工業国の娘と王
「それでね、最近はデザートの甘いケーキがすごく美味しくて、今度オルクも食べにきてよ」
「それは無理。私はこの部屋から出てはいけない。国王との約束。私を匿っていることが知られたらら他国と戦争になりかねない」
「けちー」
物好きな友人は頬を膨らませながら、大皿に乗ったクッキーをもりもりと食べた。
次から次へと出てくるお茶菓子の数々。去年の誕生日プレゼントにマジックポーチを渡したのは間違いだった。
異空間に様々なものを収納できる便利道具だけど、もちろん重量制限はある。ただ……
「お菓子は重くない」
「ん?どうかしたの?」
物好きな友人が次に取り出したのはどっさりと茶葉が入った軽くて透明な容器。
まさか、金魚を入れる水槽が欲しいという願いをこんなにも悪用されるとは。
「茶葉も重くない」
「オルクもお代わり、飲む?」
「いただきます」
魔力さえあれば炎の魔石が反応してお湯を沸かしてくれるポット。
軽くて丈夫、そのうえに透明なコップ。
大きさや高さが変形するテーブル。
「ふふふ〜ん♪」
まだ国王には話していない試作魔道具たちだが、この様子なら市場に流してもいいかな。
友人——第一王女のアンティラ・フォン・ユリアーナ様の後ろ盾もあるし。
当面の資金にも困らない……いや、それは元から困ってないか。
「ねぇ、さっきの話なんだけど……」
「なに?」
「オルクには、オルクと同じように他国で何かをしている家族がいるのよね?」
「うん。リナン姉さん。エイシュ姉さん。その次が私。あと下に四人いる」
「その人たちに会いたい、とか思わないの?」
ポットが音を立てて湯気を吹き出した。いつもより随分と沸くのが早い。
ユリアの感情に魔力が反応して火力が上がったのだろう。暴走しないのは彼女の技量ゆえか。
「私たちは喧嘩をした。誰が母親に——ヴィナに一番近いのか、というくだらないことで。私はそれを後悔していない。今は一時休戦だけど、最後は絶対に私が勝つ。私にできることは武器を作ること。それと——」
「ん?」
空になったカップを友人に見せる。
「こんな私に付き合ってくれる物好きなお姫様とお茶会を嗜むこと、かな?」
「〜〜〜っっ!!!」
友人が瞳を潤ませ、声にならない悲鳴をあげる。相変わらずの百面相。たまにはいいこと言わないとね。
友人が何かを言おうとする——扉を強く叩かれた。
『姫様っ!!ここにいるのでしょう!!オルク様の迷惑をかけてはなりませんっ!!』
さて、と。扉の向こうも騒がしくなってきたし、そろそろお開きかな。
私は椅子から立ち上がると、壁にかけてある設計図を捲る。現れたのは、ユリアの自室に繋がる一方通行の出口だ。
「じゃ、またね」
「うん。また来るね」
「今度は許可を得てからくること」
「善処しま〜す」
ユリアの姿が消えたのを確認し、設計図を元に戻す。部屋の鍵を閉めている魔道具を解除すると、外から初老の男性が飛び込んできた。
「姫様!今日こそ観念して……くだ……あれ?」
「ごめん。ちょっと寝てて反応が遅れた。ユリアは来てないよ?」
「そんなはずは……全ての部屋を見回ったはずです。残っているのはここ——」
「自室は見たの?ユリアの部屋は男子禁制。扉を叩いて反応なしなら、私と同じで昼寝してたとか」
「そ、その案を見逃しておりました。大変申し訳ございません。至急、確認に行ってまいります!」
お〜速い。流石はアンティラの最高戦力。国王の懐刀。速度だけなら数年前のリナン姉さんにも勝ってる。
さて、あの人がわざわざユリアを探してるってことは、国王は本気で動こうとしている。
ユリアと私の仲が良いのは、国王の耳にも届いているはず。他の場所に姫がのこのこ行くとは考えにくい。
姫を探すなら、真っ先にこの部屋に来る。
「国王様、手短に。ユリアに勘づかれる」
「善処しよう」
部屋の影から現れたのは、立派な白髭を蓄えた糸目の男。随分と若々しいため年齢は不詳。
アンティラを統べる当代国王——アンティラ・フォン・エルアストは頷いた。
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