暗闇の探索

 細長くした棺みたいな廊下。ここも真っ暗だ。滑るのを止めて、ライトで壁を照らしてみる。本来なら情報表示板ディスプがあるはずの場所だが。

 

〈壁だけだと?〉


 ミー・トゥーは答えない。こんな設計の船は初めて見た。そりゃ視界補助を使ってれば情報表示板ディスプなんて必要ないかもしれない。だがインプラントが不具合でも起こしたら、状況がなにもわからなくなっちまう。

 あちこち照らしながら進む。

 限られた視界の中へ、ふいになにかが飛びこんできた。磁気スケートのローラーが甲高い音を立てて止まる。

 虫だ。

 正確にはプラスチック分解虫プライーターの死骸だ。ゼロG環境で宙へ釘付けになっている。ゆっくりと回転しているそれは乾燥しきっていて、まるで化石のように見えた。


〈いつから放置されてるんだ? このエリアは〉

不明アンノ


 虫を指で弾き飛ばす。それは崩壊して塵になり、ホコリと共に空気へ混ざってしまった。

 ライトを廊下の端へ向ける。

 ハッチが見えた。「居住区」と読めた。

 


 ライトアップされた、宙を舞う色とりどりのカビ。死骸に比べればまだ生命ってものを感じる。

 個室をいくつか通り過ぎた。宿舎のようだが、最近放棄されたようだ。腐った栄養ペーストの付着したトレイが天井近くを漂っている。拘束具みたいなゼロGベッドがいくつか。汚れた簡易トイレらしきもの。欠けたチェス盤がひとつ。


〈ここにいたやつらはどうなった? なにかに襲われたのか?〉

不明アンノ

〈だろうな〉


 俺は立ち止まって、耳をすませた。

 

〈聞こえるか?〉

〈意図不明。言い換えを推奨〉


 音というか、ずっと鼓膜が揺らされてる感じがある。聞こえないほど低い音がずっと鳴ってるんだ。おそらくエンジンだ、と俺は検討をつけた。

 先へ進むにつれ、音は大きくなっていった。



 出口のハッチは滑らかに開いた。驚いたことに、俺は騒音に出迎えられた。空気の振動もかなり強い。工場か? それも操業中でかなりの規模だ。

 ライトを上へ向ける。はるかかなたの天井から吊り下がった、無数のきらめく物体が見えた。電球の形……ファイターだ。

 それらはどうやら俺のいる方向へ移動しているようだ。ライトを向こう側へ振ると、ファイターはどんどん分解されていくように見えた。

 ファイターの製造ラインだ。


〈おい、おかしいぞ。照明が落ちたのはなんでだ? 電源は動いてるんだろ〉

不明アンノ


 またこれだ。こいつもすっかり混乱してるみたいだ。

 足元になにかが当たった。そっちへライトを向けたのに、汚れた床しか見えない。また軽い衝撃。なにやら白いひものようなものが一瞬だけちらついて、消え去った。


〈いまのはなんだ?〉

不明アンノ

〈たいがいにしやがれ、さっきから……〉


 伝えきることができなかった。横っ腹を殴りつけられたからだ。

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る