第4話 魔術
『システムコード・ファーストステージ・エア・リンク・ターゲット・シューティング』
――俺の右耳にその声が聞こえたとき、風が吹き荒れる。
「なんだ……⁉」
それは……いや『そいつ』は、空を……飛んでいた。
(――こいつ、超能力者か⁉)
「アリス、久しぶりね」
白い髪の少女。まるで騎士のような鎧を着ている。
「アリス、知り合いか?」
「…………覚えていません」
……周囲の人間は全員逃げた、か。
「……………………覚えてない、ね。じゃあ、帰ってから……思い出させてあげる!」
『シューティング!』
風の弓矢のようなものが現れ、新条だけを狙う。
――こいつ、俺狙いかよ!……アリスを傷つけるつもりはないらしいな……
(頼むぞ……死殺しの右手!)
ティイオン!という音が鳴り響き、風が『消し飛ぶ』。
「……殺意殺し(デッドブレイカー)……」女騎士が呟いた。
「……………なんだって?」
新条の右手のことを言っているのだろう。
―――しかしそれなら何故、この女が『これ』を知っているのだ?
「……………俺の右手の何を知っている?」
すると女騎士?は僅かに口角を上げ――。
「―――私達はそれを殺意殺しと呼んでいるわ。なぜ貴方に宿っているかは知らないけどね……。『術式』を消滅させる力、そう聞いてる」
「………………術式?」
新条がアリスを見ても、アリスは首を横に振る。
――もし、女騎士がアリスの知り合いだとしたら、何故こいつは、アリスは覚えていないんだ。アリスはエピソード記憶を忘れている、けど、意味記憶まで忘れている訳ではない。
言葉も鍵という存在と意味を覚えているのに、女騎士が言う『術式』という意味を持つものの事は忘れている?―――どういうことだ……?
「………なあ、術式ってなんだ……?」
「あら、知らない?術式っていうのは世界に干渉する為の『言葉』と『権限』。意味と権限が高ければ高いほど、術者の技量も高いの。貴方達で言う超能力に似てるわね」
「能力……」
なら俺の右手は、能力を消せる――?…なあ、なんで『お前達』は、俺の中にいるんだ?
――そしてこいつは何て言った?『術式(超能力)を消す力』?痛みを感じず、傷つかない。
それがお前の能力じゃなかったのか?
――これは推測だが、恐らく俺以前にあいつが言う『殺意殺し』を宿した人間がいたんだろう。そして『名前』と『能力』が知られているということは、一人じゃないな。少なくとも数人。もしくは俺以外の所有者がいるのかも……。
―――じゃあ、俺が右手の本質だと思っていた力、『死殺しの右手』はいったい……。
「さ、質問はもう終わり?」
「…………随分と親切な騎士様だな……」
しかし騎士は笑みを崩さず。
「だって貴方の命も数日よ?疑問に答えてあげるくらいしてあげないと、可哀想でしょ?」
「ああ、そうかい……じゃあ、二つ……」
「なぁに?」
「―――じゃあ、あんたは……なんでアリスを狙う?」
「……………『今は』言えないけど、代わりに……私の名前はリーナ・フレンベルト」
「リーナ、アリスはいったい……何処から来たんだ?」
「今は言えない」
「チッ……」
「もういい?じゃあ……死んで?」
「おいおい……!」
「Black X0014!」
術式?だろうか。女騎士の両手に複数の黒い帯が握られた。
「黒帯」
その帯はうねうね動いている。しかも地面にそれが触れると、まるで刀で斬ったように抉れた。
「ウソだろ……⁉」
――こっちに来た――止めるしかない!
右手で触れると黒い帯は力を失い、地面に落ちた。
「なら……」Black X0015-2!
風と黒い帯の組み合わせ……。――規模が大きすぎる。右手だけで防げるのか……。
(やるしかねぇ……!)
「う、おおおッ‼」
ティオオオン!風を消し飛ばす。
「はあ、はあ……」
(消し切れた……!)
「流石伝説の力ね、これ程度じゃ全然ダメみたい。……また来るわね」
「おい……!」
女騎士はそれを飛び、何処かに行ってしまった。
「アリス……どうしよう?」
「…………どうしましょう」
取り敢えず両親に相談しようと、家に帰る。
今日は二人共仕事は午前中だけなのでもう帰ってきているはず――――。
パン!カラフルな紙が飛び散る。
――クラッカー?
「「アリスちゃん、入学おめでとう!」」
「……………………は?」
――――にゅう……がく……?
――俺の聞き間違いだろうか。いや、聞き間違いであって欲しい。入学、そう聞こえた。頼む……世界よ曲がれ!
「入学とは何ですか?」アリスの純粋な疑問。
―――――曲がらなかった!っていうか学校も覚えてないのね……。
「学校っていうのはね、沢山の友達と勉強する場所なの!新もそこにいるわよ~」
「いや、けど俺は高校生!入るにしても編入試験が―――」
「それ明日だぞ」
「ああ⁉」父の言葉に思わず叫ぶ。
「いや、理事長に相談してみたらOKだって言ってたよ」
(理事長……!)
「あっ」
――あの女騎士のこと忘れ―――いや、本当に言うべきなのか。あの女は何て言った?「貴方の命も数日よ?」と言ったじゃないか。もしかして俺だけが殺害対象かも……無暗に話して巻き込んだら、命の危険がある。
「……………………」
――言わないでおこう。
アリスと両親が楽しそうに話している。
この景色は絶対に守らなければ、と心に誓う。
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