少女に紫のスカビオサを添えて 前編
今回観夢ちゃん……出ません(泣)
――――――――――――――――――――
観夢らが起眞港から撤退した直後、真夜中にも関わらず一つの小さな船が港を出た。
船は海上を進んでいき、やがてその船の向かう方角から何か大きなものが見えてくる。
「そろそろみたいね」
船には『調査報告書』と書かれた紙束を読んでいる、トートバッグを持った女性と、ボートを操作する男性、そして2mほどの麻袋に詰められてもぞもぞと動く何かが乗っていた。
「本日は午前六時から週末定例会、午後三時から宮塚製薬様との打ち合わせがあります」
「報告ありがとう、助手くん」
女性は紙束を片手にグッドサインを送る。すると女性は、何かに気がついたように紙束をトートバッグに入れて正面を向いた。
女性の目線の先には壁のようにそびえ立つ、鉄の洋上施設があった。
黄色と灰色で構成されたその洋上施設は、何か危険な物を取り扱っている事を示唆している。
「ふぅ……実家に帰ってきたって感じね」
「その言葉が出てくるのは、ARCのメンバーの中でも貴方だけです」
「分かってるから……」
二人が会話をしていると、船は洋上施設から降ろされたアンカーによって引き上げられ、洋上施設の床と同じ高さまでたどり着く。
女性はアンカーの作動が止まった後、肩に麻袋を担ぎ上げ、紙束をトートバッグから取り出しながら男性と船を降りた。
「モルモットちゃん達は丁重に扱っているよね?」
「はい。宮乃様がご不在の間、死亡や衰弱したケースはありませんでした」
「ふふっ、待っててね〜モルモットちゃん達〜☆」
担ぎ上げられた麻袋の中身が激しく暴れている事を気にも留めず、二人は『第一研究施設』と呼ばれる建物の中へと入っていった。
その施設内は白色で埋め尽くされており、ただ一本の廊下が伸びている。廊下の左右には、看板の付けられたいくつかの扉があった。
「えっと、保管庫……保管庫……」
「保管庫は地下一階です」
「あ、そっか」
二人は廊下を真っ直ぐ進む。廊下の突き当たりには、上下へ続く階段とエレベーターがあった。
「では私は二階に用事があるので」
「うん。頑張ってらっしゃい」
二人は別れ、女性はエレベーターで、男性は階段でそれぞれの目的地へと行った。
――――――――――――――――――――
「さてと……殻無は……あそこでいっか」
『保管庫』に辿り着いた女性は、麻袋をその辺に放り投げる。
すると麻袋を結んでいた紐は解け、中からは何かに押し潰されたようなグチャグチャの肉塊が見えていた。
「死んじゃって可愛そうに……でも適合率80パーセントと101パーセントの違いは大きかったし。いやでも……ん?」
突然、彼女は麻袋の方に目をやる。彼女は麻袋に近づくと、金属でできた紫色の花びらを持ち上げた。
花びらには何者かの血糊がついており、金属の光沢を覆い隠している。
「これはもしかして……!」
そう言って女性は肉塊を探る。すると肉塊の手のひらのようなものから、一つの髪飾りが見つかった。
それは観夢が肩身離さず付けていた、紫色のスカビオサの髪飾りであった。
「出来れば目を抉り取ってきて欲しかったけど……まあ仕方ない。所持品で我慢するとしようか」
そう言って彼女はトートバッグから一本の瓶を取り出す。瓶は厳重に密封されており、中身は赤黒く染まった液体で満たされていた。
「プシュー……」
「ほいっ」
彼女が蓋を開けた瓶に髪飾りを入れると、瞬く間に液体は何かの反応を始める。
「私達はこれまでに神を創り出そうとしてきた。神を創り出すために人類の犠牲はいとわなかった。しかしだ……私たちは遠くを見つめすぎて近くに答えがある事に気が付かなかったらしい」
液体は凝固し、やがて何かの形を取り始めた。
「付喪神……いや、折角なら
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます