ママ、ママに会う
「ママさん!食堂の設計なんですけど……」
「そうねぇ。ここに柱をつけたら安全性が増すんじゃないかしらぁ」
「ママさん!ここの畳は……」
「それは張り替えるからまだ置いておいてぇ」
「ママさん!」
うん。漢たちの熱気が凄まじい。
現在、魔王城地下は絶賛工事中。ちなみに、番頭のバイト女子は社員食堂を手伝っている。
手際が良くて可愛がられているらしい。
それよりも……
「シルミ、頑張ってるわね」
「あぁ〜!ヘル様じゃないですかぁ。ごめんなさいねぇ。少し席を外すわぁ」
『うっす!ママさん、いってらっしゃいっ!!』
なんだこのカリスマは……私ですら幹部と打ち解けるのに半年かかってるつーの。
やはりこの胸が……いや、太ももか?牛の獣人恐ろしや。
私は空中から適当に見繕ってきたお菓子を取り出しておく。シルミがそっと耳打ち。
「……ヘル様、今日はいつもと雰囲気違いますねぇ。とっても可愛らしいですよぉ?」
「これは外出用の姿ね。あの人たちに依頼しに行ったときはこの姿だったから。……まさか魔王が直接出向くなんて考えられる?」
「あぁ……それもそうですねぇ」
今の私の服装は、大きな白い鍔のある帽子を被り、真っ白なワンピースを着た貴族の娘。
肩から先を出すのは少し抵抗があったが、案外着てみると悪くない。
ちなみに、私の役職は『魔王軍が住民にとって身近に思えるような存在を目指す者』だ。
いきなり街の大工達に、魔王軍が介入すれば警戒されちゃうからね。
「とりあえず……はい。休憩の時につまめるお茶菓子と果実水のボトルね。上の社員食堂まで戻るのは大変でしょう?」
「わあわぁ、ありがとうございますぅ。そろそろ休憩にしようと思っていたので、ヘル様もご一緒にどうですかぁ?」
「わ、私も!?」
仕事は片付けてきたし、この大浴場改造計画が終わるまで新しいことに着手する気はない。
一応、私は魔王なんだけどなぁ……うっ。
「駄目……ですかぁ?」
……シルミの笑顔が眩しい。まるで彼女の目から光線が放たれているようだ。
数秒間の葛藤——頬が自然と弛む。
「——えぇ。ご一緒させてもらうわ」
「ありがとうございますぅ。皆さーん、休憩にしますよぉ」
『うっす!ママさん了解っす!!』
……ちょっとこの現場は怖いかもしれない。
適当に錬金術で作ったお盆に、クッキーやら煎餅やらを乗っけて——あれ?
「乗せた菓子が全て消えている……」
周りを見ると、大工達の手には乗せたはずのクッキーや煎餅が。は、速すぎて見えなかった。
私が戸惑っていると、シルミが頬を膨らませる。
「こら〜。ヘル様を困らせちゃ駄目でしょ?その速度は工事中に使いなさい!」
『も、申し訳ございません!』
流石は魔王城地下のママ。子供たちの扱いに慣れてい……ふと疑問が浮かぶ。
「シルミって、今何歳?」
「内緒ですぅ〜。でもぉ、ヘル様が教えてくれるなら考えてもいいですよぉ?」
「私は……八十と少しじゃないかしら。昔は見た目も頭も若い状態で固定してたから、今思うと相当なおばあちゃんね」
前世の私——ヴィナが養子をとったのは七十歳。見た目も中身も二十代だけど。
引き取った養子の数は七人。全員、戦災孤児だったところを引き取った。
あの時の私は、もう戦いたくないっ!と自暴自棄になってたからなぁ……その結果、あの子たちと出会えたのだけど。
「ヘル様は今でもお若いですよぉ?」
「私はまだ一歳だからね。そりゃピチピチの若い女よ?」
「……せめて十八歳ではぁ?一歳はちょっとやりすぎだと思いますぅ」
「真実なのだから仕方がないでしょう?」
空中に菓子袋を投げ、風魔法で外の袋だけをズタズタに。お盆も浮かべ、空中でクッキーや煎餅が割れないようにキャッチ。
拍手と指笛が鳴り響く中、菓子を乗せたお盆が回っていく。
あの子たち、元気にやっているかなぁ。
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