ママ、魔族と人間差に戸惑う

 私が魔王となって初めての戦前会議が始まった。

 ロイスによると、魔王城に常駐している兵士の数は約一万。各方面からの貴族の支持があれば十万まで増える。

 対するアンティラは約五万。数ではこちらが有利だが、彼の国の別名は機械の国。

 ゴーレムやら魔道具やら、人ではない戦力は無数にいるだろう。

 まずは最初の関門。

 

「……貴族は兵を出すかしら?」

 

 私の知る各国の貴族は二つに分けられる。

 ひとつは、国に忠誠を誓い、自ら先頭に立って戦場を駆け回る者。

 もうひとつは、どんな状況でも権力欲を爆発させる変な奴ら。

 数で言えば前者は三。後者は七。地位が高ければ高いほど、権力欲の高い連中は多い。

 目を瞑り、商業担当を問いただす。


「ミシェルはどう思う?」

「あと数分もすれば到着するかと。魔王様にお伝えする前に、すでに各諸家には連絡を終えております。先ほど当家からも、『いつでも出撃可能』との連絡もありました」

「……うん?」


 落ち着け、落ち着くんだ私。土壇場で話が噛み合わないのはよくあること。

 まぁ、ミシェルの実家のミルハイナ公爵家は魔王領の中でも指折り三本の大貴族。その協力が得られることが確定したのは良い話だろう。

 ……気を取り直して咳払い。


「こほん。とりあえず、ミルハイナ家の協力は確定した。他には——」


 次は誰を名指しで当てようか。そんなことを考えていると、会議室の扉が勢いよく開かれた。


「お取り込み中失礼します!ディラス公爵、並びにセルベーラ公爵軍が到着。六大侯爵は地方貴族を取り込みつつ戦力を拡大。レベリア公爵を除く全部隊は前線の砦へと移動する予定です!」


 ……私の知っている悪徳連中はこの国にはいないのか?後方で偉そうにしている奴はいないのか?

 なぜ前線に行った!死にたいのか!?魔王の部下は死にたい奴らばかりなのか!?

 本当に頭を抱えたくなる、が今は我慢。農業担当のご令嬢に目配せ。


「……ジュリアナ、対応を任せるわ」

「了解しました!」

 

 転移魔法が発動。兵士の姿も消え、会議室に静寂が戻る——ふっ、と小さく息を吐く。

 まずはミシェル。


「これは、明日にでも出撃ができそうだね。前線の食料供給は大丈夫かしら?」

「問題ありません。商人組合からも全面協力させてくれ、と要請が来ております」 


 次は工業担当のイリアス。


「兵士が扱う武器の分布は?」

「主戦力となる『漆黒改』はすでに前線の各砦へと運び込まれています。数はおよそ四万。アンティラのゴーレムや無人魔道具を一撃で貫く威力特化型『黒斬』が約二万。長射程が特徴の『宵闇』が一万。槍や剣は無数にあります」


 ……ご、ゴーレムを一撃で貫くのは流石に無理でしょ。

 普通に殴っても凹むだけ。魔法に対して異常な耐性がある。おまけに壊れるまで動き続ける頑張り屋さん。

 味方だと頼もしいけど、敵になるとすごい面倒だなぁ……とか考えた矢先にこれですか。

 てか、何勝手に魔導銃を改造してるのよ。あれはオルクの発明で、あの形が最もバランスよく弾を放てる……あ。


「形を変えれば威力や射程を変えれる。全部を伸ばすことはできなくても、何かに特化することは可能なのか」


 なるほど。完全に納得しました。武器の余裕はある。あとは兵站組織。


「ロイス」

「右翼の重装備部隊が約二万。左翼の飛竜部隊が三万。先鋒は六大侯爵が話し合いの末、全員で突撃することに」


 仲良しか。


「魔王軍も前線へ移動した方が圧をかけられますので、六大侯爵が前に出ると同時に、魔王軍も進軍を開始。本営が手薄になってしまうので、魔王様もついてきてください」


 総大将が前線に。


「六大侯爵軍には戦場に散りばめられた敵の対処を要請。彼らが暴れ回っている間に丘を取り、本営を前に動かします」


 本営も前に。


「あとは、丘を起点に工作兵を派遣。飛竜部隊と合同で空を飛び、アンティラ内部へと空襲を行う予定です」


 防御の高い敵とはそもそも正面から戦わない。相手が崩れるのを待つ、いい判断だ。

 私もアンティラへの総突撃はやめたほうがいいと思っている。あの国はあの国なりに強いのだ。

 ロイスにしては満点の回答だった。

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