危機一髪に賭けを添えて
「起きろ」
その言葉と共に私は、夢で何度も見たあの場所で目覚めました。
目の前には、片手に黒い布を持ち、片手に何かの保存容器を持って、やや汚れた白衣を着ている、私が良く顔を知っている男性がいました。
「あぁ……夢ですかねこれ」
「夢ではない。お前は捕まった。これがその証拠だ」
そう言って男性は保存容器を見せびらかします。
保存容器の中には、濁ったレモン色をした二つの眼がありました。
「お前には今一重の眼の
「悪趣味って、良く言われません?」
「……そうかそうか、実験に快く協力してくれるのか」
そう言って男性は後ろに何かのハンドサインを送ります。ハンドサインが送られた直後、私と男性がいる部屋に、料理などで用いる方のバットを持った女性が入ってきました。
……もう何ですかこいつ。全く私の話が通じてないじゃないですか!
「これは一日後に貴様に投与する薬だったのだがな。折角だ、今使わせてもらおう」
男性はバットにあった何かを摘み、私に見せつけてきます。
その薬は小さな肉塊みたいな見た目をしており、なんなら男性の指に挟まれながら脈を打っていました。
「へ、へぇ」
「なに。少しの間適合率を上げやすくする薬だ。本来は加減して50%で打ち切りにしようとしていたが、どうやら加減は必要ないらしいな」
その薬を見て私は恐怖して小刻みに震えます。
その恐怖は過去の実験から来たものか、今見せられている薬によるものか、何はともあれ私の威勢と余裕は少しづつ削られていました。
「おや、怖気づいたか」
「いいえ?全くですが?」
「そうか。今さらどちらでも良いが、生殺与奪の権は我々が握っていることを忘れるな。」
そして男性は私に薬を差し出します。
「さあ、飲め」
ふふっ……隙だらけですね。
――――――――――――――――――――
私は目の前の被検体に薬品を差し出す。
『適合率を上げやすくする薬』
私は確かにこの薬の事を被検体にそう言ったが、本当はこれこそが一重の眼の
研究長には無断で行ってはいるが、私には確信がある。この実験は必ず成功する。
駄目だ……これからこの被検体に起こる変化を予想するだけでもニヤけが止まらない。ああ、早く変化が起きないものか。
「隙だらけですよ」
「?」
その瞬間だった。被検体は私の指を薬ごと食い千切った。
「あ゙っ!?」
「ゴクンッ……」
被検体が喉を鳴らす。
「なっ……!?」
そして私は驚いた。被検体はいつの間にか拘束具を外し、なおかつ欠損部位が完全に修復して……いや、訂正しよう。修復はしていない。
被検体を縛っていた拘束具の近くには、黒く変色した肉塊が三つある。恐らく左手、右足、左足だったものだろう。つまりは被検体の四肢は義手と義足で――
「はい。チェックメイトです」
気づけば被検体は所持していないはずのハンドガンを所持し、私にその銃口を向けている。
そのハンドガンは、今までに開発されてきたどのハンドガンとも見た目が一致しない、まさしく『未来の銃』であった。
「ふっ……」
被検体はこちらに薄く微笑む。それはまるで悪魔のような笑みであった。
――――――――――――――――――――
あっ……ぶなぁ!私賭けに勝ちました!やりましたね今日はお赤飯ですよ!!
私がク◯野郎の指を噛み千切って拘束具を抜けた直後は何かすぐに撃たれそうな雰囲気でしたが、銃口を向けるとだんまりしましたね。
いやぁ、何から何まで上手くいく。人生って最高ですね!過去に言った『人生はクソ』って感じの発言、今なら前言撤回できますね!
「貴様……!」
「おや、わざわざ『あなた様』って言ってくれるんですか。嬉しいですねぇ〜」
「くっ……この減らず口がぁ!!」
お〜お〜怖いですねぇ。でも千切れた指の部分を抑えながら言っても意味がありませんねぇ。
「どこまでも私を侮辱して……!私は神の使いだぞ……!」
「そうですか」
そう言いながら私は代償なしで発煙筒を生み出し、そのまま転がします。
凄まじい勢いで室内に灰色の煙が充満し、あっという間に視界は煙で覆われました。
「し、視界が――」
「パンッ!!」
私は銃の引き金を引くと、とても軽い発砲音と共に、男性は脳天を貫かれて倒れます。
その後私は男性を「ゆっくりク◯野郎」にし、そのまま齧り付きました。
「う〜ん……お味噌汁、腐ってるみたいですね。腐ってませんが」
汚した口を指で拭き取りながら、私はまたもや代償なしで、かつてユミーくんが持っていたバリスティックシールドと同じものを生み出します。
直後、横殴りの弾丸の雨がシールドに降り注ぎました。
「いやぁ、ちょうど朝ごはん食べなかったので助かりましたよ」
まあ異物混入したり調理が甘かったりするお味噌汁一つだけですがね!帰り際にコンビニ弁当買っていきましょうか!
「おっ、そろそろ雨止みましたかね」
気づけばシールドは凹凸が激しくなっており、これ以上は使い物にはならなさそうでした。
「あ〜、んっ……「ゴクンッ」……さてと」
えいっ☆
「ガンッ!!」
発煙筒の煙も晴れてきた頃、軽い脳内掛け声をして、私は拘束具のある椅子ごと壁をぶち破ります。
そして私は幾重にも見たことのない金属が中身に張り巡らされていた筈の、大穴の空いた壁を通り抜けました。
「何年ぶりでしょうかね。この感覚」
私はトランシーバーを生み出し、あの人の回線へと無線を繋ぎます。
「あ〜、もしもし」
【姫!?無事かい!?】
「無事じゃないです」
依頼人さん、案の定びっくりしてますね。さて……長くここに居てられませんし、聞くことだけ聞きましょうか。
「えっと……あ、そうそう。カナダ行きの飛行機って一番早くて何時に来ます?」
すると大きなため息がトランシーバー越しに聞こえます。
【――はぁ。日本時刻で四時二十分だ】
「今の時刻は?」
【四時だ】
「All right. あ、帰ったらまた森崎喫茶に行きましょうか」
【その前にお説教だけどね】
「喜んで」
さて、目まぐるしい急展開の連続でしたが、ARC本拠地脱出RTA、始めますっ!
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