研究所と怪物 後編

今回、またもやグロ注意です

――――――――――――――――――――


 蒼白の光が観夢に向かって放たれ、その周囲ごと着弾し、大きく爆発を引き起こす。


「さてと……処理をしようか」


 青年……殻無からなし 吊無つるなは自身の勝利を確信していた。

 観夢にはMERの手榴弾で能力を封じさせ、かつ紫陽花の攻撃が確実に命中したからである。


 着弾点には何も残っておらず、床は熱に溶かされてガラス状になっていた。


「あ゙ぁ゙……勝利を確信していそうな緩んだ顔ですね」


 突然、背後から聞こえないはずの声が聞こえる。


「何が「黙れ」ごっ……!?」


 吊無が振り返った先には攻撃を喰らったはずの観夢がおり、観夢は振り返ると同時に吊無の顔を鷲掴みにする。


「能力封じ?致命傷?……そんなの知ったことじゃないですよ」


 パワードアームは半壊となっており、服は大事なところ以外破け、皮膚は爛れ、一部からは骨がはみ出している。おおよそ、人間が動けていいダメージでは無かった。


「あ……じざっ゙!?」

「あ゙?誰の許可を得て喋れといった?」


 そういう観夢の片手には、先ほど爆ぜきった筈の手榴弾の一つがある。


「なぜ、爆発してい゛ない゛……」

「もういい、死ね」


 観夢は片手を顔から外し、吊無が宙を浮いている隙に、口に手榴弾をねじ込む。

 そのままの勢いで吊無が1mほど吹き飛ぶと、連鎖して手榴弾が爆発する。


「ごあっ!?」


 身体全体から万能感が消えさる。防げる物が防げなくなってしまうと本能で分かる。しかし、能力の全てが消えている訳では無さそうだった。


「調子に乗るな、脱走者がぁ!」

「……!?」


 追撃に入っていた観夢の拳を受け止める。


「オラッ!!」

「がっ!?」


 吊無は観夢の腹に一発入れ込み、拳を受け止めていた手を離して顔に攻撃を入れようとする。


「パシッ」


 が、観夢の手のひらで防がれ、代わりに脇腹へと攻撃が繰り出される。


「ぐっ……お返しだぁ!!」


 互いが互いの攻撃を防ぎ、そしてカウンターを繰り出し合う。武器も兵器も使われない一対一の殴り合いが続く。


 空気を切る音、殴る音、受け止める音。敵同士であるはずの二人は面白い程にテンポ良く殴り合っていた。


「なぜ脱走した!なぜあんな奴らと組んだ!あんな奴らと組んでいれば、世界は救われないぞ!」

「だからといって私が不幸になるのは許せません!」

「……お前はいつまでもそうして自分勝手な子供のままだなぁ!!」

「ぐっ……だったら何ですか!?貴方達も子供でしょう!?なぜ大人みたいなつまらない人生を送るんですか!?」

「それが世界のためだから……だっ!!」


 吊無はアッパーカットを繰り出すが、それは空を切り、観夢はその隙に二、三歩ほど間合いをとる。


「遠くの事を見すぎて目の前の事は見えないお馬鹿さんなんですか?」

「明日の事を考えられないお前には言われたくないな!」

「失敬な。明日の朝ご飯ぐらいは考えてますよ!」

「それは考えているうちに入らないだろう!観夢!」


 お互いの拳が激突し、辺りに衝撃波が起こる。


「ふふっ……」

「どうした?アドレナリンを分泌しすぎて可笑しくなったか?」


 観夢が顔を上げる次の瞬間、濁ったレモン色の瞳は


「なっ!?」

「潰れろ」


 瞬間、左右から巨大なコンクリートの璧が迫る。


「紫陽花だけは!!」


 吊無は男が置いていった一枚のチップを紫陽花に投げつける。チップは紫陽花に当たり、青色の光と紫陽花と共に何処かへと消えるが、目の前には既に壁が迫っていた。


「観夢ぅぅぅ!!!」


 吊無は最後の力を振り絞り、観夢へと向かう。命懸けの力は吊無を突き動かし、左右の壁が潰す範囲を逃れるが――


「やっぱり、で十分でしたね」


 赤黒い電気を帯びたレールガンを、左手で持っている観夢が立ちはだかる。

 観夢の全身を見ると、先ほどとほとんど変わらないように見えるが、よく見ると右腕がなくなっており、観夢の足元には黒く変色した肉塊があった。


「パンッッッ!!!」


 乾いた音と同時に全身が後方に持っていかれる感覚がする。そして全身に電撃が走り、全身が麻痺する。一瞬だが腹部がごっそりと無くなっているのが見えた。

 何か解決方法が無いかと何倍にも体感時間が引き伸ばされるが、最後に捉えたのは灰色の壁と、煙を出したレールガンのみであった。




――――――――――――――――――――




「はぁ……はぁ……」


 私は大きく息を吸い、肩で呼吸をします。オーバーヒートを起こしたレイを杖代わりにし、強烈な痛みに耐えながらなんとか立っていました。


【――■……姫!無事■い!?】

「ぁ……なんとか、無事です」

【生産ライ■に衛生班を今す■送る!近くに敵はいな■かい!】

「ぜんぶ、潰れてますね」


 紫陽花の攻撃で壊れ気味のトランシーバーに対して、私は返答します。


【作戦も終わ■た。もう少■だ!もう■しだけ耐え■■■!!】


 依頼人さんは熱が入っているのか、ノイズもそうですが音割れでも聞こえにくくなっていますね。


「疲れました……私はもう寝ます」

【ちょ■!今寝た■――】




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