研究所と怪物 中編

 私は満を持して一歩を踏み出します。


「人力パイルバンカーァ!!」

【うわっ!?】


 一歩踏み出すと同時にパワードアームをフェーズ3の出力ギリギリまで上げ、熱気を放出させながらそれを前方に送り出すように拳を突き出しました。


「ドンッ!!」


 熱量の塊とも言える白い煙は、床にヒビを入れながら突き進み、工場を一気に埋め尽くして室温を一気に上げます。


【姫、あまりやりすぎないようにね……】

「分かってます。……さて、もう一個オマケしましょうか」

【人の話聞いているかな……】


 蒸気の中に入った後、薬によって負担が軽減された一重の眼を使い、私は敵の位置を先んじて把握します。いやはや、ノーリスクで能力が使えるようになるなんて、非人道薬は凄いですねぇ。

 私は手始めに、潜伏している一人に対物ライフルくんの銃口を向けます。敵方はこちらの位置を把握していないようなので、ゆっくりとリロード。


「ドォォン!!!」


 そして弾を発射すると、一人分の反応が消失します。


「ダダダッ、ダダダッ……」


 すると、敵がクリアリングを始めたのか、3点バーストの音や、セミオートの音がチラホラと聞こえ始めます。放たれた弾丸は次第に私の方向へと近づいてきました。


「ッ……!」


 腹部に僅かな痛み。人差し指で擦ってみると、そこには確かに血痕がありました。

 音はアサルトライフルやサブマシンガンといった軽いもの……となるとがARC製の対五感能力用のものでしょうか。つくづく厄介ですね。


「とうっ」


 私は地面を蹴り上げ大きく飛ぶと、主に機械を遮蔽にして隠れている敵めがけて、対物ライフルとレイを撃ちまくります。


「ドォ「パンッッ!!」ドォォン!!!」


 今ので大体5人でしょうか。煙はまだ晴れず、弾もある程度は残っている。よし、このまま持久戦といきましょ――


【待て!工場付近に高エネルギー反応だ!】

「ゴシャァ!!!」


 上から崩落音……何かの兵器が投入されたんでしょうか。とりあえず後ろに逃げなければっ!


「ドンッ!……キィィィッ……!!」


 何かが地面に着陸した直後、工場の煙が一気に晴れ、視界を確保されてしまいます。

 こちらに来る煙と風圧を目を閉じて耐え、そして目を開けた時には衝撃の光景が広がっていました。


全長3mはありそうな宙に浮いた巨体。

異質感を醸し出す正方形の見た目。

そしてその表面を駆け回る蒼白と紫の光。


 この世の物とは思えない形をしたがそこにはいました。


「サプラ〜イズ!観夢、びっくりしたかな」


 突如として気の抜けた声が響きます。


「っ……!」

「おっとおっと、姿を出さないってのは失礼だよね」


 その言葉と共に、潜伏していたはずの兵士が姿を現し、ある一点を見つめて敬礼します。

 その後、機械の横に空間の歪みが現れ、そこから一人の青年が現れました。


【……姫!状況は!?】

「虚構の皮膚の原本オリジナルと、謎の機械がいます」

【謎の機械……?っ!ま■……■――】


 トランシーバーからノイズが発せられ、依頼人さんの声が届かなくなります。


「さて、邪魔者はいなくなったようだし……僕も戦闘データを取れと言われているし。君をここで捕獲させてもらおうか。紫陽花あじさい

『……0□』


 機械が声に呼応し、即座に形を変形させます。正方形の一面は私を向き、気づけばそこには多数の銃口が出現していました。


「また化け物じみた兵器を造りましたね」

「兵器ではないさ。これは神の一部。我々が統括した能力の三分の一がこれに詰まっている……まさか、博士がこれを出すとね」


 統括した能力……なるほど。これはヤバそうですね。


「さて……お話も済んだ事だし、そろそろやろっか。紫陽花、


 言葉を合図に、多数の銃口から弾丸が発射されます。


「ドドドドドド!!!」

「あぁもう!」


 私は能力を使い、無理くり盾を引きずり出して弾丸を防ぎます。

 盾は弾丸を防ぎ切りますが、終わる頃にはこちら側に膨らみが出来るほどにボコボコになっていました。


「こっちも忘れていないよねっ」

「がっ、あっ!?」


 いつの間にか私の隣に近づいていた敵が、私の脇腹を勢いよく蹴り飛ばします。

 盾を手放し、レイと対物ライフルくんをクッションにしながら着地しますが、敵とは2m以上の間合いが出来ていました。


「さぁ、とっとと終わらせようか」


 そう言う敵の手にはP220 TBというハンドガンが握られていました。サプレッサーは……外されているみたいですね。


「そう簡単に終わりませんよっ!」

「パンッ!」


 敵の手元を良く見て、引き金を引く動作から撃つタイミングを予測して私は初弾を避けます。

 その後の弾丸も予測して避けてを繰り返し、私は反撃のタイミングを伺いました。


「紫陽花、手榴弾」


 私が弾丸を避けていると、足元にピンの抜かれた手榴弾が転がってきます。


「っ!?」


 咄嗟に腕を構えた後、爆音と衝撃が身体中を駆け巡りました。


「あ゙っ゙っ、い゙ぃ゙ぃ゙!!」

「どうだい、MER製の特注の手榴弾は。他社の製品ながらよく効くだろう……あの研究所も研究の仕方が似ているのかもね。是非とも良い関係を築きたいものだよ」


 あ゙ぁ゙もう……うる■■ですねぇ……考え事ができない■しょう?


「さあ、能力は封じた。投降するなら今のうちだよ?観夢。でなければ最悪死んでしまう」

「あ゙ぁ゙……?」

「そうか。いや、観夢も多少は賢い人だと信用していたが、どうやら違ったらしいね」

『エネルギーの収束を開始』


 すると紫陽花が銃口を一つに収束し巨大化させ、何かのエネルギーをチャージしているのか、銃口の中心に青白い光の球体が現れます。


「では僕の考える最悪を実行するとしようか。安心してよ、死ぬ時は一瞬だ」

『充填完了』


 もうちょっと強ければ……もうちょっと、ならもう、は必要ないですかね。

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