ストレスはフロー、甘味はフリーですっ

 一重の眼関連の事件からしばらくして、私はとぼとぼと神社に帰ってきました。

 神社に帰ってきてからはコンビニ弁当を食べて、濡れた布で軽く身体を拭いて、パジャマを着て、その後家事諸々をして……苦では無くなりましたけど、それでも辛いです。

 それでもって、今日は追加で研究所関連の事件も報告しなければありません。ヤベー奴の複製品ってもう何ですか……。


【それで、一重の眼の複製レプリカと遭遇したと。大変だったね】

「そうなんですよっ!最近崩れ気味なバイト生活が完全に崩壊しちゃわないか心配で心配で……」

【そっか……あ、秘匿通信に切り替えるね】

「へ?」


 依頼人さんは何か言うべき重要な事があるのか、ピッ、という無機質な音と共に通信を切り替えます。

 そして、依頼人さんは一瞬溜めて、こう言います。


【……君に関わる話だけど、最近では、起眞市では色々な物が動いている。表面上では平和を取り繕っている起眞市だけれど、爆弾の導火線が燃え尽きる前のように、もうそれも持たなくありつつあるんだ】

「……ここで何が起きているんですか?」


 私は依頼人さんにそう聞きます。


【前にした犯罪組織が増えてる、って話は覚えてるね?】

「はい」

【それが何だけど、ARCの子会社グループ、「子羊」が絡んでいる証拠がついさっき起眞市で見つかっちゃったんだ。それに、MERって変な研究所も起眞市になんか絡んでるって証拠も見つかった】

「???」


 ARC?MER?待ってください理解が追いつきません。つまりですよ。研究所が一つ、二つ……二つ?


「待ってください。ARCだけならまだ分かります。MER?何ですかそれ?」

【なんか違法な製品とか作ってる所らしいね。ARCで定一杯だから、正直関わりたくないなぁ】

「入ってきてる情報それだけですか?」

【他にも沢山あるけど、ロシア語やら暗号の解読が終わってからだね。まあ下っ端に流れるような物だから、対した情報は無いと思うよ】


 MER……エムイーアール……。


【MER、きな臭い組織だけど、もしかしたらARCと結託してる可能性もある。だから要するにね、明後日ぐらいから仕事三昧だ。ちなみに拒否権は無いからね】

「はいぃぃ!?」

【いちいち依頼情報を送るのが面倒くさいから、明日の朝に使いの子を送っておく。FAXを設置して一気に送っちゃうから、後はよろしく頼むよ、姫】

「はいぃぃ……」

【返事が良くて結構だ。それじゃあ切るね】


 無慈悲に通信が切られ、後には唖然とした私が残ります。

 一重の眼とか何か色々ヤバいものを作っている研究所以外にもう一つ……いやぁぁ!!




――――――――――――――――――――




「あぁぅ……」


 気づけば私はS&W M500を忍ばせて現実逃避をする様に外出をしていました。ピンクと白のシマシマ模様のモコモコパジャマを着て。


 斜面を越え崖際を越え、そこからゆったりとした坂やらなんやらを上り下りして。

 日が落ちるか落ちないかという所で、私は何故か中央区にある一つの喫茶店に到着していました。


「喫……茶店?なんでこんなところに」


 いつの間に下山していたのか、という野暮な話は置いておいて、来た道を忘れちゃう程の入り組んだ道にある喫茶店……雰囲気ありますねぇ。

 外観は落ち着いた雰囲気そのもので、ソフトクリームの置き物と、目立つように置かれた「森崎喫茶」と書かれた看板がちょっとしたアクセントになっています。


「入ってみましょうか」


 心の癒しを求めて、私はその喫茶店に入ってみます。


「カランカランッ」


 私が扉を開けると、すぐさま薄緑色のショートヘアーと、輪っかのような髪型を左右に二つ作っている、特徴的な店員さんが出迎えてくれます。


「いらっしゃいませ〜お好きな席へどうぞ〜」


 店員さんにそう言われて、私は喫茶店を見回って席を探します。中々に繁盛していて席取りには困りましたが、半個室のような仕切りに、4席分あるスペースが空いていたので、そこに座ります。


「ご注文はお決まりですか〜?」

「いや、まだですね」

「では、呼びたい時は声をかけてください」


 何か自由な髪型をしているにも関わらず、対応が丁寧でしたね〜。

 喫茶店自体は何か落ち着いた雰囲気です、し――


「クリームソーダとオレンジジュースをお願いします」

「わかりましたぁ〜」


 ふと、この席から見える窓辺の席の方に目をやると、先ほどの店員が見覚えのある少年くんと話している姿を見かけました。


「なんですか……私が何かやらかしたんですか……」


 私は頭を抱えて小声で嘆きます。何か気づいてはいないみたいですが、にしてもそんな偶然で命のやり取りをした人と出会いますかね普通!?なんですか!ここの常連さんなんですか!?私もう叫び過ぎて心の喉が枯れますよ!?


「うう……すいませ〜ん!(裏声)」

「はいはいただいままいりま〜す〜」

「クリームソーダ一つ(震え声)」

「わかりました〜」


 情緒不安定になる中、私は声がけをして自分のメニューの中で一番好きな奴を頼みます。

 クリームソーダ、好きなんですよね。なにせ私が幼い頃に食べた唯一美味しい物なので。

 まあ昔話はさておき、今日だけでハプニングが起きすぎたので、甘いもので心を癒しましょう。そして寝ましょう。


 ……そう言えば私パジャマのまま来ちゃいましたねぇ!?

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