ママ、騎兵として暴れる

「ほぇ〜。魔王様は馬も乗れるんですねぇ。私はちょっと怖くて苦手ですぅ」

「誰でも最初は苦手なものよ。大事なのはきっかけと練習。この二つが十二分にあれば、大抵のことはどうにかなるものよ」


 もっとも、転移魔法を使うようになってからは馬も使わなくなったが。

 馬上はものすごく揺れる。おかげで、お尻や腰が無茶苦茶痛くなる。

 なぜそんな話になっているのかって?それは数分前の報告に遡る。


『戦場全体に魔力妨害の結界が構築されたようです。ロイス様や各貴族との連絡が取れなくなりました』


 真っ黒に染まった映像魔道具を空中に収納し、私はカップを口につける。

 小さくため息をこぼし、頭を下げる職員に命令。


『やっぱりね。結界外にいる者に連絡を。結界の発動主を探し、見つけ次第叩きなさい、と』

『かしこまりました』


 魔力妨害の結界。魔法が主力となった現代の戦争では最も強力な妨害であり、同時に最も被害をもたらす諸刃の剣だ。

 その影響は広範囲に及び、味方との連絡が取れなくなる。あらゆる魔法の妨害。転移魔法の使用不可。魔道具の機能停止など。

 これが敵味方に作用するので、結界内は単純な力と力のぶつかり合いになる。

 

『敵方は何を考えているのでしょうねぇ。自分たちの主戦力であるゴーレムを停止させてまで、魔力妨害の結界を使う意味はないと思うのですけどぉ?』

『……いや、これは流石にまずいかもね』

『? どういうことですかぁ?』


 私はシルミの肩を掴み、転移魔法を発動。

 同時に本営にいる職員に思念を飛ばす。内容は、『予定通り私は前線に赴く。シルミの他に六名ほど護衛を頼む』と。

 転移先は魔王軍の馬小屋。どの子にしようか迷っていると、一番隅にいる黒馬と視線があった。


『今の魔王軍が主軸とする武器、魔導銃は魔道具の一種。あとは分かるね?』

『……十分に理解しましたぁ』


 魔王の権限で黒馬を解放。思ったよりも大きい。鞍は付けられていないので、錬金術で即席のものを作っておく。

 

『シルミは私の後ろに』

『わ、私もですかぁ?』

『冗談は今、必要ないわよ!』


 シルミの体を片手で引っ張り上げる。思ったよりも黒馬が大きいので、落ちないように不可視の縄でシルミの体を私と繋ぐ。

 手綱も生成。装備させられている最中、黒馬は嫌がる様子がない。いい子だ。

 転移魔法の気配。振り返ると、馬に乗った鎧騎士が六名。全員が準備完了のようだ。

 

『それじゃあ、出発するわよ。私が先頭を走るから、貴方達に背中を預けるわ』

『『『はっ!!』』』


 ——というわけで、現在進行形で魔法妨害の結界内を走り回っているわけだ。

 ロイスたちの姿はない。まだまだ先にいるのだろう。

 

「これ、下手したらアンティラの別働隊に遭遇するかもね」

「あぁ……映像魔道具が使用禁止になったから、挟み撃ちしても気が付かれないですからねぇ」

「あら?シルミも分かってきたじゃない。ちなみに、前に見える旗は味方?それとも敵?」

「……魔王軍は旗を掲げませんよ!!」


 私は手綱から手を離し、腰から双剣を抜く。

 陣形を保っていた騎士団も各々の武器を取り出し、縦一列に並んだ。

 シルミも短剣を準備している。

 後方の歩兵に気が付かれ、笛が鳴り響く。敵方の陣形が整えられていく中、一人だけ馬に乗った司令官らしき男が声を張る。


「我はレスカ・セルシディア男爵である!!我が軍は敵意のない者には無益な殺傷はしない。今すぐに馬を止め、投降せよ!」

「シルミ、絶対に馬から落ちないように。これは魔王の命令よ?」

「ふぇ?」


 黒馬の速度が上がり、敵方の兵士たちが姿勢を低くして、盾と槍を構えて衝撃に備えている。

 ……タイミングは一度。でも、問題はない!

 

「飛べっ!」

「——ふぇぇぇっ!?」


 槍に触れる寸前で黒馬は大きくジャンプ。

 盾と槍の壁を飛び越え、敵の戦列に飛び込んでいく。

 運悪く着地点にいた兵士が踏み潰され、私が双剣を奮って槍兵と盾兵の列を崩壊させる。

 崩れた防御陣形に、後続がすかさず追い打ちをかける。


「て、撤退!!」

「に、にげろっ!!」

「死にたくない、死にたくないっ!!」


 敵軍はあっという間に混乱状態となった。走り回る黒馬も敵兵を蹴り飛ばし、鎧ごと頭を砕いている。

 さて、と。あいつを殺せば、この部隊も終わりだろう。

 双剣の片方を投擲。なんとか男爵の乗っている馬の頭部に命中し、本人は落馬する。


「貰ったぁ!!」

 

 残る一本の剣も投擲し、今度は足に命中。悶絶している男爵の腹を黒馬が踏みつけた。


「ごぶぁっ!」


 男は噴水のように吐血し、白目を剥いて気絶した。いや、死んだのかもしれない。

 

「シルミ、短剣を貸して」

「元々ヘル様が貸してくれたものですよぉ」

「そうだっけ?」


 黒馬から降り、渡された短剣で男爵の首を刈り取る。複数の武器が地面に落ちる音がした。

 すでに敵兵の戦意は無い。このまま放置しても問題ないだろう。

 

「よし、そろそろ行くよ」

「「「はっ!!」」」

 

 血が滴る武器を構え、私たちは先を急いだ。

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