シリアスはシリアルにして食べることができますっ

 フルーツケーキを買ってからしばらくした後、私は起眞市から離れ、耳之宮町という場所の、生い茂った木々が行く手を塞ぐ盆地にやってきました。

 なんでも今日の仕事はここでやるのだそうです。


 なんでも、ARCの五感能力……ああ、この際なので言っておくのですが、五感能力というのは、散々言われてきた『一重の眼』を含む5つのヤバい奴です。

 ARCの生み出した奴らの中でも飛び抜けた能力を持っていて、出会ったらまず私でも五体満足では帰れません。


 で、その五感能力の一つ、『虚構の皮膚』の劣化コピーが耳之宮町のはずれで生産されていると聞きました。

 虚構の皮膚っていうのは、五感を犠牲にして無敵バリアを張るチート野郎ですね。原本は核爆弾も耐える強度ですね。

 こういう単純に強い系の能力、私嫌いです。もっと頭を使ってクリエイティブに……っと、流石に辞めておきましょう。


 ともかく、今回のミッションはその虚構の皮膚の劣化コピーを生産する工場の破壊工作だそうです!

 依頼人さんもいつもより気合を入れて臨んでおり、今回の作戦では50人以上であたるそうです。


 配置についた私からは、ステルス技術によって肉眼からもソナーからも隠れたチー牛研究所があると言われた場所が見えています。

 本当にただの森にしか見えないので、実質初見殺しですね。

 これだけ秘匿されている研究所にも関わらず、担当の方が血眼になってソナーの異常を炙り出して見つけたそうですね。五徹ごてつだそうです。


【姫、作戦開始五分前だ】

「さて……初撃はド派手に、ですね」


 今回は通信用のヘッドホンではなく、片手で持てるトランシーバーから依頼人さんの声が聞こえてきました。

 私は依頼人さんの言葉を合図に、レールガン(仮)を研究所の方角へと向け、銃自体がスタッガーする寸前まで、丁寧にエネルギーを貯めていきます。

 僅かに聞こえるレールガン(仮)の駆動音は、緊張する私の心を打ち消してくれます。


【本作戦は僕達にとって、一つのターニングポイントとなる。勿論、良い意味でも、悪い意味でもだ。くれぐれも失敗はしないよう……そして、生還するように――】


 その流れのまま、依頼人さんはある事を言います。


【それと、例の薬が完成した。今回の作戦では一重の眼を使うことになるはず。その薬を使えば、負担を軽減できるはずだ。いやはや、かのユミーくんのサンプルが無ければこの作戦はすぐに実行できなかっただろうね】

「よっ、非人道薬ですね」

【……こうするしか無いだけだよ】


 まるでそうする以外に方法が無かったかのように、依頼人さんは悲壮感を漂わせた声でそう言います。……辛気臭くさせちゃいましたかね?


【ともかく、この作戦は君を……姫を失うのがもったいないだけだよ】

「あれ?どっかのゲームの先生気取りですか?」

【偽善者と違って、こっちは足元を見た発言をしているだけだよ】

「ふ〜ん……」


 依頼人さんの言葉を聞いて、私は少し身体が火照ってきます。まずいですね!シリアスからラブロマンスに変わりそうです!

 誰か今すぐUnwelcome schoolを流してください!


【……そろそろ時間だし、改めて気を引き締めようか。それじゃ、また会おう】

「ええ、そちらも気をつけて」


 そう言葉を交わした後、通信は微量のノイズを発し始めます。


【作戦開始10秒前】


 肉声とはうって変わって、抑揚のない機械音声に切り替わった頃、私はレールガン(仮)を構え直します。


「パワードアーム・フェーズ3、起動」


 よし……――


【3…2…1、作戦開始】


 この作戦をやるにあたって、フルーツケーキでカロリー足りますかね?

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