉強はしっかりしていた方だし、学力も同じぐらいではあった。

だからこそ同じ高校を志望できたのだ。


塾の中でも同じクラスだったので、帰るときはいつも一緒だった。

同性の友人は二人ともいたけれど、帰り道は同じ方向だったので、自然と一緒に帰ることがお決まりとなっていた。


「最近、ますます寒くなってきたね~」


美咲が手袋をつけた手に白い息を吐く。

頬が少し赤くなっていて、見るからに寒そうだ。

というか俺も寒い。


「そうだな。この時期に飲むココアが一番美味しいから俺は好きだけど」

「塾の帰りに毎回飲んでたらお金なくなるよ」

「これを帰りに飲むために勉強頑張ってるからいいんだよ」

「モチベーションになってるんだ」

「そういうこと」


美咲とくだらなくて他愛のない話をしながら、帰るのが好きだった。

高校生になってもそんな日々が続けば良いと思った。

だから勉強が辛いとかは関係なかった。

勉強すれば一緒の高校に行ける。それだけで十分だったのだ。


高校受験の当日も俺らは二人で受験会場に向かった。

美咲の両親と俺の両親は俺ら二人を見送った。

過剰なほど心配をしていた四人だったが、俺は受かる自信で満ち満ちていた。


「頑張ろうね」

「うん。頑張ろう」


いつも通り励まし合って、試験に臨んだ。


受験番号は連番。

二人一緒に受かるはずだった。

家が近所だから、合格通知書が届くタイミングも同じ。


美咲の家まで走って、ピンポンを押した。

玄関の扉を開けた美咲は顔を俯けて静かに泣いていた。


「大和……ごめん。私、落ちちゃった……頑張ったんだけどなあ……」


俺は何て声をかければ良いか分からなかった。

美咲は俺と学力も変わらないはずで、勉強も同じぐらいしていた。

頑張っていたことは俺も知っている。


なのにどうして。

けれど今思えば、試験当日に実力を発揮できなかったのだろう。

美咲はいつも俺が緊張している時、不安な時、横に居てくれた。

そして励ましてくれた。

美咲自身はもっと緊張して、不安なくせに。自分の方が本番に弱いのに。

それを隠して側に居てくれる。


俺は美咲と同じ高校に通えないことを知って、落ち込んでいる場合じゃなかった。

その時こそ、俺が声をかけてあげなければいけなかった。


結局、かける言葉は上手く出てこなかった。

美咲は静かに家の扉を閉めた。


俺はその日から美咲と一緒に居ることができなくなった。

それが事の全てだった。


美咲は何一つ悪くない。

俺が勝手に距離を取ってしまっただけ。

自分の不甲斐なさを情けなく思って、このままでは一緒に居ることはできないとそう感じていた。

その選択を後悔するとも知らずに、随分と甘えた考えをしたものだった。


周りからしたら、そんなことでと思うかもしれない。

実際、自分の両親にも美咲との不仲を聞かれることもあった。


ただ一度距離を取ってみて分かったことがある。

俺はこれまでの生活の中でいろんな場面で美咲に助けられたこと。

美咲とこれからも一緒に居たいこと。

美咲に感謝していること。

美咲のことを特別に思っていること。


離れてみて分かることがあると俺は知ったのだ。

自分の過去を清算するように上手くは言えないけれど、懺悔するように自分の気持ちを話した。

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