ドッグファイト

 レーザー砲スマッシャーをぶちこめばすぐ結果がわかる。航宙機のいいところだ。敵機から、ぱっ、と赤外色の花が咲いた。と思ったら側面噴射口を吹かして射線を外してきやがる。


「逃げんな糞イカ!」


 俺はすぐに操縦桿とラダーペダルで追いかけた。ぐるんと世界全体が回る。敵機の姿が視界へ戻った。トリガーを二回引く。だが相手の回避パターンが読めない。こっちのレーザーパルスは無駄に真空を走らされるだけだ。

 赤外色でハイライトされた丸い影が真ん前へ来たと思ったら逸れる。右へ左へ上へ下へ。エイリアンの操縦技術は人間と同等ってわけか。けったくそ悪い。

 ドッグファイトはあまり長く続けられない。トーラスは馬鹿みたいに熱を出しやがるんだ。もちろん噴射剤に熱を逃がしてるが、噴射剤がなくなったら最後、俺は等速直線運動する宇宙のゴミと化す。

 永遠の一分二十秒が過ぎて、ようやくその時が来た。


「うらあ!」


 こっちの発砲と同時に、敵機の噴出口が紫外色を失った。赤外色も見るみる失われていく。沈黙。

 心臓が数回打つ間よおく観察して、ようやく俺は息を吐いた。

 勝ったんだ。

 敵機の死骸はまだ視界の真ん中に漂っている。こっちが加減速しなきゃ永遠にこのままだろう。視界がズームアウトして、ヤツは暗黒に呑まれて見えなくなった。

 突然心が落ち着き始めた。大麻ハッシュを吸ったみたいに。どんな化学物質を注入したのか知らんが、ミー・トゥーの差し金だろう。

 まあいい。役目は果たした。あとは帰還して報告するだけだ。シートにゆったりと背中を預けて臭い空気を吸いこむ。


〈救難信号を受信〉


 現場を見つかった浮気男みたいに、俺は身体を起こした。

 

 

 

 

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