研究所と怪物 前編

 開戦の火蓋が切られてから研究所vs観夢側の戦いは熾烈を極めていた。


 そんな戦いを傍観するように、一人の男が呟く。


「観夢くんか……お友達を引き連れてよくもまあ懲りないものだ」


 白衣を着ているその男は、今攻められている研究所に関わる者でありそうだが、ビジネスチェアに深々と座り、その手には紅茶の入ったティーカップという場違いな物が握っていた。

 男のすぐ近くには机があり、コップを置くためのソーサー、そして食べかけのカヌレが机の上に置かれていた。


「仕方ないよ。あの子そういう子だもん」


 男以外誰もいない空間で、ふと声が響く。


「……おや、観夢くんの対処は良いのかい」


 男はソーサーにコップを置き、イスごと向きを変え、何も無い方を振り向く。


「それは大丈夫」


 すると男の向いた方向の空間が歪み、それが人の形を取った後、観夢と同年代の見た目をした一人の青年が出てくる。

 その青年の皮膚は赤黒く、おおよそ人が持つ皮膚の色では無かった。


「成功体とは言え、単騎の戦闘力では限界があるし、今回の作戦ではMERから専用の手榴弾を輸入した。ダメ押しで劣化皮膚部隊を送るつもりでもあるから。後は僕がいなくても何とかなるよ」

「観夢が食人をしなければ、だがね」


 男がそう言うと、青年は渋い顔をする。そのまま男は言葉を続けた。


「彼女の持つ、能力の等価交換は非常に危険だ。実際、それで一重の眼のリスクを限りなく0にしている」

「面倒な能力だよ。本当に」


 青年はため息をつく。どうやら青年は以前、観夢に散々煮え湯を飲まされたようだった。


「まあ、私としては原本きみにも戦闘してほしいのだがね」

「……それはまた後で。ひとまずここから出よう」


 そう言って青年は手を差し伸べる。


「分かった。……まあしかしながらだ、大人しく撤退する前に、少し引っ掻き回してから行こうか」


 男はそう言ってを置くと、青年その手を取り、やがて歪みの中へと消えていった。


――――――――――――――――――――


 男と青年の会話と同時刻、最前線では相も変わらず観夢が暴れていた。

 場所は入口から研究所内の廊下となり、戦闘は研究所入口の銃撃戦から一変し、範囲攻撃である手榴弾がメインとなっている。

 一瞬でも気を抜けば足元に手榴弾が転がり、爆発する。まさに死地であった。


「……あっぐ!?」


 い゛っだぁ゙ぁ゙ぁ゙!!この手榴弾の爆発、滅茶苦茶痛いですって!!

 さっきから何か赤い手榴弾しか投げてこなくて本格的に事故らせに来てますよ!手榴弾取り扱いの免許返納してください!(?)


「ドォォォン!!!」


 そう思いつつ、私はチャージしきったレールガン(仮)をぶっ放します。電撃と謎エネルギー伴った極太弾丸は、廊下を一直線に進んでいき、一瞬で突き当たりの壁まで辿り着きました。

 過剰火力のせいで死体は無いですが死屍累々。


 制圧は出来てますが……研究所内部に入ってからダメージも蓄積しています。あの手榴弾、どうやら能力を阻害する爆発をするようで、初めて喰らった時は一重の眼が使えなくてびっくりしましたね。

 まあ今は喰らった瞬間に能力で能力阻害のデバフを解除していますが。一重の眼がそういう系統の能力持ちで助かりました。


 まあそんな野暮な考えは置いておいて、私は廊下を進んでいきます。目指すは劣化版虚構の皮膚の生産ライン。

 ただでさえARCの研究所と言うだけで厄介なのに、工場も作られてしまっていて……これはもう発狂案件ですね!


「いたぞ!!」


 敵が突き当たりに見えたと同時に、私はレールガン(仮)の引き金を引き、思いっきりレールガン(仮)をぶん投げます。


「そいっ!」


 レールガン(仮)が突き当たりに着いたと同時に敵へと弾丸が発射され、レールガン(仮)は発射の反動で後ろにあった壁に刺さります。

 私は走ってレールガン(仮)を回収し、損害が無いかを軽く確かめました。


 今さら思いましたけど、レールガン(仮)って毎回言うの面倒くさいですね。これからは『レイ』って略しましょうか。


「バンッ!」


 廊下をさらに進んだ先では、珍しく弾丸が放たれます。それをレイでブロックした後、背中に背負っていたM107CQくんを片手で持ち、引き金を引きます。


「バァァン!!!」


 弾丸は敵の額に命中し、あっけなく倒れました。

 ふと敵の姿に意識を向けると、戦闘前には無かった腐敗や、戦闘服の隙間から目立つやや赤黒い皮膚が目に止まります。


コピー品虚構の皮膚の部隊も投入されているんですか……」


 まあ使えなくは無いかなとは思いながら、私は死体の肉をもいで食べ、その場を去ります。その後は特に接敵も無く、無事に生産ラインのある工場の入口に辿り着きました。


【あ〜あ〜……聞こえているかい】

「どうしましたか?」


 トランシーバー越しから、久しぶりの依頼人さんの声がします。


【あ〜いや、姫が目標の地点に辿り着いたと聞いてね。渡したいものがある】

「姫、こちらです」


 後ろから声が聞こえるので振り返ると、味方の戦闘員が何やら怪しげな液体を入れた小瓶を持ってこちらを向いていました。


「例の薬ですか」

【そう。そろそろ渡す頃合いかと思ってね】

「分かりました。受け取っておきます」


 私は小瓶を受け取り、蓋を開けて中身をグイッと飲み干します。


【もう使うのかい……】

「あまり時間を掛けると敵の陣形が固くなりますからね。早めにケリを付けますっ!」

「姫、実働部隊は準備完了です。突撃の合図を」


 突撃の合図ですか……ならば折角ですし能力をフル活用してロマン砲を撃ってみましょう!

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