黒い三角形

 宇宙に欠けた部分があった。それは楕円形の欠陥で、真っ黒塗料ブラッケストを吹きつけてあるみたいに真っ黒だ。

 いやひょっとすると……実際に吹きつけてあるのかも。

 無が迫ってくるにつれ、輪郭が明らかになってきた。うごめいている。表面の微小なデコボコが常に動いていて正体がつかめない。


〈リンク再確立。進入許可〉


 インプラントから報告があった。


〈進入って、これはなんだ〉

不明アンノ


 そのとたんだった。虚無の壁だった視界が開けた。くすんだ緑色の対宇宙ゴミ壁デブリプルーフ。ファイターがぐるんと回転して、噴出口をそっちへ向けた。俺の身体は後ろ向きに何度も押された。減速してるんだ。

 後ろを見ればデブリプルーフに開いたトンネル、馬鹿でかい進入口だ。まさか宙母キャリアの穴以外に入る機会があるとは。

 黒色の壁を通り抜けるとき、それをよおく見てみた。なんてことはない、黒い三角片の集まりだ。たぶんひとつひとつが磁気でトラップされてて、本体を離れないようになってるんだろう。

 だが妙だ。


〈ここは国境付近だな? こんなところに施設を置いとくのは違法だろ〉

〈発言一に対し否定ネガト。発言二に対し肯定アファーム

〈つまりどういうことだ〉

〈現地点は国境付近ではなくスクィディオ領。よって違法〉


 トンネルへ滑りこむと同時に、俺は頭をおさえた。

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