依頼人さんにあるものを添えて

「あれはですね、大体……」

「三年前でしょうか?」

「そうです三年前……」


 そう、今から大体三年前の事。まあ私が何かの理由でARCの本拠地から単独脱走した時にそれはもう大量の軍隊に追いかけられましてね〜。

 その時に無我夢中で逃げ回りながら、今の強靭な身体とか、M107CQとか、パワードアームとかを手に入れて、反撃も加えながら軍隊を潰していきました。

 しかしながら軍隊もしつこいもので、脱走まであと一歩という所で包囲されたんです。

 その時に手に入れたのは、現在私が悩まされている『能力の等価交換』というもの。簡単に言えば、「人を食べてそれを一重の眼の力とする」能力ですね。

 それを使って無事脱走し現在に至るという訳ですが……今はその能力がどういう訳か暴走している、というのが現状でしょうか?


「なるほど。あの方の予想とは少し異なる部分もありましたが、大体合っていたようですね。それにしても観夢様がそんな過去をお持ちだったとは」

「これ以上語ると長編の小説が出来上がりそうですけど、聞きます?」

「やめておきます」


 私は戦闘員ちゃんに長々と過去を語るチャンスを逃したことにがっかりします。


「まあ、たまになら聞いておきます」

「うへへぇ〜」

「……では原因も分かったので、あの方に無線で今の事を伝えます」

「分かりました〜」


 そうして戦闘員ちゃんは近くにある無線機へと行き、依頼人さんの所へと無線を繋いで先ほど話した内容を伝えたようでした。


「――はい。分かりました。そのように伝えておきます」


 そう言って戦闘員ちゃんは無線を切ります。


「どうでしたか?」

「あの方が直接こちらにくるそうです」

「ちょっと待ってください!?」


 私は寝袋を脱ぎ、飢餓感と吐き気に耐えながら立ち上がります。


「観夢様、今は安静に……」

「う、ぷっ……」


 急に立ち上がったから目眩が……あと吐き気が……ちょっと外に出なきゃいけませんね。


「観夢さ、ああ……」


 私は戦闘員ちゃんの何か諦めたような顔を振り切って神社の外に出ると、もう既に吐き気は最大にまで達していました。


「観夢様、せめてこれに「お゙っ……お゙えっ――」……手遅れでしたか」


しばらくして――


「いやぁ、案外吐けばすっきりするものですね!」

「まさか吐瀉物の処理をすることになるとは……」


 現在、私は戦闘員ちゃんに口を拭かれながらすっきりした気持ちで神社の縁側に座り、依頼人さんの到着を待っています。

 

「まあまあ、後で良い喫茶店を紹介するのでそれで許してください」

「分かりました」

「折角なら依頼人さんも一緒に連れていきましょうかねぇ」


 喫茶店に行ったら何を頼みましょうかね〜。カフェラテ、ケーキ……サンドイッチとかも良さそうですね!あ、でも吐いた後に食べるのはあまり良くないんでしたっけ? 


「楽しそうだね。姫」

「あ、依頼人さん」


 考え事をしていると、私達の横側から依頼人さんが歩いてきます。

 戦闘員ちゃんは依頼人さんに頭を下げてますね〜。こうして見ると案外可愛いかもです。


「それで、飢餓感と吐き気の事だったね」

「いやぁ、わざわざお医者様に足を運んでもらえて私はお金持ちですねぇ〜」

「医者では無いけれど……そうだね。強いて言うなら内科専門かな」


 依頼人さんがそう言った直後でした。

 突如、依頼人さんの長く伸ばされた黒髪がピンク色に変わっていき、目はただの黒目から猫のように瞳孔を伸ばした紫の目に転じます。

 退院の時に見た可愛らしい服……白いワンピースからは黒いコウモリのような羽が生えていました。


「内科……ないか……内科ってこんな人達のでしたっけ?」

「それは違うね……」

「えっ、じゃあ依頼人さんのその姿って?」


 依頼人さんは人間……?というより――


「この姿じゃサキュバスみたいかな」

「えぇ……えぇー!?」

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