第3話 アリス

夕食の後、新条は風呂に入って、歯を磨いて、自分の部屋に入った。

今日の午前中まで新条新一人しかいなかったこの部屋。それがまさか、美少女と一緒に寝ることになるとは―――。まったく、何考えてるんだか。

―――今日も右手に助けられたな、と思う今日この頃。

実はショッピングモールから帰ってくる途中、不良を見かけたのだ。

そいつは女の子を鉄パイプで殴ろうとしていた。その時新条が間に入り、死殺しの右手で鉄パイプを受け止めた。もちろん不良は逆上し新条に矛先が向いたが――。そこはすぐそこに異能区があるだけあって、『特殊警備員』(ガード)がその不良を連れていってくれた。

『生まれた時』からあるこの『右手』。新条新の『当たり前』となっている『力』。何故ここにあるのか分からない力。―――呼吸の仕方を知っているように、無意識に神経が脳からの命令を全身に伝えるように。……なぜ宇宙があるか分からないように、『当たり前』のなにか。

―――この右手なら、もしかして……超能力も『殺せる』のか……?

そんな疑問を振り払うために頭を横に振る。

 すると、部屋のドアが開く。

「アリス……その服どうしたんだ?」

アリスは水色のパジャマ姿だった。

「お母さんが買ってきてくれたらしいのですが……」

「あー……、ん?」

――ってことはなにか?自分でもショッピングモールに行ったってのに、俺に指輪を買わせるために万年筆のおつかいを頼んだってのか?

……呆れた。

「どう……ですか?」

「…………可愛いと思う」少し恥じらいながら言った新条を見て、アリスは笑みを浮かべる。

「……ふふっ、お母さんの言っていたことは本当のようですね」

「………………何だよ、言ってたことって」

アリスはちょっと小悪魔的な表情をして――。

「新は女の子に弱いって」

――――ギクッ……

―――……そうだよ、俺は女の子に弱いですよ!しょうがねえじゃん、彼女だって出来た事ないんだから―――。

そんな心の声を押し殺して……。

「……そ、そんなことない…………」この一言は余計だったと後悔する。

「妙に自信なさげですね」

ギクッ!アリスは俺が腰かけていたベッドに寝転んで―――。

「………それなら、私と一緒に寝れますよね?」

ドクッ、ドクッ……――

「……………………」

「フフッ……」

――――どうやって寝ろってんだよおおおおおおおお!

「……どうしましたか?布団が温かくなってきましたよ?」

分かってやってるだろお前!アリスは新条の反応を楽しんでいるようだ。

――ああ、親父……こいつは絶対、普通のやつなんかじゃなかった……!

ガサッ……、布団の中で何かが動いた。……アリスが新条に抱き着いたのだ。

「すー、すー…………」

寝ているのか⁉こいつ……や、ヤバい……!

「あむっ」「⁉」

耳噛むんじゃねえ!寝れる訳、ねええええええええええええ!!!










「……………………寝れなかった」

夏休み最後の日。その朝はものすごく眠かった。

「あー、起きろアリス」

「……ん……はぁい……」

隣の少女は朝に弱いらしい。

「ご飯だぞー」

「分かりました……ふぁ……」

めっちゃ眠そう。―――昨日のお返しだ。

「ひゃあっ!」

起き上がった彼女の背中をつー………と指でなぞった。

「何をするんですか!」

「昨日のお返しだ」

「昨日……?……あっ」

「思い出したか?」

「………………はい」

恐らくこいつは抱きついた事や耳を噛んだことは覚えていないだろうが……。

「はあ……勘弁してくれ……」

今日は夏休み最後の日。ちょっと外でぶらぶらしてこようかなぁ……。

「ちょっと外行ってくる……」

「じゃあ私も行きます」

「……………じゃ、行くか」

もう、こいつに常識は通用しないことは理解した。多分こいつは俺の後を追ってくるだろう。それよりかは一緒に行く方がマシだ。

「あれはなんですか?」

アリスが指差したのは巨大な壁。

「ああ、あれは異能区を隔離する壁だよ。扉は東西南北に一つずつ、しかもそこには特殊警備員が常駐しているんだ」

 この世界の超能力は科学で解明されている。人間の神経が体に命令を送るように、世界に命令を送り、世界に超常現象を起こす力。これが一般的に知られている『超能力』。

だけど、俺はこれ以外の力をこの時、目にすることになる。

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