魔王許可の侵攻計画
「この度は召集に応じてください、誠にありがとうございます。魔王様より対応を任されました、ジュリアナ・ローゼッタと申します」
「知っておる」「おひさ〜」
私は表面上の挨拶に対し、龍の鱗を持つ巨人と褐色肌のハーピィが軽く返答します。
前者はディラス家当主のルザス・ディラス。
後者はセルベーラ家当主代理、リーナ・セルベーラですね。
六大侯爵のローゼッタ家繋がりで、お二人とは何度かお会いしたことはあります。
ルザス公が短く息を吐きます。
「ジュリアナよ。堅苦しい挨拶は無し、といつも言っておるだろう。リーナが眠ってしまう」
「ちょっと!私に対する評価が酷くない!?これでも、三大公爵の一角なんですけど!」
「ふんっ。若造が調子に乗るでないわ。……父親の体調はどうだ?」
リーナさんの父……エルディ・セルベーラ公は現在、謎の病に耽っています。
たまに目を覚ますこともあるようですが、基本は眠ったまま。私も進展が気になります。
「ん〜ちょっと顔色良くなってきてるよ?前より起きてる時間が長いし。最近はりんごばっか食べてるけど」
「そうか……何かあったら連絡をよこせ。ディラス家はエルディに大きな恩があるからな」
「おじじは真面目だねぇ」
この二人。性格は真反対ですが、それなりに仲が良いんですよね。
ルザス公は真面目で頑固ですが、本心ではリーナさんのことを悪く思っていませんし。
リーナさんもルザス公のことを『おじじ』と呼んでいますし。
話もひと段落ついたところで、早速本題に切り込んでいきます。
「それでは、本題に入らせてもらいます。お二人にはどこまで話が回っていますか?」
「ロイス嬢の作戦案」「同じく〜」
二人が揃って耳を指で示しました。
流石は公爵。頼まずとも、こちらの通信魔道具と魔力の波長を合わせ、情報が常に伝達されています。
私も支給された通信魔道具を身につけています。はい、このイヤリングですね。
「魔王様の許可が……出ましたね。となると、私たちの役目は地上の注意を惹きつけること。魔王城東部のレディア平原を中心に陣を展開していただけますか?」
「……却下だ。レディア平原はアキツに近い。今あの国と敵対するのは避けたい」
アキツ——あの国は、まともに正面からぶつかって勝てる相手ではない。
世界最高の暗殺集団であるシノビ。
魔法技術を失った代わりに、近接戦闘では無類の強さを誇るサムライ。
ルザス公の言う通り、死を恐れぬ彼らと戦うのは自殺行為ですね。ならば……
「では、国境沿いで待機している貴族と共に全線を一気に押し上げてください」
「具体的には?」
私は光魔法で地図を展開。大陸最北の都市であるアンティラのすぐ近くに針を指します。
二公爵の目が丸くなりますが、気にすることはありません。
「最低でも【聖王の丘】まで。お二方の実力であればなんら問題はないかと」
「冗談か?」「冗談よね?」
「無理なのですか?」
私はわざとらしく耳元のイヤリングを触ります。二人の顔が苦痛に歪みました。
ここでの会話は全て魔王様に届いている。つまり、魔王軍に並ぶ戦力を持つ三大公爵は引こうにも引けない。
【聖王の丘】が取れたらこの戦いはとても楽になる。相手の出兵を牽制しつつ、こちらの飛竜を展開する陣が組みやすい。
通信魔道具が明滅。周囲に遮音結界が構築された。
『ジュリアナ、ちょっといい?』
「はい、問題ありません」
『……簡潔に。【聖王の丘】は確かに取れたら強力だけど、犠牲が増える戦い方は却下よ?できるだけ消耗は少なくね。それと、あなたの本来の役目は食料の安定補給。そこは忘れないように』
「かしこまりました」
……否定はしないんですね。魔王様も、あの丘の重要性を知っているのだろう。
犠牲を少なく、ではなく消耗を少なく。彼の国にとって【聖王の丘】は国宝と同義。
必ず兵は送られる。なんとしてでも取り返しにくるはずだ
遮音結界の向こうで、二公爵が親指を立てた。
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