ドッグファイト
「逃げんな糞イカ!」
俺はすぐに操縦桿とラダーペダルで追いかけた。ぐるんと世界全体が回る。敵機の姿が視界へ戻った。トリガーを二回引く。だが相手の回避パターンが読めない。こっちのレーザーパルスは無駄に真空を走らされるだけだ。
赤外色でハイライトされた丸い影が真ん前へ来たと思ったら逸れる。右へ左へ上へ下へ。エイリアンの操縦技術は人間と同等ってわけか。けったくそ悪い。
ドッグファイトはあまり長く続けられない。トーラスは馬鹿みたいに熱を出しやがるんだ。もちろん噴射剤に熱を逃がしてるが、噴射剤がなくなったら最後、俺は等速直線運動する宇宙のゴミと化す。
永遠の一分二十秒が過ぎて、ようやくその時が来た。
「うらあ!」
こっちの発砲と同時に、敵機の噴出口が紫外色を失った。赤外色も見るみる失われていく。沈黙。
心臓が数回打つ間よおく観察して、ようやく俺は息を吐いた。
勝ったんだ。
敵機の死骸はまだ視界の真ん中に漂っている。こっちが加減速しなきゃ永遠にこのままだろう。視界がズームアウトして、ヤツは暗黒に呑まれて見えなくなった。
突然心が落ち着き始めた。
まあいい。役目は果たした。あとは帰還して報告するだけだ。シートにゆったりと背中を預けて臭い空気を吸いこむ。
〈救難信号を受信〉
現場を見つかった浮気男みたいに、俺は身体を起こした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます